次元を斬る魔剣
金さえあれば、なんでも出来る?事実だ。僕が勇者について行く前……ある裁判の判決に憤りを感じた事を覚えている。
それが、貴族子息及び、商会子息の金持ち集団が、平民の女を何人も攫って、嬲った事だ。
詳細は民衆には広がりはしなかったが、裁判記録というのは残るので、気になって見せてもらった事がある。
主犯は、クーラント貴族のジャン子爵の息子、ヒルカ。そして、クーラント商会連合のどら息子達による……酒飲みの集まりがあった。
彼らは平民の女たちを攫い、別荘でそれはもう、好き勝手に嬲った。目を覆いたくなる所業で十数人の肉体と精神を破壊して、通報により捕まった。
が、事を荒立てたくないジャン子爵、商会メンバーは、金銭により司法介入、示談金を支払い、保身に成功したとある。
平民達は金貨袋を前にふざけるなと嘆いたが、逆に守銭奴扱いを世論から受け、この事件は終わった。
今現在も、このヒルカの集まりは解散しておらず、言えない事をしている噂が広まっていた。
「実際に会った事は無いが……まさか」
「リデ、何か思いついたの?」
「あぁ、とりあえず東の町へ……デルシ、ここに向かおう」
僕は地図を指し示し、離れた町を指で丸を描いて示した。
「結構な距離ね、歩いてどれくらい?」
「3日はかかる」
「長いね、その間にルーナ……攫われてたら危ないわよ」
「まだ分からない、けど、そうかもしれないな」
避難で止まって欲しい、この火事が事故で、災害であって、皆避難していて欲しい。しかし不安が見つかったのだ、さっさと向かいたいのは山々だ、だけど……移動手段はどうしようも無い。
「……分かったわ、リデ、私に任せなさい」
「何?」
「3日と言わず、すぐに行けるから」
ヴァルスがそう力強く言うと、チノパンと開襟シャツが肌に消え、ビキニアーマーに変異した。そこから右手をかざし、瘴気が蠢くと、右手が放電するや何かを掴んだ。
「ふぅん!」
そして現れた、濃い紫色の魔法円。そけから引き抜かれた剣に、僕は思い出す。彼女との死闘で、扱っていた魔剣だった。まるで生物の様な蠢きと、鏡面の如く磨かれた片刃の剣……。
「魔剣ディム・ジオネ、次元を、切り裂きなさい!」
そう叫び、ヴァルスが剣を振り下ろせば……空間が歪み、亀裂が入った。ぐぱりと広がる先には、常闇しかない。
「どんな原理だ、次元を切り裂くなんて……」
「さぁ、行きましょうリデ」
「え、いや、これ大丈夫なのか?」
「信用しなさいな」
次元の常闇に足を踏み入れる彼女が、僕に手を伸ばしてきた。魔法でも、次元に亀裂を入れるなんて絵空事である。それが、今一人の魔族の剣の一振りにより為されているのだ。
「大丈夫、死なないわ、死なせない……ね?ダーリン」
「それ、やめてくれよ」
「でも呼びたくなるくらい、愛したじゃない」
お茶らける彼女の伸ばす手を握りしめ、僕は人生で初めて、絵空事である次元の狭間に飲み込まれていった。
感覚としてはぬるま湯の浴槽に潜った気分だ、皮膚がちりついてぬくぬくして、足も地面を掴めない。景色は……黒やら白やらが広がっては消えて行く。
「決して離さないで、離したら私でも貴方を見失うわ」
「あ、ああ」
論文書いても信じてくれねぇだろうな、これが、次元の狭間、次元の回廊。時間も空間もクソもない狭間の世界。
「なぁ、これでこじ開けてさ、僕達を押し込んで殺せば勝てただろう?」
ふと、僕はヴァルスにそう言った。この剣の力で次元を開いて、僕達を閉じ込めれば勝てただろうにと。ヴァルスはくすりと笑って応える。
「残念、開くし私は入れるけどね、こうして触れ続けてないと弾かれちゃうのよ、この剣がいわば鍵代わりで通行手形なのよね、だから押し込むのは無理なわけ」
意外とピーキーな仕様らしい、しかし気持ち悪くなってきた、上下左右が掴めない、手を掴んでいる感触も全く無いというか、触覚が鈍ついているみたいだ。
「じゃあ……あれか、あの時は剣だけで戦っていたのか?」
なら、魔剣の力云々ではない、剣技と魔族の膂力であの時は戦っていたのかと尋ねる。
「私にはそれしか無いからねー、だから、負けて殺された時……少しショックだった」
「僕らからすれば、剣だけでボロボロにされたからショックだよ……あれから僕2日寝込んだんだから」
「たった2日?」
「その2日間、勇者達が交代で寝ずに看病と魔法を掛けてくれた、死んでもおかしくなかった」
「死ななくてよかったわね」
「お前は何故死ななかった?」
「魔族は心臓一突きじゃしなないわ、でも……ある意味殺されたわけ」
「くだらん事言わない」
「もう、ほら、着くわよ」
回廊の先に光が見える、よく見たら彼方此方にも光が見えた。彼女が繋げているのか、元々あるのか知らない……兎に角、エルフ達がどうなったのかは、デルシに付けば分かるだろう。
しっかりと、感覚の無くなりそうな手で、僕はヴァルスの手を握った。




