第6話 ~とき〇モかよ~
桜の樹の下で云々……。
『ララ~ラ~~~♪♪♪』
佐夜が【レニアナ】に落ちて約2ヵ月(約60日)が経過。
現在の時刻は夜9時。佐夜は今、居候しているイングの家の屋上で毎日の日課である発声練習をしていた。
「よ。精が出るなサヤ」
「ラ~~~ってイングか。何か用?」
「いや、何も? ただ明日試験だからな。何となく眠れない時にサヤの声が聞こえたから様子を見に来ただけ」
「そ。相変わらず心配性だな」
「眠れないから来ただけって言ったろ」
「じゃあ暇人だな。あ、あ。ララ────ラ──ラ~~~♪♪」
数日前に試験の話が出てからは毎日、模擬戦についての作戦や陣形について語り合い、実際に並んで行動したり、リンドやアイナにも手伝ってもいながら敵を倒した後の対応や、緊急時に措ける援護、声掛けやアイサイン、ハンドサインによる前衛撤退&後方魔法攻撃等々、7人になった事で色々と戦闘のバリエーションが増え、イング達のやる気も出て来ている。
ちなみに各ポジション配置は近接戦闘メインである拳闘士ニケが一番前。
その次に同じく近接戦闘がメインの剣士イングを配置。
真ん中に接近戦&魔法にイマイチ決定力に欠けている双子のノンとロロを配置。これは前に居るイングとその後ろに佐夜が居るのでこの双子は臨機応変の遊撃手扱いだ。
佐夜はこの双子の後ろに配置。錬成術で後方にいる魔法使い組の護衛やイングと双子の援護、更に敵の攻撃の妨害と全体の指揮がメインに当たる。
そして一番最後に居るのがタックとマナだ。タックは小魔法を手早くバンバン打つ牽制型魔法使いで変な罠を使用する。
マナは時間が掛かるが大魔法を放つ。合図は佐夜に伝えタイミングを計る。
ちなみに何故佐夜が指揮を執っているかというと、イングの思い人(?)であり、ニケや双子には餌付けで懐かれ、マナにはライバル(?)的信頼で、タックはノリだ。他の人が指揮を執ってもあまり上手くいかなく、佐夜が行ったら一発でスムーズに動けたのでこれで決まり。
色々決まったら後はひたすら練習し、ついに試験の前日にまで来た。
「じゃあイング。明日は頑張ろうな」
発声練習を終えた佐夜がおやすみの挨拶をしながらイングに拳を突き付けて、
「ああ、おやすみサヤ」
イングもそれに応えて佐夜の拳に拳をぶつけ、佐夜は先に部屋へと戻った。
「………今回こそは、絶対上位に食い込んでやるからな」
佐夜の居なくなった屋上で、イングは誰かにいう訳でもなく静かに決意した。
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そんでもって(?)試験一日目。
この日は朝の9時から12時までの時間が筆記でテスト内容が歴史、数学、古代文の三つで、佐夜は今回編入したばかりで(翻訳魔法が添付されている指輪で)会話は出来るが、文字の読み書きが出来ないがゆえに免除が許されている。
午後には闘技場にて魔法技能検定。簡単に言えば魔力値を測ったり、実際実演してどのくらいの魔法が使えるのかとかを採点する検定。この検定で本気を出して高評価を狙ってもいいが、そうするとこの後の模擬戦で対戦相手に対策を取られる可能性もあるので、みんなある程度の駆け引きをしているらしい。意味無いじゃねーか。
佐夜が体操服姿で午後の検定に向けて本校の空き教室でイメトレをしていると練成術の講師であるエロ爺【アルガド】がやって来て、検定に向けて軽くレクチャーしてもらい(勿論セクハラ含む)、昼食時に食堂へみんな(制服姿)が集合した。
「何か俺達、見られてね?」
「そウだne。SUっごI視線ヲ感じるyo」
タックが周りをキョロキョロしだしてニケが言葉を引き継ぐが、何かニケのニュアンスというか言葉自体おかしい。
「………ニケは筆記の勉強(一夜漬け)でだいたいこうなる」
「ああ、酷い時は野生化してコミュニケーションすら取れない時があるからな」
「そ、そうか。まだマシな方なのか……」
マナの説明にイングは苦笑する。過去に一体前に何があったのだろうか?
「いやそれよりこの視線だよ。何で俺らに向いてんの?」
「………多分みんなサヤに注目してるんだと思う」
「俺?」
マナの言葉に佐夜が首を傾げる。亜麻色のポニテも揺れる。
((きっとサヤが美人だからだろうな))
(サヤが美人過ぎるせい………)
(…………肉)
イングとタックとマナがジト目で佐夜を見た。
佐夜は今制服姿では無く体操服の為(男女の違いは無い)、他の人の目にはおそらく佐夜は女の子に見えているだろう。ちなみに現在コミュ障気味のニケの思考は肉(食べ物)に向いていた。
「「サ─ヤ────!!」」
と、そこへ1つ年下の双子が大声で佐夜を呼びながらみんなと合流した事でより一層注目を浴びる。
「ほい! 今日のお昼は『オセチ(っぽいもの)』……だ!」
といって佐夜は3段のおせちを2つテーブルに置いた。おせちといっても佐夜は元の世界に居た時にもちゃんとしたものを見た事ないので、それっぽい物を入れただけなのだが。ちなみに中身はというと、
「「「OH! ダシマキ(タマゴ)!」」」
「何故片言!? っとこれは何だ? 黒い……豆?」
タックと双子のノン、ロロが好物のだし巻き卵を前に似非外国人と化し、イングがギョッとなった。ちなみにだし巻き卵はこの世界にはない料理で佐夜がいつもの昼食で出した事からすっかりタックと双子(ノン、ロロ)の好物になっている。ついでにイングが箸で摘んだ物は黒豆(に似た物)だ。
「エビフライ、エビチリ……いっぱい」
「凄いな。こっちは一段丸ごと海老尽くしかよ。ん? このデロデロした黄色い物はマッシュした芋?」
マナの好物である海老(この世界では超安い)が一段丸ごとあり、イングが戦慄する。ちなみにイングが言った黄色のデロデロは栗きんとん(っぽい物)。
「肉ゥ────────!!」
「ニケやかましいわ!って今度は肉ばっかかよ!」
ニケのテンションがMAXになるほど入っていた肉料理は、からあげにミートボール、豚カツ(風)にローストビーフがぎっちり入っていた。
他にも筑前煮(風)や太巻き、きんぴらごぼうに紅白なます、里芋の煮つけに小魚の佃煮と、一段丸々のおにぎりが入っており、もはやこれはおせちではない気がするが、この世界では正月なんてないらしいので関係ない。
という事で、
「「「「「「「いただきま~す!」」」」」」」
と、手を合わせるという行為に、視線を向けていた人達はみなギョッとした。
一日目の午後、魔法技能検定の時間ではタック、ノン&ロロがふざけて(本人達は全力でやった)残念な結果になり、イングはいつもの普通(平凡)な評価。ニケは魔法が使えない為免除。そしてマナが火炎魔法『エクスプロージョン』で測定器を爆散させて検定員達の頭を痛くさせた。
そして佐夜の錬成術の場合、といってもこの世界の学生で錬成術を使える者は全生徒170名中5名だけだ(佐夜を含む)。なので検定の基準は曖昧で、何をやってもいいらしく、他の4名はいずれも『木造の家を建てたり』したのが2名、『飛んでくる凶器を瞬時に土を隆起させて防いだり(高度の技)』『高級な壺をわざと割り、それを錬成術で直そうとしていたが失敗』。
とりあえず気を取り直して佐夜の出番がきて、佐夜が検定員の前に来た。
「えっと…『サヤ・ミサト』さn……え、『男』!?」
「は? え? おい、嘘だろ。これで男……だと?」
「どう考えても生まれてくる性別間違ってる……」
「神様は不公平ね………」
と、言って混乱する検定員達に佐夜は苦笑する事しかできない。
「何よ。私より可愛いじゃない!」
「俺、変な趣味に目覚めそうだ」
「サヤたん。ハアハア………」
「おいおい、危ない奴等がいるぞ。気持ちは分からなくもないが」
「ああ、お姉さま(?)………」
見学に来ていた他の生徒たちの最早慣れた佐夜の性別の誤解に、佐夜の見学に来ていたイング達も苦笑するしかない。
佐夜を知らない人達が混乱する中、佐夜は錬成術で何をしようかと考える。一応候補として『防御壁』や『木の建物を作る』などがあったが他の人達が先にやった以上、二番煎じになるのは、なんかつまらない。
すると佐夜の足元がパキッとなり、見下ろしてみるとそこには木の枝があった。おそらく先ほど『木造の家を建てた』人の使った木材の破片なのだろうと佐夜が思った瞬間、佐夜の脳裏に電撃が走った。が、すぐさま「いやいやいや」と否定した。ようするにこの木の枝を媒体として使った良い案を思いついたのだが、己のちっぽけなプライドが邪魔をした。
「ミサトさん? そろそろ準備はよろしいですか?」
「え? あ、はい!大丈夫です!」
しかし検定員の女性の声で時間が来てしまい、佐夜は「仕方ない、ちょっとの我慢だ」と言って手にした『木の枝』を両手に挟み、『枝』を『分解』する。
そして分解した枝を媒体に『とある樹の種』を想像して品種改造する。
そしてその種を闘技場の地面に埋め、某錬○術師を真似て南無南無し、地面に手を付け魔力を『種』に送り込み、発芽させて成長、そしてイメージした通りの樹を闘技場に生やして急成長させた。
「何だあれ? 枯れ木?」
「おいおい、失敗かよ(笑)」
「ぷっ! 無様だこと!」
佐夜の生やした5mはある枯れ木に闘技場にいた者達は「失敗か……」と溜息ついてたり嘲笑ってたりしたが、
「よし、第一段階は完了!」
そう、これは枯れ木(失敗)ではなく、『花びらが散った後の木』である。なので本番はこれからで、佐夜は再び両手を合わせ南無南無~。そして、
「えいっ!」
と、『花びらの付いていない木』に手を当てて、木の内部から錬成し、木の枝から『とある薄ピンク色の蕾』をポポポポっと生やす。
「なあ? サヤは一体何してるんだ?」
「さあ?」
タックの疑問にイングが答える。少なくともイングにも分かる筈がない。
もう分かった人もいるだろうけど、佐夜の錬成したこの木の正体は、『桜』だ。もっとも佐夜も桜の品種については何も知らない為、何の品種に当たるかは謎だ。
「そして、これで、完成!」
もう一回桜の木に手を当てた佐夜は『蕾』の状態から『花びらが咲いた』状態を通り越して『花びらが少し散り始める』状態にまで持って来た。
そして、みんなの方へ振り向いて手を後ろに組み、笑顔になる。
ズキュ──────ン!!
「「「「「はうぁっ!?」」」」」
桜と(見た目)美少女の笑顔という2ショットに、通常この世界では絶対に出来無い光景に皆、心を奪われた。少し悔やまれるのは佐夜が女子制服ではなく体操服を着ている事だ。もし女子制服でやってたら完ぺきだったかもしれない。
「バッキュ───ン!」
「「「「「「「はぅわっ!!?」」」」」」」
バタバタバタバタ………………
止めと言わんばかりの銃を打つ真似&ウィンクで、闘技場に居た人達のほとんどが男女を問わずハートを撃ち抜かれ、そのうちの半数以上が気絶し倒れた。ちなみに検定員の人達は鼻血を垂れ流しながら全員『10.0』の札を上げていた(そういう採点の仕方ではない)。
「ちょっと……何のコントなんだいこれ?」
「………サヤ、恐ろしい娘」
佐夜耐性のある二人が冷静にツッコむ。ちなみにイング、タックそして双子のノンとロロもハート撃ち抜かれて倒れている。
最終的な佐夜の評価は何故か『普通ランク』だった。佐夜は錬成の熟練度では他の人達にはまだ全然敵わないので『技術』ではなく『芸術』で皆を魅了した。しかしこれは技術的な検定なので、傍から見たのなら『単に見た事の無い木を生やし、花びらを咲かせた』だけなのだ。
普通ならこの時点で最低ランクになるところだが、それでも普通ランクに収まったのは、その後の佐夜の行動によって皆を魅了し『倒した』事による評価だ。倒したのなら芸術ではなく『魅了』という技術に入るらしい。なので佐夜は『普通ランク』に何とか格上げされた。
「サ、サヤはやっぱり只者じゃなかったn───────」
「あはっ|(超笑顔)」←悪ふざけ
「「ぎゃっはぁぁ!!」」
一日目を終え帰宅途中、(先ほどの光景を思い出し)胸を押さえながら言うタックに悪ノリした佐夜が女の子らしくウィンクし、タックだけでなくイングも巻き添えで撃沈し、道端で屍となった。
「………魔性の女」
「だねぇ~」
「あ、あははは………」
佐夜の悪ノリで倒れるイング達を見て、マナとニケがそう呟き、佐夜本人も少々やりすぎたとバツの悪そうに頬をかいた。
そして翌日。試験2日目。模擬戦が始まる。
はい、どうみても『と〇メモ』です。
そもそも桜の木の下での告白なんて誰が考えたのだろうか?