第3話 ~言葉の壁と逃げるイング~
今回は原文の3話と4話を足して改編した内容となっています(短かった為)。
佐夜が幻想界【レニアナ】に落ちて来て、はや二週間。
全身打撲と血液不足で寝たきりだった佐夜はようやく普通に動けるようにはなった。
とはいえ、相手が日本語で話していない以上、相変わらずこの世界の住人達との会話が通じない。
ちなみに佐夜が起きてイングと最初に会話した時、
「×? ×××××××××××××。××××××? ×××××?」
「えっと………」
………相手が英語とかフランス語とか少なくとも地球のスペルで話している訳じゃないというのは佐夜でも分かるが、何を言ってるのかが本当にさっぱり分からない。
佐夜が首を傾げていると、
「××××? ××××××××? ×××××。×××××××××××××。××××××××××××××××××××××××××××。×××××?」
「あ、あのな………」
さらに通じない言語で捲し立ててきた事に佐夜は少々不機嫌になる。しかしイングは更に、
「××、××××××××××××××××××××××××───────」
「日本語で話せ!」
「ふぁぶぁ!?」
不機嫌MAXになった佐夜は枕をイングの顔に投げ、当たったイングが仰け反る。
ちなみにイングは佐夜にこう言っていた。
『お? ようやく目が覚めたのか。体調はどうだ? まだ痛むか?』
『ここがどこだって? ここは学校だ。そして俺はイングって名前だ。お前が鎮守の森っていう所に落ちて来たから救助したんだけど。覚えてるか?』
『おい、さっきから何で黙ってるんだ? 何か言ってくれないと俺もどうしたらいいか分かんないって───────ふぁぶ!?』
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少女?(佐夜)に枕を投げられ退散したイングは、少女(笑)が食べたとされる朝食の皿を持って台所に戻って来り、そこに居た母親のアイナと朝食を食べに来た学び舎の女性陣(ニケ、マナ、ノン、ロロ)に冷やかされ、誤解だと説明。
ついでに佐夜と言葉が通じなかった事をアイナに説明した(佐夜の発した言葉がイングにも通じなかった故)。
するとアイナが何かを思いついたのか、ポンッと両手を合わせ、数十分後に何かを持って佐夜の部屋に行き、その数分後、学び舎の女子制服を身に纏った佐夜と一緒に出て来た。
「な、何でこんな格好に………」
羞恥心MAXで真っ赤になっている佐夜にアイナがニヤニヤしてる。一体何があったのだろうかとイングは思ったが、
「あれ?言葉、通じてる?」
「「あ、ホントだ!」」
眠たげな無表情のマナが佐夜の発言した言葉に気付き首を傾げ、双子(ノン、ロロ)も佐夜を指差して言う。
「……へぇ、こうして見ると本当に美人だね」
「~~~~(赤面)」
「うふふふ♪」
近寄ってジロジロ見るニケに赤面する佐夜。その状況に頬に手を当てて微笑むアイナ。
「何かごめんな。母さんにつき合わされて」
「え? あ、いや、こっちこそ、これを渡されたお陰で言葉が通じるようになったからこれくらいは!(赤面)」
といい、顔を真っ赤にしてスカートを出来るだけ下に下げようとするその仕草にみんなほっこりした。ちなみにアイナが佐夜に渡した物は、指輪をシルバーネックレスで通した物で、指輪は翻訳魔法を施された物でネックレスはアイナからのプレゼントらしい。
これのおかげで佐夜とこの世界の住人達は意思疎通できる様になった。
そして次なる問題は、
「……クンクン………あれ?」
「「…………え?」」
亜人特有の嗅覚で佐夜の匂いを至近距離で嗅いでいたニケと双子(ノン、ロロ)の三人がある事に気付いた。
「? どうしたの?」
他の三人同様佐夜との距離が異常に近い、というか佐夜の綺麗な顔の頬をムニムニしているマナが、首を傾げる三人の変化に気付いた。
「あ、あのさ。『俺』今こんな格好されてるけど─────────」
佐夜の『俺』発言に皆ギョッとして、女子学生と化している佐夜を見た。そして、
「俺、『男』なんだよ?」
「「「「「…………え?」」」」」
ようやく自分の性別をカミングアウトした佐夜に今まで女の子だと思い込んでいた5人(アイナを除く)は石化した。そんな5人に佐夜はもう一度言う。
「だから、俺、男、なんだってばっ!」
「「「「はあああああ!?」」」」
「………………」
佐夜の叫びに、学び舎(&イングの家)に4人(ニケ、マナ、ノン、ロロ)の驚きの声が木霊した。イングは無言で石化から砂になりかけ、アイナは「あらあら」と悪戯がバレちゃった的な表情で微笑んでいた。
その後、みんなの大声にリンドがやって来て、佐夜以下略でまた驚きの声が木霊する事になる。
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閑話休題
マロン「ふぁ!?」←何故か原文に無かった所に出されてビクッとなる謎の人。
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そして佐夜の(性別)カミングアウトから2週間後、佐夜はイング達の通う学び舎の一室で錬成術の鍛錬に勤しんでいた。
カミングアウトした後、佐夜が男だと知って尚更、余計にベタベタしだした亜人達(ニケ、ノン、ロロ)に最初から男だと分かっていたであろうアイナ。言葉を失っているマナに、完全に砂になっているイングを見て事情を知ったリンドはとりあえず皆を落ち着かせた後、佐夜から事情を聴き、何やら思いついた様子で王都に行った。
その後、戻ってきたリンドの話の中に、この学び舎に佐夜が編入することが決まって、王都の本校の教師が佐夜を見て「え?これ男?女の子じゃないの?」といって本人と揉めた事は容易に想像出来るだろう。
ちなみに王都にある学校が『セルニア魔法・騎士学園本校』でその本校とは別に、分校扱いになっているのがイング達6人が通っている『アルケシス』だ。分校扱いになっているのは何故かというとここは所謂本校で落第ギリギリの『落ちこぼれ』達が集まり所でつまりイング達は全員落ちこぼれ(一部例外)だと言う事だ。
リンドは街の役所に佐夜が目を覚ました事と学校に通わす事を相談しその後、本校の教師と佐夜のいざこざの後、さすがに異世界から来た人間をいきなり本校に通わす訳にはいかないという訳で、佐夜の所属が『アルケシス』に決まった。
その後の適性検査で佐夜は『錬成術』の才能がありだと言う事が解り、王都の本校から専属の教師が時々やって来ては佐夜に授業という名のレクチャーを行っている。が、その教師がとんでもないエロ爺で、佐夜を完全に『俺っ娘(女)』だと思い込んでいて(ボケているんじゃないだろうか?)セクハラばかりしてくるのだ。
一応相手は教師なので最初のうちは佐夜も我慢してたのだが、さすがに尻を撫でられた時は大いにキレでこのエロ爺をぶっ飛ばした。さすがにやりすぎかと思ったが次にはケロッとした表情で再びセクハラを仕掛けて来る爺に「あ、遠慮は無用か」と、変な事をされたら容赦なくぶっ飛ばす光景が日常茶飯事なった。
そんなこんなで2週間後、今はそのエロ爺(名前は『アルガド』)はいない為、今は錬成術の基礎である『精神集中』と『イメトレ』をこなしている。
「あ、いたいた。サヤー!」
「サヤー!」
「ん? ああ、ノンロロか……ってだから近いって、くすぐったい!」
自主鍛錬をしていたそこにリスの双子であるノンとロロがやってきた。来たのはいいが毎回何故か距離が近い。どのくらい近いかと言うと胸元や首筋に鼻を押し付けてクンカクンカされるくらい近い。というかほぼ0距離だ。
ちなみにニケにも全く同じことされるが、何でこんなに懐かれている(?)のかというと、どうやら亜人(全てではない)には佐夜の男と女の混じった様な匂いが好きらしい。だから女じゃないっていうのに。
「で、何か用?」
何とか二人を引き剥がした佐夜は溜息を付きつつ、自己鍛錬を中断した。というかこう纏わり着かれたら鍛錬どころじゃないから。
「「お昼ご飯、作って!」」
「……もうそんな時間か。分かったよ。何がいい?」
佐夜が時計を見れば時刻は今12時になっていた。
「「オムライス!」」
「はいはい」
双子が万歳しておねだりし、佐夜は苦笑してキッチンへと向かった。
「あ………」
「お?」
「「あ、イング!」」
曲がり角でイングに遭う3人。イングは佐夜を見るとギョッとして、
「ご、ごめん………」
「あ、おい………」
佐夜の静止を振り切るや否やイングはそそくさと去っていった。
実はあの日カミングアウトして以来、佐夜とイングの関係はぎくしゃくしていた。といってもイングが一方的に佐夜を避けているだけであるが。佐夜としても一方的に避けられているのは気分も悪く、何とかしようとしている姿は何となく『気になる男子を惹こうとしている女子』に見え、アイナを楽しませているって事は本人達は知らない。
「あ、やっと来たか。サヤ、お腹空いたぞ?」
「……私も一緒に作るよ?」
「いや、お前は止めとけって……」
キッチン&リビングに着くとそこにはお腹を空かせたニケに一緒にお昼を作ると言ったマナ、そしてそのマナを止めたのがタックだ。ちなみにタックが佐夜の事を知ったのはリンドの後で、勿論最初は「またまた~、そんな冗談を(笑)」っと言っていたが、(当時)女子の制服を着ていた佐夜のスカートをマナが捲った事で強制的に理解させられた。ついでに言うがマナは料理が出来ません。
「「うわぁ~~~」」
「へぇ~~」
「……おいしそう」
佐夜がみんなに作った昼食は、双子=トロトロオムライス(ハンバーグ付き)、マナ=コンソメスープ&エッグベネディクト風の何か(本物は佐夜も知らない)、ニケ=かつ丼&天ぷら(かき揚げ)、タック=大盛ボンゴレビアンコ風(アサリが無い為)、佐夜=定食(米、魚、味噌汁風、漬物、天ぷら)だ。ちなみにこれらは全てこの世界にはないメニューであり、料理が趣味である佐夜は過去の記憶と現地の食材を頼りに次々と(この世界にとって)新メニューを作り出していってはみんなの反応を楽しんでいる。
といってもそこまで料理が凄い上手い訳ではなく、某・食戟漫画の様な料理学校に通っていた訳でもない。単に母親の実家が飲食店をやっていて偶に実家が忙しい時にバイトを手伝っていただけの経験で佐夜も記憶にある作れる物しか作れない。
「「「「「「いたたきます!」」」」」」
皆で手を合わせて昼食を取る。当たり前の事だが、この作法も佐夜の世界での作法で、佐夜がやるから皆が真似した。
「「おいし~い!」」
「これはまた……」
「むほっ! 肉うま!」
佐夜の手料理に感嘆する女性陣。双子は頬っぺたにケチャップが付き、マナは不思議な味がするエッグ以下略に舌鼓を打ち、ニケのかつ丼をがっつく姿はとても生みの親には見せられないだろうと佐夜は苦笑いするしかない。
「はぁ~~。これで女の子じゃないっていうんだから勿体無いよなー」
いつの間にかボンゴレを間食していたタックが溜息をついている。そのセリフに佐夜以外の皆も苦笑い。それもその筈。先ほど昼食を作っていた佐夜だが、エプロンを付けて鼻歌を歌いながら楽しそうに料理する姿はどう見ても女の子だ。
「悔しいけど、女子力ではサヤには敵わない………」
「そうだな。いっそアタシの嫁に欲しいくらいだ」
「「ダメ!サヤはノンとロロの!」」
「何だろう。この物言えぬ疑似百合感と疲労感は………」
悔しそうに食べるマナと、頬っぺたにご飯粒が付いて笑っているニケに、佐夜の両腕にしがみ付く双子とモテモテの佐夜に、タックが物言えぬ顔で唸っていた。
昼食後、佐夜はおにぎりを3~4個握った包みを持って道場裏で一心不乱に木刀を振っているイングの元にやってきた。
「相変わらず精が出るな」
「うお!?」
佐夜の声掛けにイングは驚いて振りぬいてしまい、木刀がどっか飛んで行った。
「……だから何で距離を取る?」
「い、いや。別に他意は無いんだ。うん…………」
佐夜が一歩近寄ればイングも一歩下がり、佐夜が2、3歩近づけば、イングもその分下がる。これは佐夜が男だと分かってから幾度となく繰り返された光景。
「………おい、いい加減にしないとさすがの俺も怒るぞ?」
「だから別に他意は無いって!」
「じゃあ何で逃げる!?」
「そ、それは……………」
「それは?」
「っ!!」
「あ、こら、待て! 今度という今度は逃がさん!」
佐夜を避けていた理由を思い出したイングは逃げ出し、佐夜も追いかける。今まではどことなく聞きづらかったのもあって、問おうとした時イングが逃げても追いかけなかったが、さすがに理由もなく毎回逃げられ続けられるのに最早佐夜は我慢の限界だった。イングから真意を聞くための追いかけっこが始まった。
道場から校舎へ、イングの家を抜けて街道へ、そのまま王都に突入し、あちこち逃げ回るイングに佐夜も必死で追いかける。
しかし、悲しいかな。最近この世界にやってきた佐夜と、常日頃から筋トレを欠かさないイングとでは体力の差に大きく差が出始めた。
「あ───────ふべらっ!?」
遂に体力の限界により、石に躓いてこけた佐夜がダイレクトに地面に倒れ動かなくなってしまった。
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「あれ? あいつどこ行った?」
いつの間にか後ろを追いかけていた筈の佐夜が居なくなっていた事に気が付いたイングは来た道を戻って逆に佐夜を探していた。何だかんだ言いつつやはり良い奴らしい。
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「───せ。離せ、ってば!」
「ぐへへ。いいじゃねーか」
「かわいい顔が台無しだぞぅ。お嬢ちゃ~ん」
「その気の強いところがまたそそられるねぇ~」
「っ!!?」
体力の限界で倒れた佐夜は盗賊まがいの酔っ払い(真昼間)に手首を掴まれて色々な意味で弱っている。酔っ払いの下舐めづりに青ざめる佐夜。涙ぐむその表情さえも酔っ払いたちを刺激し、最早貞操の危機である………『男』なのに。
「おっぱいは無いが……これはこれで。うひひ」
「ひぃっ!?」
「うぃっく……尻も実に良いケツだ」
「うひゃぁ!」
…………もう一回言うが、見た目は美少女でも佐夜は『男』であって、間違っても『女の子』でもなければ『男の娘』でもない(現時点では)。
「げへへ。それじゃあ早速路地に連れ込んd────────ごふぁ!?」
「させるかよ!!」
ギリギリ連れ込まれる直前で佐夜を発見したイングは佐夜を取り巻く状況を一瞬で判断し、酔っ払いに飛び蹴りをかます。そしてその酔っ払いは壁に激突して気絶した。
「何だぁ?このクソガキ。俺らを誰だt─────────うごっ!?」
酔っ払いの一人がイングの方へ向いた瞬間を佐夜は見逃さず足払いし、酔っ払いは後頭部から地面へ激突し、二人目も撃沈。
「後はお前だけd────がはっ!?」
「うぃっく……調子に乗るなよぉ、クソガキぃ?」
こういう展開なら普通そのまま三人目も倒したかったがそうもいかなかった。倒した盗賊まがいの酔っ払いを見たイングが調子に乗って残りの一人を倒そうと殴りかかったが、流石に奇襲の効果は切れて返り討ちに遭い、後ずさる。
その後もイングは何度か攻撃を仕掛けるがその全てを躱されてカウンターを食らう。
「───ちっ、いい加減に倒れやがれ!」
「く……そうも…いかねーよ」
既にイングはボロボロで立っているだけでも不思議だったが、まだ倒れるわけにはいかなかった。
「イングもういい!もういいから俺の事は放っておけよ!」
「うるせぇ、このまま放っておけるか!」
既に体力の限界で身体が動かない佐夜がイングに逃げるように言うが、拒否される。
「俺はまだお前に何の説明もしていなのに、今更ここで見捨てられるかよ!」
「イング………」
何か急に男気を見せるイングに佐夜がちょっとドキッとしたというのはここだけの秘密。
「───は、てめえら何青春してやがる。エルフのクソガキ、お前は殺して、女は犯しす。いや、先に女を犯すところを見せつけてからてめぇを殺してやろうか!?」
「こ、このやろう………!」
酔っ払いに言いたい放題言われ、カッとなるイングだが最早身体は限界で立っているだけでやっとなので睨む事しかできない。しかし、
ピイイィィィィィ──────────────────────────
何処からともなく鳴ったこの音。
この音は騎士団が駆け付けてくる音で遠くから大勢の足音がこちらに近付いて来る。
「ここか! 少女が暴漢に襲われている現場は!?」
「団長! あそこです。向こうで少女と少年が襲われてます!」
「団員! 対象を捕縛、少年らを保護せよ!」
「「「了解!!」」」
「ちっ!チンタラし過ぎたか!」
到着した騎士団が残りの酔っ払いを捕縛しようと迫るがその直前に気付かれて酔っぱらいは逃げて行った為、騎士団は気絶している酔っ払いを捕縛し、佐夜達を保護した。
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「うおっと! 何だ亜人のねえちゃん。俺に何か用かい?」
「あーいや、さ。アタシの仲間があんたの厄介になったらしくてさ、アタシはその礼をしに来たのさ」
「そ、そうか↑? なら早速その辺の路地d─────だっはぁ!?」
イング達が襲われている所の一部始終を見ていたニケが、騎士団が来る直前で逃げた酔っ払いを一撃で沈めた。
「………これであの二人が仲良くなるといいけどね」
といいながら気絶した酔っ払いを騎士団の元に引きずって行ったニケ。その表情はお節介焼のお姉さんの顔だった。
こういう短い回はなるべく繋げて行こうかと思います。