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鳩の森・3

新書「鳩の森」3


部屋の前には、ミザリウスがいた。ここの見張りは、彼と魔法官で、騎士ではなかった。仲間には人気のある男だと聞いていたので、騎士は着けなかったのだ、と思ったが、違った。

彼は三人のうちでは、魔法が一番得意で、それだけなら、首席のオネストスより上だ、という。彼らの同期は、「豊作」と言われたホプラスやクロイテスの時より数が多く、中でも三人はトップクラスだそうだ。

気の弱そうなナウウェルが、そこまで優秀とは意外だったが、騎士の道に進む前は、格闘技をやっていて、流派の大会で、少年部だが、優勝歴があった。格闘術は色々流派があるが、彼の郷里では、王道の「王宮式」の他、「円舞流」(派手な空中回転のような技が多い)が盛んだったそうだ。ガディオスやロテオンのカメカ流や、サヤンやハバンロの気功術よりも、身軽さと機動力にポイントを置いた物だ。

騎士の場合は、「騎士団式」になるが、これは派手な回転技や気功術はなく、一見地味だが、威力のある使いやすい技が多い。ナウウェルは、先程の様子からは想像できないが、勝手が違ってもトップを維持したなら、本当に優秀なのだろう。

たとえ、欠片もそうは見えなかったとしても。

重ねて養成所時代の記憶が、辛辣な言葉と共に沸き上がるが、郷愁に浸る手前で、ファイスが魔法について質問をしてきた。

「オネストスは火魔法と言っていた。話の内容からすると、ピウファウムは火ではない。魔法は、火が一番強い、と聞いていたのだが?」

「能力が同等ならね。それで単純に魔法攻撃力だけ比較すれば、火が一番強いよ。エレメント補正が魔法攻撃力にかかるし。

騎士の場合は、無属性に変換して魔法剣に使う。これは訓練がいる。養成所には魔法試験もあるけど、主に魔法技能を計る物だから、エレメント補正による有利不利は出ない。ただ、これは俺が…。」

養成所にいた頃だから、かなり前の基準だが、と、危うく付け加えそうになった。

カッシーが、

「ちなみに、さっきのナウウェルと、ピウファウムの魔法属性は?」

と、クロイテスに尋ねた。彼は、

「ナウウェルは土ですが、以前は風でした。第二次成長期に、変化したケースです。ピウファウムは風です。」

と答えた。ミザリウスが、

「あの場には、エレメント属性が、全て揃っていたことになりますか。今の時点では、関係あるかはわかりませんが。」

と言った。

ピウファウムは、転送魔法も使えるそうだ。魔法官が着いているのは、逃亡を警戒する意味もあるだろう。だが、捕まった時に逃げなかったなら、そのつもりはなさそうだ。

しかし、彼にしてみれば、自分は今の所、正義であるから、逃亡しないだけかもしれない。それが崩れた時は怪しい。

さて、いざ中に、と思ったが、クロイテスもミザリウスも、ドアの前で足をとめている。ライオノスを待っているのかと思ったが、まもなく彼が来た後も、しばらく待っていた。グラナドが、どうした、と問うと、ミザリウスが、

「ああ、すいません。説明、まだでしたか。もう一人…。」

と言った時、廊下の向こうから、ラールが、ミルファを連れてやって来た。グラナドは、ラールに挨拶した後で、

「何だ?どうしたんだ?」

とミルファに尋ねた。が、答えたのはクロイテスで、

「ピウファウムは、狩人族の血を引いているそうです。彼の出身地は、タルコース領の南東ですが、母親が、狩人族の移民なと言うことで。

シィスンでは、警察が狩人族を尋問する場合、本人が希望したら、同族を立ち合わせなければならない、と条例で決まっています。

今回の件は地元の管轄ではないし、ピウファウムはシィスン市民ではないので、本来、立ち会いは不要ですが、急に本人が希望しました。真実かどうかはわかりませんが。

地元に要請すると少し日にちがかかるので、ミルファさんに

お願いしました。」

と言った。おそらく時間稼ぎだろうから、ミルファに頼んで直ぐに尋問、というのは正解だ。彼も予想してなかったかもしれない。

ライオノスは、知り合いですか、と念のためにと聞いたが、ミルファは首を降った。ラールは、

「一応、私も娘に聞いたのだけど、以前に面識はないし、名前も、今回の事件で初耳だそうよ。私もね。

ただ、ファーストネームは聞いていないから、ひょっとしたら、聞けば思い出すかもしれないわ。コーデラを訪問した時に、ヘイヤントにも何度か行ったから。」

と添えた。クロイテスが、

「ベルストログ・オ・ル・ピウファウムです。」

と言った時には、一瞬、貴族かと思ったが、「ベルストゴール・ピウファウム」の聞き違いだった。

コーデラの王族・貴族の場合、男性は「オ・ル」、女性は「デラ」が、名前と姓の間に入る。例えば、グラナドは「ピウストゥス・オ・ル・コーデラ」、ディニィは「ディアディーヌ・デラ・コーデラ」となる。

「○○家の」を示す古い言葉が起源だが、転じて「高貴」の意味に使う場合もある。「オ・ル」は南西の方言で金色を表す「オーリ」の語源にもなった。「デラ」は「優雅な」という意味合いもある。

「ベルストログ」は、「美しく強い」という意味になる。今はあまり流行らないが、貴族の男性にはありがちの名前だった時期もある。

「オ・ル」の韻と合わせると、「高貴で美しく強く」だ。姓の「ピウファウム」は「恵まれた農地」という意味で、姓名令(姓の登録を義務付ける条例。)のある地域では、農民が好んで付けている姓だ。

貴族風の名前と合わせると、多少違和感はあるが、通して読むと、ずいぶん「大層な」名前になる。

残念なことに、名前にふさわしい「品格」は備わらなかったわけだが。

いよいよ中に、という時、ラールは外に残った。ラールは、

「後はよろしく。」

と、自分の部屋に戻った。付き添わないのか、と尋ねると、

「私は狩人族じゃないからね。それに、あんたとグラナドまでいるなら、安全でしょ。」

と、あっさりした物だった。

ミザリウスは、

「ここには『小部屋』が付いていませんから、私が中で記録を取ります。」

と言った。

さっきは気付かなかったが、先の二人が監禁されている部屋は、隣合う小部屋に「仕掛け」がしてあり、魔法官がやり取りを記録していたそうだ。

この建物は、大昔の土地の名士の屋敷で、母家は道場が土地を買った時に取り壊した。別棟が三軒も付属していたが、一番ましな建物は、そのまま弟子の宿舎に当てた。母家の次に老朽化していた棟は取り壊し、道場主の家を建てた。残りの一棟は、一度、市が共同住宅に改造していたが、これも最終的には道場が買い取った。だが、食堂と浴場だけを使い、各部屋は一部を物置にして、後は封鎖していた。

騎士団が来た時は、最初はテントを張っていたが、今は、弟子の居なくなった宿舎と、倉庫部分を片して使用していた。

ナウウェルとオネストスのいた所は、その倉庫を片した区画だ。だが、ピウファウムの部屋は、宿舎の方になる。

倉庫はもと共同住宅だったこともあり、家族向けになっていたようだ。対して、宿舎側は、幹部用の部屋以外は、一部屋になっている。

ピウファウムだけ別棟なのは、倉庫側を主に若い騎士が使っているので、「訪問者」を避けるために、昨日、移動したそうだ。ピウファウムとオネストスを同じ棟にしていると、ピウファウムに会いに来た同期が、流れでオネストスに文句を言いに行くものだから、とライオノスが説明した。

面会禁止にすれば良さそうな物だが、騎士には上から下まで等しく「面会特権」が与えられているため、効果はない。

「良い建物」に移された事で、自分の有利、と思い違いをしているかもな、と考えつつ、部屋に入った。


部屋に入る人数が増えたが、中は広く、簡素な客室の小綺麗さを持っていた。

ピウファウムは、壁の絵を見ていた。いわゆる「勇者集合図」で、昔の俺達のパーティーを描いた物だ。サヤンとユッシ、キーリが中心にいた。サヤンの左にキーリ、右にユッシ。ユッシの側にディニィ、ルーミ、エスカー。キーリ側にラール、ホプラス。

通常は、ルーミとディニィが中心で、ルーミ側にホプラス、ディニィ側にエスカー(またはその逆)が配置され、後はラールとキーリ、サヤンとユッシが一般的だ。これは、シィスンの画家によるものらしく、地元の三人が中心にいた。特に個性的な物はないが、並んだ各人は、よく似ていた。

クロイテスが彼の名を呼ぶと、すぐ振り向いた。

色斑のある明るい茶色の髪に、ブルーグレイの目をしている。髪の斑、白っぽい部分は、日焼けのせいだろうか、だいたい日に当たりやすい所は金色にも見える。赤ら顔にそばかすが目立つ。騎士としては中肉中背の平均的な体格だ。

そういえば、彼とナウウェルの顔は、事件の前の日にもはっきり見ている。状況が違うし

印象が異なるのは仕方ないが、二人とも、今、初めてみるような気分がした。

あまり際立った特徴はないが、人が良く、嘘やごまかしなど考えてみたこともない、よく働く善良な市民の顔だ。

見た目には。

「こちらは、ミルファ・ライサンドラ嬢。ラッシルのラールと、狩人族のキーリの娘さんだ。狩人族の血を引いているので、同席していただく。

…本来、君の件には、不要だが、希望は承知した。」

クロイテスが、先の二人より厳しい口調になっている。まだ自白しない主犯を相手にするわけだから、当然と言えば言える。

ピウファウムは、絵を見上げ、俺たちを見る所作を二回繰り返した。

それから、妙に清々しい笑顔と声で、

「ありがとうございます。」

と言った。だが、クロイテスは、

「このユノルピス君には覚えがあるな?君が装置を壊そうとした時、居合わせた。その前の会話も聞いている。」

ユノルピス、俺の偽名か。忘れていた訳じゃないが、久しぶりに聞く。

クロイテスは、グラナドを見た。主導権を彼に渡すためだと思った。だが、グラナドは、表情の消えた顔で、ピウファウムを注視している。

「グラナド?」

俺は、小声で声をかけた。グラナドは、俺の方を向いて、

「ああ、ラズーリ。」

と言った。それから一歩だけ、俺に寄った。様子が変だと思ったが、

「ナウウェルとオネストスから、先に話を聞いた。」

と切り出した時は、いつも通りのグラナドだった。

「君が『ある人物』に唆されたらしい、と、二人の意見が一致している。それは誰だ?」

といきなり核心に触れた。

今までに聞き及んだピウファウムの人物像からすると、グラナドが期待するのがカオストの名、と読んだら、確かに直ぐには吐きそうだ。しかし、何につけてもそうだが、僅かにカオストは無関係の可能性はある。ここでピウファウムがカオストの名を口にしたとしても、それが真相とは限らない。確かに名前が出てくれれば、こちらはある意味「有利」だが、内部的にはどうであれ、彼は外部的には、身内の実力者ではある。それを考えると、ピウファウムだけては、証人として弱い。

しかし、俺の心配をよそに、彼は滝のように喋りだした。が、まず、「騙された」事に対して、自分がいかに「正義の怒り」に燃え上がっているか、を訴え始めた。

彼はカオストではなく、「ウェスタンシン師」という、自称聖職者に「唆された」そうだ。

私服で同期数人と、酒場で食事をしている時、別のテーブルで、酔客同士が「時期国王について」の議論から喧嘩になったのを、止めた。

その時、ナウウェルが弾みで一人に掠り傷を追わせてしまった。警官が来たが、騎士とばれる前に、

「先に相手が、瓶を振り上げて殴ろうとしていた。」

と証言してくれた紳士がいた。それがウェスタンシンだった。

その日は礼を言って別れたが、次に一人で街に買い物に出た時、商店街で再会した。食事がてら話をすると、「集会」に誘われた。

騎士団宿舎に戻り、オネストスとナウウェルを誘ったが、オネストスは断り、ナウウェルは一度行くと言ったが、後で断った。

集会は貸しホールのような場所で行われ、立食パーティーのような物たが、議論は自由に行えた。三回目の集会では「トスカンシャ男爵」という人物に紹介された。彼は集会の主催者だといい、参加者の中から、見所のある者を、屋敷に招いていた。

「ウェスタンシン」も「トスカンシャ」も、俺は聞いた事がない。後者は南の山岳地方に多い、民族的な響きだが、その名で貴族なら、むしろ珍しくて覚えていただろう。連絡者情報にも出なかった名前だ。

「師」のほうは、聖職者でなく魔導師の可能性もあるが、名より職を聞いた時、グラナドは少し不思議そうな顔をしていた。さりげなく、クロイテスの表情を見たが、似たようなものだった。

聖職者には、ホプラスの父のような、街の教会にいて、妻帯を許可(するかしないかは自由)された「民間聖職者」(昔は下級聖職者と言った)と、主に王宮に仕える「上級聖職者」がいる。聖職としては、高位の神官より下位になる。以前は政治的な地位に付く者もいたが、今は数は多くはなく、クロイテスの立場なら、全員と面識があっても不思議はない。心当たりがなければ、民間聖職者だろうが、王都近郊には、ほとんどいない。地方の教会で働くのが職務だから、当然と言えば言える。

屋敷は、聖職者のか、男爵のかはっきりしないが、立地からして、男爵の所有のようだ。「訳有り通り」と言われている高級住宅街にあったが、聖職者には、そこに住みたがる者は、まずいない。平たく言えば、裕福な庶民や、貴族の男性の「第二の家庭」の多い区域だ。行政で決めている訳ではないが、自然とそういう家が集まってしまい、そう呼ばれていた。

クーデターでは真っ先に襲われた地域の一つで、建物は修復されたが、持ち主がそのま売りに出したり、借家になった家も多い。ある意味、隠れるには「いい場所」ではある。

ピウファウムは、ウェスタンシンはおっとりした雰囲気の老人で、白い髭が長く、トスカンシャは、異国風の衣装で、顔は半分見えなかったが、年配の男性のようだった、と言った。つまりは、詳細な人相は不明だ。

また、彼の他に、「選ばれた」者は何人かいる、と聞いたが、屋敷では、会わなかったそうだ。

一度、屋敷の入り口で、中から出てくる老婦人と、若い女性二人にすれ違った事がある。夜にフードの外套で、若い二人の顔は見えなかったが、ウェスタンシンが、「通いのメイド達だ。」と言った。老婦人の顔だけははっきり見たので、もう一度見たらわかると思う。

だいたいこのような話だった。

クロイテスが、グラナドに許可を取ってから、質問をした。

「『選ばれた』者は、何を基準にしているのだ?」

ピウファウムは、

「わかりません。私の場合は、その日は、騎士の制服で参加したからだと思います。騎士は私だけでしたから。」

と答えた。

「その日に限り、制服で参加したのは何故だ?」

「オネストスと話していて、遅くなりました。」

「内容は?」

「本件には関係ない、個人的な物ですが。」

「勤務中だったのだろう、話したまえ。」

ピウファウムは、話し渋った割には、すらすらと喋った。

オネストスは、故郷に婚約者がいたのだが、最近になって彼は、一方的に婚約を解消した。そのため、嫌な噂が立ち、その彼女は、親戚に強く勧められて、好きでもない相手と婚約させられた。彼女の従姉が、気の毒がって、自分に連絡を寄越し、オネストスを説得してくれ、と言ってきた。

「オネストスは、

『そもそも婚約まではしていない。付き合ってはいたが、養成所を出た時、地元の勤務にはならない、王都に勤める、と話した時に、彼女の方から、別れたい、と言ってきた。もともと、彼女の両親は、俺が気に入らなかった。田舎者には、『騎士』や『首席』の価値はわからないからな。

だいたい、あの従姉は、田舎の女らしく、思い込みが激しい。お前も困らされた事、あっただろ。お前がはいはいと聞いてやるから、利用されるんだ。多分、今回も、勝手に言ってるだけだろ。』

と、とりつくしまもないんです。

彼女は直接言いにくいんだろう、察してやれ、毎日泣いているそうだ、騎士になったとたんに、寄ってくるタイプより遥かにいいじゃないか、と道理を説いても無駄でした。

『女子の中で、一番顔が綺麗だから、付き合ってただけだ。中身も別に外れって訳じゃないし、好きだったのは確かだが、今になって、婚約者から奪うほどじゃない。』

だの、

『助けたいなら、お前が“第二夫人”にでもしたらどうだ?』

だのと言い出す始末です。ヒンダ人じゃあるまいし、そもそも、お前は、お兄さんの事もあるんだから、街の人間関係を軽んじて、実家の迷惑になったら、どうするのか、と言ったら、一応、最後は、

『じゃあ、兄貴に連絡して、家同士で揉めてないか、の確認はする。』

と言いましたが、実行していないと思います。こういう事に関しては、本当に口だけなので。

これで、着替えるのが間に合わなくなりました。」

本当に、うんざりはするほど、無関係な話だ。

「『お兄さんの件』とは、なんだ?」

と、よせばいいのに、ライオノスが尋ねた。

「彼の兄は、こういう面では、オネストスより、いい加減な人で、今の夫人と結婚する前に、同時に別途複数の女性と交際してました。狭い街なので、どの女性もお互い知り合い、婚約の前後に、大騒ぎになりました。その中に、手紙をくれた女性の家で、働いていた小間使いがいまして。明るいよく働く女性でしたが、結局は町を出ました。

そういうのは彼の兄さんだけで、オネストスは、まだ、そういう所はない、と思ってたんですが。」

彼は思案顔で嘆息した。

ピウファウムが話だしてから、じわじわと感じていた違和感が、ここで一気に増大した。

話せと言ったのはクロイテスなので、話題に関しては、ピウファウムには責任はない。内容は、ただの幼馴染みの友人に対する愚痴に過ぎない。

しかし、ピウファウムは、オネストスに罪を着せようとしていた訳であり、いくら昔から培ってきた人間関係があったとしても、これで終わりだ。それくらいの事をやっているわけだ。

だが、目の前のピウファウムには、そのような意識は、欠片も感じられない。

今まで俺が別ワールドで担当した中で、最低最悪の勇者は、二人いた。

一番は、パーティーの男性が、女性に好意を持つと、騙して片端から、無理矢理に自分の女にして横取りする外道だ。最後は、ラスボスを片付けた帰り道で、残党狩りのついでに、パーティーから始末された。表向きには、あくまでも女性にもてる英雄なので、「メリー・ブレイブ(陽気な勇者)」と呼ばれた。(パーティーは、死後の名誉は守ってやった。)

次点は、ある国の第二王子だったが、無類の博打好きだった奴だ。博打自体は、そこの法律では禁止されていなかったが、いわゆる勇者の剣を精錬する資金を、博打ですっかり使ってしまい、帳尻合わせに、国の宝物庫から度々財宝を盗み出しては売り飛ばしていたクズだ。最終戦の後、九日間は英雄扱いだったが、こっそり調査していた兄の皇太子に、すべて暴露されて、父である国王から、国外追放された。外道の方とは違い、真相が国民に知れ渡った事もあり、「九日勇者ジョーン・グレーズ」と呼ばれた。

二人とも、前の担当者が精神的苦痛を訴えて匙を投げたので、俺に回ってきた。とりあえず強い事は確かなので、ラスボスを倒させる事だけに専念して、後は知らん、で、さっさと片付けた。前任者には感謝されたし、上の評価も上がったが、やっつけ仕事の感は否めない。

二人とも、そのような素行が欠片も想像できない、清廉な見た目をしていた。その印象が、かえって不気味さを感じさせたものだ。

ピウファウムには、彼らを彷彿とさせる所があった。

余計な事を思い出していると、グラナドが、

「三人とも、地主の次男だそうだな。それぞれ、家は長男が継いでいるのか?年は離れているか?」

と、話題を変えて尋ねていた。

変な事に関心があるな、と最初は思ったが、思想的な背景か、人脈を知りたいのだろう。

「オネストスとナウウェルの所はそうです。オネストスの兄は十歳上、ナウウェルの兄は五つ上です。私の兄は双子なので、同い年ですが、家は私の弟が継ぐ予定です。まだ十にもなりませんが、実は兄が家出して、音信不通でして。私が騎士になって、王都に登った物ですから、結局は幼い弟に、家と土地を任せる事になりました。」

それじゃ、今回の件で、幼い弟は、重責から解放されるかもな、と皮肉に考えた。

グラナドは、オネストスやナウウェルの時と違い、「保証」の話はしなかった。集会を取り仕切っていたとされる、二人の人相の確認を再度行い、話を切り上げた。

切り上げた方が唐突だったが、気がついたら、オネストス達の倍の時間が掛かっていて、すでに夜中過ぎだった。

ミルファは、部屋を出るなり、

「何、あの人。自分の事で尋問されているのに、後半は、ほとんど、オネストスって人の批判じゃない?関係ない話ばかり。」

と、声は押さえていたが、感情は押さえずに言った。クロイテスが、

「すいません。遅くまで。」

と言ったら、

「あ、クロイテスさんのせいじゃなくて。」

と少し慌てていた。ミザリウスが、

「しかし、彼の話を聞いていると、今の容疑より、婚約不履行のほうが重罪に思えてきましたよ。」

と言い、もっとも、婚約まで行かなかったようですが、と付け加えた。

ファイスが小声で、

「確かに気の毒な女性だが…。」

と呟いていた。

ライオノスが、

「『確定』するとなると、王都に搬送しなければなりませんな。最終的に家族にも連絡しなければなりませんが、両親は郷里ですが、彼の妻は王都に…。」

と言い出したので、思わず「え?!」と、言ってしまった。グラナドと同時だ。

俺は、話を遮ってしまったのを謝り、新人なら、まだ十八くらいだろうと思っていたので、早いので驚いた、と言った。

「彼らは、二十二です。卒業後、直ぐに王都の混乱だったので、整式な就任が遅れましたから。」

と答えが返ってきた。

ホプラスが三年スキップだったので、新米というともっと若いイメージがあった。しかし、通常は十八から二十くらいで、養成所を出る。貴族は十五で婚約して、卒業と同時に結婚する者もいた。クロイテスがそうだった。

「責任はとってもらうが、黒幕がいる以上、『主犯』扱いにはしない。彼とナウウェルは、当分、自宅待機にして、王都に戻そう。監視をつけて。」

と、グラナドが言った。軽い、と思ったが、それは俺の感情の問題だ。

全体に不気味さの影響か、重い空気だったが、カッシーだけが、

「ねえ、でも、あのオネストス君は、三人の中じゃ、一番、もてそうな感じよね。そのお兄さんなら、見てみたいわね。」

と軽口をたたき、皆の緊張をほぐしていた。

ミルファとカッシーはクロイテスが送り、俺とファイスはグラナドに着いて、ユリアヌスに話を聞きに行った。

ユリアヌスは寝仕度はしていたか、まだ紙束と格闘していた。コロルが手伝っていた。ケロルが机にいたが、寝ているらしく、イビキが聞こえる。

ユリアヌスに、「ウェスタンシン師」と「トスカンシャ男爵」の事を聞いたが、やはり心当たりはないようだ。

「父は、協力者の話は私にはしませんでしたから。それに、おそらくですが、偽名でしょう。『トスカンシャ男爵家』ですか。聞き覚えはあるのですが…」ユリアヌスの語尾を遮るように、コロルが、「あ、思い出した。」と言った。

注目を浴びた彼は、雇い主の会話に割り込んだ事に恐縮したが、促して話を聞いた。

「五年くらい前ですかね、最後の当主が死んで、直系は絶えた男爵家ですよ。

亡くなったのは、ナンバス郊外の『安心の家』という施設でしたが、死の直前に、メイドの女性を養女にしたのですが、施設側が、遺言で遺産を貰う約束をしていた、と言って、揉めました。

実際は、『土地無し資産無し爵位あり』状態、いえ、田舎に少しばかり、地代収入のある土地は残っていましたが、養女も施設も、お互い当てが外れた訳で、養女はともかくも、施設の言い分は違法でしたからね。

あの類いの施設は、遺贈は受け取れない事になっています。ただ、私営の場合は、マイナス収支の経費は請求できますが。

今はオーナーが変わってるはずですが、確か、当時はハープルグ商会の系列でしたか。

私は当時、施設側が、その遺産関連の調査を依頼した会社に、一時ですが雇われていました。

南クシウスの向こうまで、行くはずでしたが、その費用が自腹、と聞いて、会社が途中で手を引きました。

後は分かりませんが、裁判まではやらなかったようです。なってたら、皆さんも覚えてたでしょう。ちょうど、有名なダイモス男爵家の裁判の件と、似てますし、時期も一緒でしたから。」

ということは、やはり詐称か。一応、養女が爵位を継いでいるなら、断絶扱いにはならないから、ピウファウムが怪しんで役所で調べても、「ぼろ」は出ない。もし養女が南クシウスに引っ込んでいるなら、なおさらだ。コーデラの爵位は女性にも権利があるが、当主としての仕事は、男性(主に夫)に任せる事も多い。その代理で、王都で事業をしている、という話は、よくある。

意外な所から情報が入ったが、男爵家は名を騙られただけだろう。騙した本人が、今後もピウファウムに接触してくるか、グラナドが戻った事を知って姿を消すか。接触してくるなら、掴みようもあるが。

部屋を出た後、グラナドが、少しふらついた。本人は、寝不足だ、と言った。

俺とファイスは、グラナドを部屋に送り、それぞれ寝室に向かった。

グラナドとは話をする、と約束していたが、つらそうだったので、「今夜は休んで。」と軽く言い添えた。

本当は、付いててやりたかったが、ファイスが一緒なので、そう言うのは憚られた。


   ※ ※ ※ ※


まだ夜明けには遠いが、鳥の声がしていた。ここは「鳩の森」、夜鳴く鳩がいるのか、と思ったが、それは、もう既に鳩ではない。


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