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吟遊詩人と竜討伐と魔王。  作者: あかね
物語の破片

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11/16

よく、がんばりました

吟遊詩人は旅をするものの少しあとの話。


 私は生まれた時から妹である。妹であるから、姉か兄が当然いる。

 すぐ上にちょっと要領が良くてちょっと不器用な姉がいた。


 仲が良いかと聞かれれば首をかしげるが、信用しているかといえば誰よりもと答えられる。


 本人には言わないが、自慢の姉である。

 そんな姉が突然帰ってきた。


「やあ、元気そうで何より」


 残念ながら、姉は男装するとイケメンに変貌するタイプだった。雰囲気ある憂いを帯びた吟遊詩人。とにかく、もてた。女性に。


 みんなかわいいなぁと言って全く気がつかなかった。天然恐ろしい。


 その姉は魔性の男性化している。憂いを帯びた表情が問題ある。


「……なにがあったの」


 挨拶もそこそこに問いただすもきょとんとした顔で、なにもと言った。


「なにも、で、リベラが荷物で一杯になるわけ?」


 我が家に長くいるロバである。ろば? と疑惑を持たれている生物ではあるが、見てくれはロバだ。一応。

 祖父のそのまた祖父の時代からいたらしいと冗談で言われた。冗談だと私は信じている。


「いや、ちょっと、竜退治に付き合ってきてね」


 家の中に入れてよと眉を下げた。

 ……くらりときた。

 なんなのそれっ! と怒鳴る元気もなかった。


「上、部屋は残ってるから着替えてから来て」


 その間に近所に住む両親や兄弟への招集をかけに走ったのは言う間までもない。


 急に集まってきた兄弟たちに同居している祖父と夫、つい先日一才になったばかりの息子は話が一番最後だったので、びっくりされてしまったけれど。

 姉の一大事なのだから許してもらいたい。


 吟遊詩人仲間では噂になっていた。

 北方で竜が狩られたらしい、狩ったのは西方のローグリアの騎士らしいと。

 ローグリアはここ数年きな臭い国ではないか。北方に西方の国の騎士がなぜいるのかと言う話で持ちきりだった。

 それには吟遊詩人が同行していたとか聞いたけれど。


「お姉様、恐ろしく勘がよいので無事だったんでしょうねぇ」


 末弟がしみじみと言う。

 広めではあったリビングが人できゅうきゅうになっているので、椅子もテーブルも避けて床に座っている。わりと地面に座って歌うことがあるので、この家の人間は床に座ることに躊躇しない。

 それに昨夜思い立って大掃除をしたので綺麗なので問題ない。


 あれは何かの予兆だったのか。


 兄弟はあわせて六人。この辺りでは珍しくない数だ。ただ、一人も欠けもなく育ったのはちょっと珍しい。

 結果、集まったのは姉を抜かした兄弟5人、兄嫁と私の夫、両親、祖父。ついでに一才の息子が膝の上に居る。


「ど、どうしたの? 仕事とかどうなの」


 着替えてのほほんと降りてきた姉はぎょっとしたようだった。


「いや、話を聞こうかと思って」


「いやいやいやそれ聞くって言うより尋問だよね、そうだよね?」


 父の圧力ある笑顔に姉の顔が引きつる。両親の家の方に戻らなかったのはこれを避けたかったんだろう。

 私と夫は最近は旅に出ないものの吟遊詩人である祖父の跡を継いだ形で同居している。


 心配をかける比率は二番目の兄やすぐ下の弟で、私たち姉妹は出来る方と認識されている。

 が、本格的にやらかすことが多いのは私たちだった。


 ……無断で演奏旅行とか、聖地巡礼と称して半年の放浪とか。

 その結果の夫連れ帰り事件とか。


 それ以来、姉にも監視の目が光っている。

 帰ってきたときに結婚しないのかというのは、このあたりで落ち着いて欲しいという意味で本気ではなかったりする。

 私の時みたいに結婚するの、を飛ばして結婚したのという報告を受けたくないからかもしれないけど。

 あれはちょっと反省している。


「北方の果ての街に珍しい歌を探しに行ったら、竜がいてついでに見学してきただけだって」


 ……まあ、嘘ではないんでしょうけど。

 語ってないことはある。

 そこら辺の話し方は姉はうまい。語らないでも不自然ではないように仕向ける。


 しかし、この家は吟遊詩人の一家である。


 兄弟も両親も本業にしないまでもそれなりに技術は叩き込まれている。

 隠すような何かがあったと皆がわかる。

 問い詰めるべきか皆で牽制していたときにすぐ下の弟が余計なことを言い出した。


「はーい! 姉ちゃん、あの貢ぎ物は相当やばいです!」


 リベラの隠蔽が先だっただろうか。

 口に錠をかけるべし、汝の名は災いなり、という格言はこいつのためにある。


 弟が見たのは姉の同意の上で、下ろした荷物一式だろう。

 たいていは袋に入れられていたのだけど、目利きが出来れば袋自体も高級品とわかる。

 姉でも自力で稼いだとは考えにくい。


「餞別としてもらったから売るのもちょっとね。置いてっていい?」


「中身見てからね」


 妹としては別に構わないけど、中身をくれた人の気持ちを考えるとちゃんと持っていけと思う。


 ズドンと暗くなった顔でワケありとわかる。


「じつは一つ開けて後悔して、残りは開けてない」


「は?」


「これ」


 なんの変哲もない銀色の鍵。

 おかしいことと言えば銀ならば黒く腐食してもおかしくないのに鈍い銀色のままだということ。まさかの白金だろうか。


「使ってない別荘だって。自由に使っていいと手紙が入ってた」


「それで?」


「ちょっと気になって遠くから見たけど、一軒家だった。この家より大きい」


 家一軒とは豪快というか、それくらいどうとも思っていない家柄なのだと察せられる。

 ああ、あの噂は本物だったのか。そして、姉は気がついていないらしい。辺境を回りがちなので噂をしらない可能性もある。


 祖父があごヒゲをしごいているし、父は頭を抱えそうなのを我慢している。母は思い立ったように台所に向かった。兄嫁はお手伝いしますとちゃっかりついて行ってる。

 現実逃避したいのは私もだ。


 男兄弟は全く気がつかない。できればそちら側に行きたかった。


「かさばらないモノばかりだしと気軽に受け取ってはいけなかった」


 後悔しているという顔をしている。


「受け取っておきなさい。恩義を感じているということだろう?」


「私は歌が歌えればそれで良かったんだけど」


 姉は虚ろに笑う。

 しかしまあ、竜退治。

 死体の山が築かれそうなものだ。聞こえて来た噂では被害は少なかったとされているけれど、一体姉は何を見てきたのだろう。

 姉の性格上、弱音を吐かないままに笑ってやり過ごしてきたに違いない。


 心労が半端ない。

 とりあえず、これ以上の話は聞いても仕方がない。本人がちょっと問題がある。

 家族間の目配せの結果、息子を夫に預ける。


「セルフィは一緒にいてやりなさい」


「はい」


 そのあとは解散となった。ように見えたけど他の家に集まって話をするんだろう。


 明らかに問題のある情報が含まれている。

 姉は気がついていない。


 ローグリアは既に吟遊詩人が行くにはおすすめしない国のリストに上がっている。治安が悪いと言うわけではない。

 ただ、内乱の気配が濃くなっているということだった。


 その最後のきっかけが、姉の見た竜退治。


 現王と王太子が、従兄の公爵を竜退治を命じて追い払った、という話はこの数年ごく一部で噂になっている。

 その公爵が竜を退治して帰ってきた。


 王位の争い再び、となるだろうというのが大多数の予想だ。

 平和的かはさておいて、遠からず王の名は変わるだろう。


 それら一切のどたばたに巻き込まれず帰ってきた姉の勘は相変わらずすごい。

 餞別を持たせて、あっさりと姉を帰してくれたことも感謝したい。利用価値はあったはずなんだ。


「まあ、とりあえずゆっくりしてきなよ。お姉ちゃん」


「んー。そうする」


 やはりいつもの姉とは違う。どこかぼんやりして、疲れていて。

 帰ってきてほっとしたのかも知れない。


「お姉ちゃん」


 なぁにといいたげに首をかしげる。


「よく、がんばりました」


「うん。がんばった」


 子供みたいに肯いて、ぼろぼろに泣き出した姉の頭を撫でる。

 泣きつかれて眠ってしまうまで。


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