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吟遊詩人と竜討伐と魔王。  作者: あかね
物語の破片

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10/16

吟遊詩人は旅をするもの

原初より、伝えられし音の語らなかった逃亡の話。

「また、寝込んじゃったね。本当に、大丈夫なのかな」


 幼さだけが目立つ寝顔だった。

 少しは話をしていきたかったが、無理をさせても良くない。

 いや、少しだけ都合が良かった。引き留められれば、留まってしまいそうだ。


 報償として地位を求めても良いかもしれない。宮廷詩人なんて、良い響きだ。似合わなすぎて笑える。


「もう行くね。願いが叶いますように」


 そっと額に親愛のキスを落として。



「よぉ」


 部屋を出れば、壁にもたれるように青年が立っていた。

 最年少の同行者だ。

 生意気盛りというかなにかと突っかかってきたように思う。弟がいるのだから、こんなものかわいい範囲である。

 実弟はかわいくない。


「リース君」


「行くのかよ」


「そ、吟遊詩人は旅に出るもの。元気でね」


 何か言いたげでも言わずにいるところに成長を感じる。

 この調子で良い男に育ってほしいものである。


「正門は見張りがいる。裏口で、ティールが待っている」


「ありがとう」


「隊長が、ありがとう、だとよ。会うと面倒が起こると言ってた」


「お世話になりましたと」


「世話になったのは俺たちだっての。悪かったな」


 ひらひらと手を振った。


 偶然を装って、一人ずつ会った。

 礼を言われるのがこそばゆい。


 少しは役に立てたらしい。


 裏口ではティールが待ちくたびれていた。何を考えているのか未だに不明だけど、なにかと気を遣ってくれたように思う。


 旅の相棒のロバには、荷物がくくり付けられている。ロバが不満なのがなぜかわかった。


「餞別だ。じゃあな。気が変わって誰かの嫁になる気になったら歓迎する」


 曖昧に笑ってやり過ごした。

 彼も返答は求めていないだろう。


「姫は、何か助けが必要なら絶対に頼りなさい、ってさ」


「承知しました」


 隊長の元婚約者で、今までずっと未婚だったご令嬢に勘違いされて、詰られて、誤解だとお茶と酒を飲んだのは良い思い出、だと思う。

 恋する乙女はかわいいものだ。


 裏口を出て背伸びをする。



「さて、どこに行きますか」



 吟遊詩人は旅をする者なのだから。

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