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第77話 近代化する異世界

 まるで津波のように事態が動いていった。

 最初からそうなることを予想していたのか、もしくは複数の手段を考えていたのか、それはわからないけれどゲヒルトはあっという間にラウことアザリーの養子手続きを完了させ、マッケンジー家に架空の長女が誕生した。

 アザリー・マッケンジー。騎士団長ゲヒルトが抱え込んだ養子で、すでに独立した多くの息子たちの中の娘の一人というなんともややこしい立場であったけど、このややこしさが欺くのにちょうどいいのだとか。

 一体どのようにして、架空の少女が書類上で作られていったのかは不明だけど、法律上、全く問題のない養子縁組が完了してしまったらしい。


 その後、ゲヒルトとザガートは王都へと引き返す。今回以外の事でも、処理しなければならない仕事も多く、戦後処理の関係もゲヒルトが担当しているのだと聞かされればこちらも引き留めることはできない。


「いや、しかし……俺には何が起こってるのかさっぱりわからねぇ……あのぅ、王子、あんたは、本当にいいのか?」

「構いません。兄上」


 さすがに、今は女装していないラウ。だけど、責任感というか使命感というか、そういうものに突き動かされているのか、形はなんであれ養子になったのは事実ということで、彼は私たちへの態度をきちんと改めている。

 ただ、これ、つまりは……


「母上も、今後とも、よろしくお願いしたします」


 そう、私、子持ちになりました……おかしいわ。何かがおかしいのよ。

 私、偽装結婚したと思ったら偽装の養女をもらってしまったわ。いけないわ。自分でも何を言っているかわからなくなってきた。


「は、母上だなんて。そんな……」

「そうは言っても、私はゴドワン殿の養子となった。ならば、その妻であるあなたが、私の母上であらせられる。慣れぬのはわかるが、これも我がハイカルンの為だ。どうか付き合ってもらいたい。せっかくこうして偽装に努めているのだから」


 うぅ、こんな子供に諭される私って……もとの世界じゃアラサーだったのよ……いい歳こいた大人だったのよ、私。こっちに来てからずいぶんと大人げないことばかりしている気がするけど。

 しかも、こんな状況になってしまった原因の一つに私もいるんだから、なんというか……断れないというべきか、責任を取るべきというか……いややっぱり悪いのは皇国だ。うん。間違いない。


「ともかく、偽装とはいえ、これからは家族である。私も、この言葉使いを直さないといけないな……」

「気を背負わないでくださいまし、王子。お互い、己の目的を達成する為に、うわべのお付き合いをしていると考えれば、いくらかは気が楽になるでしょう?」


 こう、改めて考えると、私の周りってそういう関係者ばかりね。

 お互いに秘密を共有しあって、各々が自分の利益の為に動いている。グレースもベルケイドも、なによりアベルとゴドワンなんかは最初の共犯者だ。

 そこについには騎士団長も加わり、ゲームの攻略キャラだった二人までも加わり、あげくは王子様だ。しかも女装させるなんて前代未聞のこと。


「お互いに利用か……そうですね。ですが、それだからこそ、ぼろが出ないようにしなければいけません」


 ほんと、しっかりしてるわね、この子。

 とにかくとして、私たちの奇妙な親子関係が始まる。ゴドワンが新しく養女を迎えたというのは当然、周囲にも広まる話だけど、多くの人々は大して気にすることもなかった。

 よもやそれが亡国の王子とも思わないだろう。それに、いちいち結婚式のようにお披露目をする必要もない。

 ただ、少し窮屈なのは、ラウは外に出向くときだけはアザリーにならねばならないことだ。


***


「これが、機械というものですか!」


 奇妙な親子関係が始まるとは言っても、子供をずっと屋敷に閉じ込めておくのもそれはそれでどうなんだろうというのが私なりの考えだった。

 かくいう私は鉱業の会社にいたときはフィールドワークにも連れられていったし、山も登らされたし、蒸し暑い国や極寒の地にも足を踏み入れた。

 この世界に来てからは事務処理が大半で、時々自分の知識を説明する為に科学者たちにアイディアを送るぐらいだ。


「蒸気機関といいます。水を温め、蒸気を発生させることで、ものを動かすという仕組みの機械ですわ」


 あとはこうして、見れる範囲で工場の視察を繰り返す。

 特に、私たちの急務は蒸気機関の発明であり、同時に、小銃の発明でもった。

 蒸気機関を転用した兵器……例えば蒸気船や機関車はまだ実用可能段階ではない。蒸気機関そのものがやっと試作段階に入って、これからさらに細かな実験と調整が残っている。下手に完成度の低いものを導入したら、最悪蒸気機関が爆発事故を起こす。それだけは避けたい。


「隣の工房ではハンドキャノンを作っているのか?」


 ハンドキャノンとは小型化を目指した大砲。つまりは小銃の前身となった武器の一つだ。ただ非常に重たく、ハンドというくせに二人がかりでやっと持ち運べるみたいな感じらしい。


「それの軽量、小型化を研究させていますわ。恐らく、どこの国も同じことを考えているでしょうけど……」


 とりあえず、今私が目指すのは蒸気機関、そして小銃、つまりはマスケット銃の量産。

 これじゃまるで、軍需産業の元締めね。

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