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第57話 元主人公は使いよう

 グレースという少女を一言で表すなら「人に好かれる天才」だろうか。

 しつこいぐらいに言うけど、この世界は元は乙女ゲーム。正確に言えばゲームとまるっきり同じ歴史を歩んでいる異世界ともいうべきだろうか。

 なんにせよ、グレースが五人の権力者の息子から好意を寄せられていた事実はある。それ以外にも彼女には多くの友人がいたらしいし、学園でもそれなりに目立つ存在となり、時には中心となって動くこともあったはず。

 その中の、数少ない例外が私というかこの体の本来の持ち主、マヘリアだろうか。あと、各ストーリーのお邪魔キャラたち。もはやどんな連中がいたのかは忘れたし、そもそも知らないけど、こういった一部例外を除くとグレースは誰からも好かれる少女だ。

 そんな、彼女が、国の王子の妻という背景を手に入れて、ゲットーへとやってこれば……それはもう大騒ぎになるに決まっていた。


「おい、助けなくていいのか? プリンセス、圧倒されてるぞ?」


 私たちの視線の先。そこには多くの難民に感謝を伝えられ、時には傅かれ、時には涙ながらの訴えを聞いては、圧倒されているグレースの姿があった。

 私に関しては時々様子を見に来るから難民たちも慣れたものだったが、まさかプリンセスまでついてきているとは思っていなかったらしい。

 最初は私がやってくると、いつ頃だったか、アルバートが私はゲットーとかでは聖女と呼ばれているとかなんとか言っていた関係で、私に群がってきていた。

 ただし、そばにプリンセスがいるとなれば、ねぇ?


「いーのよ。ある意味、昔に戻ったようで、本人も楽しんでいるというか、気楽なんじゃない? あの子、人とのふれあいとか大好きだったし」


 グレースは少々内気な性格な所がある。とはいえ暗い性格ではなく時々とんでもない行動力や頑固さを見せることがある。ゲームシステムの都合といえ、ささっとお菓子や料理を作っては攻略キャラにプレゼントしたり、問題解決の為にあちこち聞き込みにまわったり。

 意外とおてんばな所があるのだ。

 だけど、それだけじゃない。グレースには彼女自身も自覚してないものがある。


「今更というわけじゃないけど、あの子は幸運の女神の加護でも受けてるんじゃないかって思うときがあるわ」

「どうした急に」

「都合が良いのよ、あの子。あの子は、幸せになる為にうまれてきた子。そう運命づけられた存在なのよ、きっと」


 そりゃ、そういうゲームの主人公だからね。

 彼女は、誰をえらんでも幸せになる。そんな未来しか存在しない幸運の少女。

 こっちの世界ではグレースは攻略キャラの一人、ガーフィールドを選び結ばれた。そのほかの攻略キャラがどうなったのかは不明。そのうちの一人、アルバートとは出会ったけど、彼は家の会社を受け継いで、私たちと取引をしている。若社長という感じか。

 でも、間違いなく、彼女と好意的にかかわった人達は形はなんであれ幸せになり、問題も解決していっている。ほんと、例外なのはマヘリアのようなお邪魔キャラぐらいだろう。

 その、はずなのだけど……


「ただ、ちょっとそのあたりの幸運に陰りというか、ゆがみが出て来てる気がするのよね」

「そうか? 平民から、没落とはいえ、貴族になり、そして今じゃ憧れのお姫様だぜ?」

「そして、今現在、お国は戦争状態で、下手をすれば愛しい王子は死ぬかもしれない」

「……プリンセスの予知の事か?」


 私は頷く。

 彼女が見た悲劇の予知。でもそれはそれでずいぶんとおかしい話だと思う。

 いくらこの世界が現実的とはいえ、幸せになりました、でもその後は転落ですっていうのも逆に都合が悪すぎるし、ちょっと露悪的すぎる。

 何か致命的なバグでも発生したんじゃないのってぐらいだ。

 そしてそのバグが何かと言われれば……私よねぇ。うぅん、でもなぁ……私、いえ、マヘリア一人が生き残ったところで、何か不都合なことでも起きるかしら。

それとも製鉄産業が原因? でもこれやらないと私、死んでたし普通にそれは嫌。

 第一、木炭から石炭に変えただけで世界が崩壊するわけないし。


「まあ、私としてもこの国が潰れると面倒だし、また一からやり直すのは正直面倒くさいし、この戦争、勝たせてもらうつもりよ。それに、恩を売っておくのも悪くないじゃない?」

「お前、まさかと思うがそこまで考えてやってるのか?」

「いいえ、行き当たりばったりよ。どうすれば得をするのかぐらいは考えているけれどね。そこに、ほんの少しの善意もあるわよ?」


 あとはまぁ、あれよあれよと抱えることになったたくさんの従業員たちだろう。彼らの生活やこれまで尽くしてきてくれたことを考えると、やはり国には生き残ってもらう必要があるし、私としても彼らを見捨てるのは気分が悪い。

 私はグレースもガーフィールド王子も、あとついでにアルバートたちの事も、嫌いではない。かといって特別好きというわけでもない。でも、それなら十分、手助けする理由にもなるし、こっちにプラスになるというものだ。


「さて、そろそろ彼女もパンクしてきてる頃だろうから、助けに行きましょうか」


 件のグレースは、大人たちからはある程度開放されていたが、今度は子供たちに取り囲まれていた。

 グレースは子供たちと目線を合わせる様に、膝をついている。その頭には子供が作ったであろう花冠があった。

 細かいことだけど、ドレスなのに汚れても構わないという風に膝が付けるって結構、評価されそうだなって。


「はいはい、みんな、プリンセスが困っていらっしゃるわ」

「あ! 聖女様だ!」

「奥様だ!」

「魔女じゃないの?」

「それは言っちゃダメっていわれたよ?」


 はー、アルバートが言っていたことが子供たちにまで浸透してるとはね。


「おほほほ! 魔女でも構いませんよ。ですが、そうなると悪い子は連れてゆきますわ」


 と、冗談っぽくいうと子供たちも喜んだ反応を示してくれる。キャーキャーといって蜘蛛の子をちらすように走っていくのだ。

 そういう感じで注意を分散すると、やっとグレースが解放された。


「……聖女、ですか」

「ここの人たちが勝手にそう呼んでるだけよ」


 私自身もちょっと恥ずかしいんだからね。


「それで、どう? いろいろと考えることもあるでしょう」

「そう、ですね……」


 グレースは花の冠を手に取って、駆け回り遊んでいる子供たちを見ながら言った。


「私が、責任を取るわ」

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