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第50話 麗しの姫君、蠢く魔女


 しばらくは二人して、氷を食べ進めた。

 たまに冷たさで頭が痛くなるけど、それもちょっとした醍醐味と思えば楽しいもので、苦ではない。

 グレースもある程度、私への警戒は解いているようだった。

 お風呂でのリラックス効果と物珍しいかき氷、そして純粋に甘い食べ物という効果は想像以上というわけだ。


「ねぇ、グレース様。こういう時にお話しするのも不躾ではあると思いますが、ぜひともお聞きしてほしいことがあるのです。これはとても大切なお話なの」


 なので、私はほぐれたグレースにある提案をしようと思い、仕掛けた。


「お話?」


 こちらへの警戒をある程度緩めて、なおかつ私の真剣そうな眼差しにグレースも聞く態勢を整えてくれているように見える。

 これは、チャンスである。


「えぇ、でも、お話といってもグレース様の許可をいただきたいことなのです。ただ、それだけのお話」

「……どういう内容かにもよります」

「難しいことじゃありませんわ。ただお許しが頂きたいのです。もっと言えば大義名分」

「大義ですって?」

「グレース様。あなたは、嫌な予感がするとおっしゃいました。その予感は、私たちもそれとなく感じていることなのです。あぁ、これは状況把握による予測ですの。なぜハイカルンは戦争を仕掛けてきたのか、なぜ我が方の軍とそれ相応に戦えたのか、なぜ今なお力を蓄えていられるのか。そう考えたとき、あの国には私たちの知らない何かがあると思いました。そして、その予測はダウ・ルーのアルバート様の情報によって確信しました」

「アルバートの……どこか、遠い外国が関与しているという……やっぱり」


 グレースは沈痛な面持ちを浮かべて、溶けだしているかき氷を見つめていた。


「やっぱり……そうなってしまったのね……だとしたら……ガーディが」

「ねぇグレース。あなた、何を視たの?」


 私の指摘にグレースはびくりと肩を震わせた。そして、なぜという視線を向ける。


「あ、ごめんなさい。ただ、なんとなくそう感じたのよ。ほら、あなた、学生のころから妙に勘が鋭かったじゃない? こういうと失礼かもしれないけど、よくガーフィールド王子の居場所を突き止めたり、なんとなく世渡りがうまいというか、人の喜ぶ言葉や選択肢がわかるというか……学生の頃から、その部分はちょっと気になっていたのよ」

「あ、う、それは……」

「あの、別に責めてるとか、そういうのじゃないんだけど……純粋に、そういうのは凄いなぁって思っただけだけど……」


 さて、この世界が元はゲームであり、乙女ゲーム。イケメンキャラを次々と攻略して、最終的に好みの誰かと結ばれる。私は途中でそれを放棄した人間だけど、ゲームで一番触れることが多かったキャラは誰かと言われれば間違いなく、主人公であるグレースだ。

 ゲームだから、という視点を踏まえて、見ればこの手の主人公たちは相手が大体どこにいるかをいつも正確に把握できてる。


「こう……たまにふらふら~とどこかに行ったかと思えば、いつもガーフィールドとどこかに出かけていたじゃない?」


 そう、例えばマップなりを表示されて、キャラのアイコンが出てくるような画面。ゲームシステムの都合と言えばそれまでだけど、ここはゲームではない。ゲームを元にした似たような世界。

 他にも選択肢というものがある。これもゲームシステムだろうけど、それじゃあ毎回、他人が喜ぶ選択肢が何分の一の確率で紛れるものだろうか。


「それに、あなたはいつも味方が多かった。まぁ、これは若干、私のひがみも入ってる視点だけど」


 これを考えていくと、グレースにはそれとなく、他人がどこにいるかがわかるとかでもないと、つじつまが合わない。たまたま、そこに出向いたら目当ての人がいた。それがほぼ毎回、完璧な精度で?

 そりゃ不可能で、無茶な話よ。


「ねぇ、グレース。そこらへんどうなの。あなたは嫌な予感がすると言ったはずよ。それは、もしかして、何か視えたのではなくて? 薄ぼんやりとでも、何か、危険を見たのでしょう? それは、とても重要なことなの。あなたの勇気で、もしかすれば救われる命がたくさんあるかもしれないのよ?」


 多分だけど、彼女の予測、予知は完璧じゃないはずだ。

 他人を探す、もっといえば探し物をするという程度なら高い精度を誇るのだろうけど、これが運命を変えるような大きな問題に直面した場合はとたんにぶれるのだと思う。

 それが、選択肢という確率問題に派生するのだと私は考えた。

 そしてもっと漠然としたものも、彼女は感じられるのだろう。


「ガーディが……」


 グレースはやっと話してくれた。


「ガーディが死ぬかもしれない……」

「は?」


 帰ってきた答えは予想以上だった。

 死ぬってどーいうことよ。あなたには幸せな未来が待ってるはずだと勝手に思っていたけど?


「お、穏やかな話じゃないわね」

「和平交渉の使者として、ガーディも同行するんです。王族同士の直接対面ならば、ということで。本当なら、国王陛下が出向くはずなのですが、その、体調もすぐれませんし、お歳をめしていますし」

「えぇ……そ、それって誰か止めないの?」


 でも、そうか?

 そうなるのかしら? 重要なことだし、王様関係が出向いてしかるべきかしら?

 わ、わからないわ、政治はわからないの。どう考えたって危ないじゃない!


「反対する方もいました。そう、ゴドワン様もそれはと言ってくれました。でも、やはり、状況というものがあるらしく、ガーディも、それを受け入れたので」

「なんでそう変な方向には思い切るかしらねぇ……わかった、もうこれは国家存亡の危機よ。何がなんでもグレース。あなたには協力してもらう。あぁもう、アルバートにも、何か手紙書いてもらうわよ。あんたの手紙ならあいつも動くでしょ!」

「ちょ、ちょっと、何をさせるおつもりですか!?」

「助けたいんでしょう。好きな男を。だったら、私は過去のあれこれ全部水に流して助けてやるっていってるのよ! 国が潰れたらこっちの築いてきたもの全部消えるじゃない! いいわよ、別に、国が滅びそうになったら私は持てる技術と財産を全部敵にもっていって、地位を保証してもらうから! でも、嫌でしょそれ!」


 私はグレースの肩を掴んでがくがくと揺らす。

 グレースはされるがまま、目を回す。

 あぁもう、なんだ、なんだっていうんだ? なんでこんなに忙しいことになるんだ!?

 わかってはいたけど、もう少し楽な世界になってもいいじゃない! 

 やっぱり戦争は駄目ね。仕掛けてくる国も駄目。徹底的よ、徹底的。


「誰に喧嘩を売ったのか思い知らせてやるのよ」


 だから、私もそれ相応に、腹をくくるのである。 

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