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22話 悪女への片鱗?

 早いもので、異世界にたどり着き六か月。

 相変わらず我らがいすず鉄工は細々とした製鉄を続けて、農家相手の鍛冶屋まがいの仕事でなんとか食いついないでいた。

 それだけの月日が経てば、作業に慣れていなかった若い炭鉱夫たちも今では立派な製鉄業者へと様変わりしていた。

 私も椅子に座って、おしりを温めているだけじゃなく、炉を点検したり、新しい取引先を探すべく奥様たちと領地内の訪問に出かけたりと様々してきた。


 それ以外の変化と言えば、アベルたちの炭鉱が正式にゴドワンの所有物になったことだろうか。

 前の所有者はゴドワンに炭鉱を売ると、すぐさま別の森林を確保して伐採を始めたらしい。

 もともと、採掘途中かつそこまで利益を見込まれていなかったこともあってか、アベル曰く「親父としちゃ安い買い物だったんだろう」との事。

 それで炭鉱夫たちの生活が変わったかというとそうではない。まだ、それが劇的に変わる時期ではないのだ。


「雇い主が入れ替わる事はよくあることだ。そこは気にしなくていい。慣れてる事だからな。問題はここからだな。あいつらは我慢強い方だが、それだってずっと続くわけじゃない。今の所、お前たちがやって見せた領主をスポンサーに着けたというブランドで何とかつないでいる状況だしな」


 そう、アベルの言う通り、ここからが正念場だ。

 そして私の見立てでは、ここから状況は大きく変わってくるはずなのだ。


「うちの連中をあと、十人程、ここに送る。全員、五十代でな、さすがにツルハシふるって山を掘る作業はキツイ。ここも十分きついが炭鉱に比べりゃマシだ。それに三人、鍛冶屋をやっていた。怪我で引退しちまって、炭鉱に転がりこんできたんだが、知識ぐらいは衰えてねぇはずだ」


 その日、アベルはまたもひょっこりと顔を出してきた。彼はいつも突然やってくる。そのフットワークの軽さは見習うべきかもしれない。

 今日は、炭鉱に残った者たちをこの工場に回すための話でやってきた。

 彼がここに来るのは基本、仕事の話があるからだ。

 六か月もの間、操業を続けていけばノウハウも多少は蓄積する。新従業員を向かい入れても支障は出ないはず。

 本当なら一年は欲しい所だけど、簡単な作業を教えるぐらいならば今の従業員でも問題はないだろう。


「知識があるのは助かるわね。とはいえ、基本的に炉の火を熾す事と維持が役目となるし、溶けた鉄を運んでもらう事になるけど?」

「それぐらいはやってもらわないといかんだろ。何事も、楽な仕事はない。それに、ここもじきに人手が欲しくなるはずだ。炉の火の番は重要だろ?」

「それはそうだけど……何か、あったの?」


  人手が増えるのは良い事だけど、増えすぎても困る。こっちもお給料がかつかつで、今は共同財産みたいな感じで回しているのに。本当は個別にきちんとまとまったお金を出してあげたいのだけど。


「外国の方がな、ちょっときな臭い事になっている」

「戦争?」

「そこまではまだわからんが、武力衝突はするだろうさ。んで、そうなるとサルバトーレとしても警戒はしておきたいってわけだ。今はまだ遠い外国での出来事だが、何らかのしわ寄せは来る。その為の備えを万全にしたいんだろ」

「そう……」


 アベル曰く、海を隔てた別の国同士で利権だの、なんだのという衝突があるらしい。問題なのはそのうちの片方がサルバトーレの貿易相手なのだ。極端な話を言えば、友好国という分類だろうか。

 で、だからなんだという話だけど、件のいさかいをしている相手にとってみれば、サルバトーレも喧嘩相手の仲間というものになるらしい。

 この辺り、私は全く意味が分からないけど、サルバトーレとしても貿易国が危機なのは見過ごせないらしい。

 牽制の意味を込めて、兵力を送り込むことを決定したのだとか。


「ねぇ、それって挑発になるんじゃないのかしら?」

「知らんね。俺だって軍人じゃねぇし、最終決定権は王家になる。国王陛下がお許しになったんだろう」

「ふぅん……」


 なんか、それって下手を打ってる気がする。なんとなくだけど。

 だけど、その辺りの小難しい話は私にとっては、今の所、どうでもよかった。頭の片隅に残しておけばいい問題だろうし。


 ただ、ふと私が気になったのはこのきな臭い空気、果たしてゲームのラピラピにはそんな設定や雰囲気があっただろうかという部分だ。

 二章しかやってないので、もしかしたらそののちのストーリーでこういう展開はあったのかも。


 そもそもラピラピには軍人の家に生まれた攻略キャラとかいたけど、戦争のせの字すら見えなかった、はず。

 実はありましたとかだと恥ずかしいけど、それなら多少は描写もされるはず。

 それもなかったのだから、件の衝突はこの世界にしてみればまだ、小さな事件なのかもしれない。

 うーん、でも本当かなぁ。不安になってきたぞ。

 こんなことなら、もうちょっと先を進めておけばよかった。


「だからまぁ、簡単な話で、鉄の需要が高まってきてるわけだ。世間の連中もこぞって山をあさっている。木炭を手に入れて、鉄を作るだけ作るってことなんだろう。ま、それは良いとしても、このまま遠慮なしに続けていけば……」

「森は消えるわ。その前に伐採中止が飛んでくるでしょうけど」


 やはり、私の予感は的中した。近いうちに森林資源は枯渇をする。

 今はまだ何とかやりくりできていても、全員が全員、同じものを奪い合えば残るものは何もない。

 だから彼らは使わざるを得ない。石炭を。未加工のまま、ただ燃えるからという理屈で、彼らは石炭を使うつもりなのだ。

 その状況において、私たちは、石炭をコークスに変換する術を……あえて教えなかった。

 だって、それこそが、私たちの、武器なのだから。


「情報は出し渋るか……」

「違うわ。使い時を見極めているのよ」

「裏でほくそ笑むためにか?」

「酷い事言わないで頂戴。従業員を食べさせる為よ」


 どうせ、知れ渡る技術だ。コークスは種を明かせば単純なもの。真似をするのは容易い。だけどそれだとブランド感が失われる。


「せっかくここまでやってるのに、横取りされちゃかなわないもの」


 そうだ、周りにはただ石炭で作ってますとでも言っておこうかしら。それか、別口で木炭でも手にはいってると嘘でも言おうかしら。

 利益を求めるなら、ライバルは少ない方が良いわけだしね。企業秘密は知られちゃいけない。

 だから、徹底的に隠すのよ。いずれ広まるとしても、それはまだ先の話。


「まぁ、どこで戦争が起きようとも、私たちの方に危害が来なければいいわ。あなたは石炭を掘る、私はそうして出てきた石炭で鉄を作る。そして最後に笑うのは、私たちよ」


 あれ、それを考えるとなんだかゾクゾクする。

 ちょっといい気分。

 やだ私ったら、取らぬ狸のなんとやらだわ。まだ結果も出てないのに先の事を考えすぎているわ。

 気を付けてないと。油断こそが、命とりなのだから。

 あぁでも、こういう風に物事を動かすのって楽しいかも。ゲームなんかじゃ得られないスリルだわ。

 私、こういうの好きだったんだ。


「それで、今日はもう帰るの?」

「ん、やることはまだ山積みだからな」

「ご飯ぐらい食べる時間はあるでしょ?」

「まぁ、あるにはあるが……」


 なぜかアベルは時々腑抜ける。


「歯切れが悪い。私を避けてる?」

「ちげぇよ、なんだ、お前の邪魔するのも悪いと思ってんだよ。こういう仕事って、神経使うだろ?」

「だから、こうして気分転換したいんじゃない。で、どうするの、食べる、食べない?」

「……食べてくよ、それでいいだろ?」

「よろしい」



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