第110話 大陸浄化作戦
「こちらに乗ってくる賊なんてのは一握りだ」
マッケンジーの屋敷で、正装姿でいるのはコルンだ。
元山賊とは思えない姿だが、初めて出会ったときも彼は山賊には見えない出で立ちだった。結果的に、彼はサルバトーレ空軍の指揮官という立場に収まっている。エルフという種族特有の目の良さが、空から地上を見渡すのに非常に有利に働いている。
なおかつ彼の弓の腕前は間違いなく王国随一だ。エルフは弓を得意とする為ともいうが、コルンの弓はエルフの中でも上位に位置する……とは本人の言葉。
「そもそも、賊をやるというのは、社会になじめない連中だ。食い扶持がなく、仕方なくやっている連中、迫害を受けたか、一族が潰えたか、事情が関わる者もいるが、大半は、社会不適合だ。抹殺されてしかるべき連中だ」
さも当然のように言うコルン。
「乗っかるのであれば、俺は受け入れるべきだと思う。だが、愚か者の選別は行うべきだ」
「それは、そうでしょうけど……あなたはそもそもなんで山賊なんてやっていたのよ。抹殺されて当然と言い切るけど、それは自分も含まれているのではなくて?」
「俺はそもそも山賊をやっていたつもりはない。里を出て、一人で狩りをしていた。気が付けば手下が増えた。そうしたらなぜか俺たちを山賊と呼び、襲う連中が来た。だから撃退し、戦利品を獲た」
あぁ、そういう感じなわけ?
「コルンは自分から襲うことはない。話を持ち掛ければ聞く姿勢を持つ。だから俺ともこうして交渉ができた」
アベルがコルンと友人だったのはそういうことだったのか。
なるほどね、コルンたちのように周りがそういう風にとらえてしまったから、そう動くようになってしまったみたいな人も多いのかもしれない。
「まぁ、お前が言うのであればこちらから声もかける。話のわかる賊はそこそこいる。単純に反国家主義の連中もいるが、こいつらは俺でもわからん。始末するべきだな。食うに困る連中たちはまだ、比較的、信用はできる。それでいいのか?」
「えぇ、とにかくまずはこっちから働きかけて、様子を見るわ」
国家狩猟免許を発行させ、その決まりに従うだけの器量があればそれでいい。
ここまでおぜん立てして、今までの賊行為にもお目こぼしをすると言っているのに、それでも従わない連中のことは知らない。
こっちの新兵器のテストに付き合ってもらうだけよ。
「大陸の一大事。そこに貴族も平民も賊も関係ないわ。悪辣非道な敵に対抗する為、そしてよりよい生活を送る為、私はこうまでして手を差し伸べている。それを払いのける連中のことなんて、どうでもいいわ」
私は立ち上がり、二人に宣言する。
いえ、これはこの大陸全てに対する宣言でもある。
「これより、大陸浄化作戦を敢行します。すでにガーフィールド王子にも許可を得ています。国家主導において、この大陸は統一される。真なる栄光、さらなる発展、尊き平和の為。大サルバトーレ帝国、もしくは連合国家群を目指すのよ!」
***
大陸浄化作戦。
それは皇国との戦争に対してサルバトーレが各国に要請した統一同盟を含めた一連のプロジェクトである。
サルバトーレを中心とした連合国家に参加をするのであれば、こちらの持つ技術のほとんどを渡す準備が整っている。技術者の派遣が殆どではあるけど、蒸気機関も製鋼技術も、彼らにしてみれば喉から手が出るほど欲しいもののはずだ。
もちろんただではない。多少の金は払ってもらう。当たり前だ。これらの技術はサルバトーレの国家機密なのだ。相応の金額を耳を揃えて払う。
だが払いさえすれば、もうそれ以上を取り立てることはない。技術をそっくりそのまま渡すし、理解するまで技術者たちを滞在させる。
もし金額が支払えない場合は一部の鉱山を手放すことで同等の条件とする。もちろん、その場合でも全ての技術を手渡すつもりだ。
さらには一部の資材も技術と同時に渡す。こっちも余裕はないけど、必要経費と考えれば、安いものだ。
蒸気機関を作りたければ鉄がいる。その鉄を作るには資材がいる。さすがに何もありませんなところに手渡しても意味がないしね。
どっちにしろサルバトーレに損はない。各国においても長い目で見れば損はない。技術が発展すれば、自分たちの国内領地の未開発地帯の整地も進むわけだし、そこで新たな技術革新が興ればサルバトーレもそれを言い値で買う。
これを受けるか、受けないかは各国の自由だし、受けないからと言って戦争を仕掛けるつもりはない。そのまま放置だ。
とはいえ、どっちが得かは一目瞭然だと思う。
そして、これだけじゃない。
大陸浄化作戦の主な内容は山賊、海賊、そしてモンスターの討伐による大陸内安定だ。ある程度、身内の不和の種は取り除いておきたいというのもあるけど、この賊一掃の主な理由は戦力確保だったりもする。
とはいえ、信用ならない賊の方が多いのだから、このあたりの選別はかなり慎重となる。仮に、賛同したとしてもそこからの動きを審査して、益がなしと判断されれば資格を剥奪する。
それだけ、国家による資格は重い。だけど、忠節を尽くすのであれば、間違いなく厚遇する。
国家狩猟許可証……国の命令、法令にのっとるのであれば狩りを許される。プロとして認められる。
同時に……その対象は、敵国にも適応される。
そう私掠船のようなものだ。サルバトーレは山賊に対してこれを交付するのである。一方で、ダウ・ルーには海賊に対してこれらの行動をとってもらうことになる。
戦争に対する準備期間。私たちができるのはとにかく、戦力を増強すること。その手段は問わない。
しかしこれらの行動は戦争が終わってからも続く。
山賊も海賊も多くがプロとなる。彼らは国家やその他の依頼を受け、必要な処理にあたる。
あぁ、確か、元いた世界の人たちはこういうのを……『冒険者』と呼ぶのだっけ?




