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第109話 神のみぞ知る転生

「撃て」


 騎士ベルケイドの号令の下、マッケンジー領外部に隣接する騎士駐屯所では今まさに射撃訓練が行われていて、それを領主であるゴドワンと妻である私が視察するという流れになった。

 かつて人は銃声を雷のようであると表現していたと、何かの本で読んだことがある。

 大砲よりは小さいのに、ある意味で身近な恐怖に映ったのだろうか。


「小銃の開発は成功とみていいか?」


 総勢、二十人からなる小銃テスト員たちはそれぞれ、四人五組のグループに分かれて、順々に射撃を行う。織田信長もかくや、三段撃ちの要領である。

 マスケット銃は弾丸と火薬を込める作業の関係で連射ができないので、こういう形をとるのは当然といえば当然だった。

 こうして開発された新兵器を前にゴドワンは満足気であった。

 小銃は間違いなく売れる。大砲のようにかさばらず、それでいて威力もある。並大抵の鎧では銃弾をはじき返すことはできない。


「素晴らしい兵器です」


 部下たちのテストを見ながら、ベルケイドも感心したように火薬と弾丸の入っていない小銃を手に取っていた。


「大砲よりも素早く展開できるというのは大きな武器です。鎧も貫通いたしますし」

「ですが扱いには気を付けてください。過去、数度のテストでは暴発して大怪我を負ったものもいます。これらの兵器はまだ洗練されたとは言えません。どこに不具合があるのかわからないのですから」

「はっ、それは重々承知しています、奥様。今回のテストが終わり次第、小銃を分解し、破損個所を工場に報告するつもりでした」

「ならばいいです」


 少しでも安定性を高めておきたいのは当然のことだ。

 小銃という技術革新が進んでしまったわけだけど、新しい技術というのは使い続けるとどこか問題が発生する。壁にぶち当たるというものだ。

 蒸気機関も、細々と量産されつつあり、各地の鉱山に設置され始めているけど、ノウハウが成熟されていない、統一されていない為に不具合の報告もある。

 そのたびに現地に専門家を送り込んだりもして、技術指導を行うのだけど、これはある意味で正しい姿だ。

 また同時に、ダウ・ルーにそのまま置くことになった鉄鋼戦艦も一部、潮風の影響で錆が見つかり現在は大改装中である。錆止めがはがれてしまったらしくその原因を調査中であった。

 建造中の二番艦に関しても、同様の危険性を予測したのか徹底的な錆止め方法を模索している段階らしい。

 すでに三番艦の建造も予定されているのだけど、さて今後はどうなるか。


「しかし、この小銃と飛行船というものが完成すれば、我が騎士団はまさしく陸海空の全てを制覇するとうことになりますな。気球も、悪いものではありませんが」


 サルバトーレの各地では気球が多く飛ぶようになった。軍事兵器としてよりは観測的だけど、それ以上に気球のメカニズムの研究と実験という側面が強い。今だ遊覧目的には危険すぎて使えないというのが私の判断。

 空を飛ぶというのは並大抵の事ではないのだ。飛行船も本来はヘリウムガスを使うのが常識的だけど、私、ヘリウムの観測方法なんて知らないし、現時点であのガスを確保する方法が思いつかない。

 そのため、かなり危なっかしいというか、間違いなく危険だけど蒸気機関を使った大きな気球を飛行船と言い切って製作させていた。

 まぁ、ヘリウムなどのガスに関しては後々の時代に任せましょう。理屈さえわかればきっと、私たちの子孫がなんとかするはず。


「フム……お前がこの領にきて早くも二年目か……たったそれだけ、我が領内は最先端を突き進む。まるで神の意思を感じるよ」


 ゴドワンは薄くなった頭をなでながら、領内に広がる気球や工場の煙、そして小銃を見つめながらまるで溜息をつくように、言った。

 最近はめっきり体が弱くなってしまったゴドワン。日中は精力的にあちこちに出向いては仕事をしているけど、夜になると疲れ果てすぐに休んでしまう。

 彼も、歳を取っていたということだ。


「では私は神の使いですね」

「それはないな。お前は闇の底から這い出てきた魔女だよ。神の使い程、慈悲深くもないだろう?」

「まぁ、酷いことをおっしゃる」


 冗談には冗談で返す。

 でも確かに、私がこの世界に転生、憑依したのってどういうわけなのかしら。

 思い出せば、あの研究室で、聖翔石を見つけてしまったのが原因とはいえ、私はあの石に何か願いごとを念じた記憶はない。

 私の深層意識の中に眠るなんたらかんたらな欲望に反応したなんて言われたらもうどうすることも出来ないけど、実際問題、何かが影響を及ぼさないと私はここにはいない。

 それこそ、神様がいたとして、なんで私だったのかも気になる。

 結果的に、近代化を進めてはいるけど、それならもっとふさわしい人たちがいるだろうし。


「もしかしたら、私は悪魔の使いかもしれませんよ?」


 神様以外でこんなことをできるのはもう悪魔ぐらいだけど、それこそなんだそりゃという結論だ。

 なぜ私がこの世界に来たのか。ちょっとは真面目に考える時期もあったけど、よくわからないってのが本音なところ。

 意味なんてないのかもしれないし、そんな重く考える必要もないのかもしれないけど……さて、どうなるかな。

 私は、私で好き勝手やってるし、楽しみも見いだせてはいるけど。


「なに、神であろうと悪魔であろうと、利益をもたらすのであれば人は祭るものだ。おっと、これは邪教徒の発言か?」


 ゴドワンはちらりとベルケイドを見た。

 ベルケイドは首を横に振って、微笑しながら答える。


「聞こえませんでしたな。これは独り言ですが、人の為になるのであれば、それでよし。人の為にならぬのであれば神も必要ではなくなります。人間とは、そのあたり、したたかであると思いますよ?」

「だそうだ、イスズ。魔女という名も、のちの世では崇められるかもしれんぞ?」

「いやですわ、こそばゆい」


 ま、私は世界を滅ぼそうとは思わないし、技術発展もある意味では自分の生活を潤す為だから、国にも滅んでほしくない。

 利益と生活水準を求めるのは決して、悪ではないと思うから。

 神か悪魔かわからないけど、私に一体何をさせたいのかしら。

 私は私のやりたいことを、続けていくだけだけどね。

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― 新着の感想 ―
[一言]  炭鉱で石炭掘って、脱硫のためにコークスにしているのなら、硫黄が手に入っているわけで、硫酸も作れるはず。それで金属をイオン化させれば水素が発生したような気がする。確かに危険ではあるけど、水素…
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