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第106話 王国への帰路

 空からの攻撃という前代未聞の所業から翌日。

 皇国軍は海域から艦隊を下げるという判断を下した。被害総数という意味においてはこちらの方が大きいのだけど、大陸が続き他の国の協力があればある程度の兵数は揃えられる。

 対する皇国軍は海上に居座る関係で備蓄の消費は激しかったのだろうか、士気の維持が困難になったから、下げなければいけなくなったとはアルバートの談だ。


 今回の戦い、俯瞰的にみると痛み分けとなり、どっちかといえば損をしているのは私たちの方だけど、世間の見方はちょっと違う。

 謎の大国、卑劣な敵国、これの本土上陸を許さず勇猛果敢に戦い抜いたダウ・ルーの海兵たちは未来永劫、歴史に刻まれることになるだろう。

 同時に、私が提案したサルバトーレ空軍もまた、華々しいデビューを飾ったと言える。

 失われた気球は三つ、未帰還の兵士の数は九人。決して多いとは言えないけれど、私は彼らの名前を覚えておこうと思った。

 ある種の特攻兵器に近いこの初期型の気球で、墜落してもなお奮戦した彼らは、お金以上の何かで戦ってくれたのかもしれない。

 破れかぶれになって、暴れただけかもしれない。それでも、彼らが敵の船の上で暴れてくれたことで、敵の混乱は加速したのは事実だった。


 そして、敵の完全な撤退が確認さると同時にキリングス王、そして合流したガーフィールド王子はともにこの戦いで死んでいった者たちを弔い、英霊として祭り上げるという手段に出た。

 これに関しては私は否定はできない。このような時代だもの、こうでもしなければ維持できないものがある。

 それに王たちは元山賊だったメンバーの家族を探し当て、相応の謝礼を行うことも約束してくれた。


 とにかく、当面の戦争は終わった。もちろん、終戦ではないけど海上戦闘、それに遠征というものは船に積み込める物資で決まる。当たり前だけどご飯が食べられなければ戦えないし、火薬がなきゃ大砲は使えない。剣を持って、敵の船に乗り込むというのだって早々簡単にできることじゃない。


 なので、今度こそ、本当に、再侵攻は数か月先になるだろうと予測された。

 戦死者たちの盛大な葬式が終われば、私は即座に仕事に取り掛からなければならない。鉄鋼戦艦や気球の改良、蒸気機関の量産、小銃だって数を揃えないといけない。

 さらには大陸の鉄道網の整備だ。こればかりは数か月でできるとは思わない。それこそ、三十年、四十年はかかることだろう。手始めにサルバトーレとダウ・ルー間の整備だけど、さてこれも何年かかるのやら。単純にレールを敷くだけというのなら話も変わるけど、脱線事故なんてシャレにならないし。

 やること、考えることがいっぱいだわ。


「喪が明けぬ間に仕事か。何というか、さすがというか」


 揺れる馬車籠の中で、アベルは苦笑気味にいったけど、嫌味ではないと思う。

 私たちは今現在、サルバトーレへの帰路についている。さすがに長く開けすぎたというのもある。鉄鋼戦艦の一番艦はもうダウ・ルーに残した技術班で何とかなると思うし、二番艦の製造も緩やかだけど始まっていた。

 サルバトーレに戻り、処理しなければならない仕事と国内でのあれやこれやに参加しなければならないというわけ。

 

「海を制覇し、空をも手に入れた魔女」

「やめてよ、むずがゆくなるんだけど」


 この馬車に乗り込んでからアベルは思い出したかのようにその言葉を言ってくる。戦いが終わってからダウ・ルーでささやかれるようになった私に異名だった。

 わからなくはないけど、恥ずかしいったらありゃしないわ。


「だがお前は飛行船の開発に着手するつもりなんだろう?」

「当然でしょ。気球を活用するのはあの一回限りと思いたいわね。あんなの、特攻兵器よ。今でも、なんであれを採用させたのかわからないわ……死んでいった人たちに申し訳が立たないもの。あれしか方法がなかったなんて言葉で言い訳はしたくないわ」


 気球は気球として必要不可欠なファクターになる。空を飛ぶという認識を持たせる中で、あれほど簡易的に出来上がるものはない。だけど、軍事兵器という意味においてはやはり脆弱性が否めないし、安定性にも欠ける。

 だったら、安定した飛行や方向転換が可能な飛行船を求めるのは当然というもの。戦争に使わない遊覧船としても活用したいし、空路というものが開拓されれば大陸の隅々まで開発が行き届く。


「何より、私が恐れるのは敵が気球をコピーしてくることよ。はっきりと確信をもって言うけど、敵は真似してくるわよ。鉄鋼戦艦もね」

「マジかよ……」

「連中にはそれだけの知識と技術力があると思う。それに国力も……過小評価はできないわ。ここから先は、どれだけ性能の良いものを作るかで決まる。まぁ、すぐさまにコピーと量産が可能とは思わないわ。蒸気機関の秘密もあるし……敵は、多分そのことを知らなかったはず。父上と母上がもたらしたこちらの情報は、技術革新前のものだろうし」


 利用されるだけ利用されたあの人たちには悪いけど、結果的には皇国がこちらを下に見るということになった。その点だけは評価してあげてもいい。

 まさかむこうにしてもこっちが近代的なものを準備するとは思わなかっただろうし。

 だけど、アベルにも言った通り、技術ってのは模倣から広まるものだ。間違いなく、似たようなコピーは出てくる。

 錬鉄の装甲ではなく、鋼、そして合金の採用を考えたいところだけど、実際のところはコストもあるので難しい。

 しばらくは錬鉄装甲戦艦が主流となるはず。そこに空軍の装備を充実させれば勝てない道理はないはず……となると、やっぱりサルバトーレとダウ・ルーだけじゃ物資も資金も人材も足りないわね……やっぱり、他国を併合するしかないわ。


「内戦なんてやってる場合じゃないけど、こうも小国が入り乱れていると邪魔よね」

「おい、何を考えている」

「別に。ただ、大陸が一丸となるには連合国家でも統一国家でも良いから一つにまとめ上げて全体で取り組む必要があるってだけの話よ。我が王子たちにそれだけの胆力があるかはわからないけど、やってくれなきゃ。座して滅びるなんて、ごめんだもの。王都につき次第、進言するつもり。グレースを通せばガーフィールド王子も首を横に振ることはないはずよ」


 

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