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第104話 戦中の動き

 たった一日で八機の気球が完成したのは単純に考えてもすさまじいことだ。構造が単純であるとはいえ、強度や安定性の事も考えれば普通、これだけのことを行うには技術がいる。

 ある意味、蒸気機関や高炉の作成、開発などをさせていたことが結果的には功を奏した形になったらしい。

 これらは技術としては全くの互換性はないけれど、技術という大きな枠組みの中では共通している。

 柔軟に物事が理解できていると言ってもいい。


「飛行実験! まずは無人で飛ばすわよ! それが終わったらさっそく有人飛行実験! 風の魔石を使って進むかどうかも調べるわ。魔法使い搭乗の気球は同時に脱出のレクチャーも受けて頂戴よ。それと、これから用意するパラシュートについても──!」


 気球を作る際に余った材料で私は簡易的なパラシュートも用意させた。正直、落下の衝撃を抑えられるかどうかは疑問の残る代物になっているけれど、あるとないとでは気持ちの持ちようが違う。

 とはいえ、絹布で作成された簡易パラシュートが果たして機能するかどうか……パラシュートは仮に開いて、機能したとしても相応の高さがなければ意味がないと何かで聞いたことがある。

 何も、高度ウン万メートルから落下させるつもりでもないけれど……あぁ、嫌になる。かもしれないばかりだわ。

 でも、私はそれを彼らに、実行させようとしている。してもらわないと困るというのもある。


「パラシュートの機能実験は適当な荷物を高所から落として試して頂戴。それと、布製だから破損に気を付けて。破けたらそれでおしまいよ」


 それぞれに指示を出す。

 工房の広間では元山賊たちが一応は真面目にレクチャーを受けていた。コルンが統率しているのも大きい。真面目とはいえあぐらをかいたり、寝そべったり、飲み物を片手にという姿が見えるけど、まぁ、比較的、彼らにしてみれば、真面目らしいとはアベルの談。

 曰く、どこそこを襲う、どう襲うかのタイミング、それらを説明して、理解しなければ山賊稼業なんて続かないということだ。

 良くも悪くもコルンというカリスマを持つリーダーに率いられているからこその姿なんだろう。


「空軍ね……また俺がいない間に面白いものを作ろうとしたな、イスズ?」


 アベルだった。

 軽装の鎧姿を見ると、彼もどうやら参戦を希望するらしい。


「昔、ガキの頃に読み聞かせてもらった物語があった。ドラゴンにまたがる勇者の物語だ。いやまさか、ガキの頃の夢が、こんな形で叶うとはなぁ……ドラゴンじゃねぇけど」

「仕方ないでしょう。そういう形を整えるようにして空を飛ぶというのはとても難しいのよ。今の技術は無理ね。まぁ、これが終わったら飛行船ぐらいは用意させるわ。空飛ぶ船。これも物語に出てくるでしょう?」

「どんなのになるか想像もつかねぇな。なんていうかよぅ、俺がガキの頃に空想していたものがどんどん、形を変えて実現していくというのは嬉しいような、寂しいような」

「良いじゃない大人になっても夢を忘れないことはいいことよ。それより、ラウ……アザリーを見かけなかった?」

「アルバートが粉かけてる」

「あ、そういえばまだ押してなかった。うぅん、アルバートも共犯者にするべきかしら?」


 もう私自身もラウが女の子だと平然と思い込み始めていた。彼、本当は亡国の王子なのにね。

 って、そんなことはどうもいいのよ。


「アザリーにも手伝ってもらいたいことはたくさんあるのよ。失恋ボーイから引きはがさないと」

「お前、それは言ってやるなよ。それより、戦艦の修理だが」 

「あぁ、それも気になっていた。どうなっているの?」


 穴ぼこだらけの鉄鋼戦艦。表面の装甲を取り換えるだけ、とは簡単に言うけどその作業が難しい。重い鉄の板を取り外しする作業は重労働だ。

 意外と、この仕事で役に立つのがゴーレムと呼ばれる存在。魔法で作った土塊の巨人。土くれというけど、実際は魔力で無理やり人の形を作って動かしているので、木材だろうが石材だろうがなんでもよかったりする。

 とはいえ常時展開されると邪魔なので作業の時だけ。ある意味、ゴーレムは重機に近い運用をしている。


「装甲の付け替えはどうとでもなる。つぎはぎ見たいになっちまうが、完全修復するにはそれこそ数か月単位がいるだろ?」

「そうねぇ……次の戦いではあまり無理はさせられないわね。外輪は?」

「うまいこと、分離させれるらしいからな。破損の仕方がよかったらしい。新しいのを取り付けて、細かい調整で済むらしい。装甲よりは楽だそうだ。蒸気機関にも影響はなかったようだし、それだけが幸いだな」

「そう……もうこの際、砲台も取っ払って全部装甲でうめてもいいんだけどねぇ……装甲戦艦として盾になって浮いててもらう方が今はいいかも」

「おいおい、こんな高性能な船を盾にかぁ? もったいないだろ」

「冗談よ。とりあえず、ゴーレムたちの稼働率を上げておいて。正直、出てもらわないと困るわ。士気にも関わるし」


 ゴーレムだけじゃなく、簡易的な蒸気機関によるリフトも活用はされているけど、こっちは補助程度のものだ。まだ完全に転用できるわけじゃない。

 いずれは重機も開発したいところね。なんだかんだ土地開発には欠かせない代物だし。魔法で、ゴーレムで代わりをさせるというのも便利の反面、結局は魔法使いが「使われる」という立場になる。

 それを嫌う人は多い。で結局は、人力になるわけだし。

 まぁそれもこれも、今の局面を乗り切ってから考えるべきことだけど。


「流れとしては気球部隊の編制が先に終わりそうだし、そうなると……」


 あとは敵の出方次第……もしかすれば今日にでも襲ってくるかもしれないと思えば、焦りたくもなる。

 せめて、明日までは待ってほしい。

 あぁ、時間が止まればいいのに……!


「伝令! 敵、艦隊に動きあり!」

「あぁ、もう!」


 私は思い切り叫んだ。

 どうしてこう、戦争がしたいのかしらね、連中は!


「空軍に伝えて。もしかすると、今すぐにでも飛んでもらうことになるかもしれないわよ!」


 何事も、調子よくいくとは、言えないということね……全く!

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― 新着の感想 ―
[一言] 戦争は技術を向上させるを地でいってますなあ 個人的には高度調整のできない気球には乗りたくないや
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