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癒しの巫女

作者: 猫野ピート

深淵の森、そこはエルフの住む秘境。

人の身長を遥かに超える大木と寄り添う様に生きるエルフは、その生活様式から森の人と呼ばれる。いつの頃かその様な生活をしているかは分からないが、先の神災の遥か昔からだという。しかし、神災で歴史的資料がなくなった今となっては誰も知る手段はない。


なんにせよ、深淵の森はの太古の昔より生きる樹々によってエルフのほとんどは神災を生き残る事が出来たのは不幸中の幸いと言えよう。しかし、樹々は深く傷ついたのは間違いない。これは、深淵の森に住まうエルフにとって人ごとではない。そのため、エルフ達は癒しの巫女の派遣を要請したのだ。


癒しの巫女、それは神災後に突如として現れた美しい女性。白銀の髪をなびかせ、世界各地の神災地を訪れ、癒しをもたらす聖なる巫女。しかし、彼女の正体や彼女の崇める神が何であるかは誰も知らない。もしかしたら神災を引き起こした太陽神やその使いであるのかもしれない。だが、彼女が人々を癒すのは事実であり、それこそが人々にとって重要なことなのだ。


たとえ、癒しの巫女の正体が、こことは別の世界"日本"と呼ばれる国で非常勤講師で食いつなぐ甲斐性なしのおっさんが転生した存在だったとしてもだ。



今、エルフの青年 アスタ の前には癒しの巫女がいる。正確には、癒しの巫女は美人台無しのボロボロの服装でアスタの家の前に現れたのだ。

アスタの家は、エルフの街より少し外れに位置しており、巨木に巻きつく様に作られている。いわゆるエルフ伝統のツリーハウスというもので、入り口は、地上から人間の男2人分、トロール1人分という高さであり、現在は入り口の梯子が壊れており、普通には登れない状態になっている。そのためアスタは、いったいどうやって人間の女という弱い生き物である癒しの巫女が、アスタの家の入り口に立つことが出来たのか、想像もつかないことだろう。ひとえに、おっさんの生命力と根性とでも言えるのかもしれないが、ここはアスタくんの夢を壊さぬように癒しの力とでも言っておこう。


純情なるアスタくんに癒しの巫女は一言

「食料と水を分けて下さい!」


「い、いいですけど、あなたはまさか"癒しの巫女"さんですよね?」

「今はそうです。けれど、それよりも食料と水をお願い出来ませんか?死にそうなんです」


巫女はそう言うと、アスタに惨めったらしくしがみついた。アスタはどうしたらいいのかも分からず、リビングに招き入れてしまった。


アスタは、キッチンへ向かうが、少食のエルフの中でもひときわ少食のアスタのキッチンには何も食べるものなど何もなく、アスタはコップに水を入れて、巫女の元に行った。


巫女はアスタが来るやいな燦々と輝く目でアスタを見つめた!

しかし、アスタの手に持つコップを目にうつした瞬間にこう言った。


「も、もしかして、この家には食べ物はないのか?ああ、そうかエルフは少食だったのか〜

あ!そういえばエルフは肉とかも食べないのか!じゃあ、俺、いや、私は何を食べてこのエルフの街で生活すればいいんだ!」


巫女は泣き、崩れ落ちた。その姿だけは、亡国の姫と言って良い雰囲気ではあるが、内容はただの乞食発言である。私もなんでこいつを巫女に選んだのか憤りを感じる。


これにはアスタ青年もタジタジである。すると、ムクッと巫女は突然立ち上がり、アスタ青年の手を取った。


「水、ありがとう。本当にありがとう。とても感謝しています。このご恩は一生忘れません。でも、私はお腹を満たしたいのです。そう、腹を満たしたいのです。腹が膨れる程、何かを食べたいのです。そのためにもどうかエルフの街まで案内してくれませんか」


巫女はアスタ青年の目を曇りなき眼で、真っ直ぐに見つめ、一言一言感情を込めていた。アスタはトマトよろしく真っ赤になって、大きな声で「ま、任せてください」と言った。その姿は誠に滑稽である。

しかし、よく考えてみよ、読者諸君。いや、男性諸君、そして女性の皆さん。言動がどうであれ美人から見つめられるという事の重大さたるや、ピュアな男ならばこそ舞い上がってしまうもの。もちろん男や女というつまらない垣根など関係なく、美しいモノの眼には、見つめられたモノを狂わせる魔力があるのだと私は考えている。数年前、太陽神であるこの私はさえも日食の神たる乙女のあまりの美しき眼に大地を震わした程である。そのときの魂達よ!悪いのは日食の神の美しき眼である。私ではない。



この巫女の魂胆は分かっている。タダ飯といつ誠につまらないものの為である。

私はコヤツに"崇められる存在"という最高の価値を提供したのにもかかわらず、

コヤツは「崇められて腹が満たせますかね?俺が欲しいのは、莫大な金か、なに不自由のないニート生活なんだよ!何が悲しくて、無休で無給の人救いボランティアをやらねばならないんだ!いい加減にしろよ!しかも原因は」

「うるさいぞ!喚くな小童が!私にそんな口を聞けばどうなるか分かってるんだろうな!」

「知ったことか!」

「ならば教えてやる!」

私はコヤツに"癒しの巫女"として働かないと存在を消す呪いをかけた。コヤツは、「哀しき奴隷になってしまった」と言っていたが、これほどまでの恩恵は他にないと私は思っている。コヤツは大人げなく泣いていた。大の大人が泣く姿はあまりにも醜いので、私はコヤツを仕方なく美人にしてやった。これで幾分かはマシに思えたが、根が腐ってると、幹も腐るらしく、相変わらずの醜さである。



巫女はアスタに連れられて、エルフの街に着いた。その間、巫女はアスタに愛想振りまくこともなく淡々と会話をして、アスタ青年の純情をボロボロと踏みいじったのは言うまでもない。


エルフの街は、深淵の森の中でも巨木の密集地であり、巨木を利用した多層の街である。そのため、比較的小さな面積にも関わらず、人口は多い都市として知られている。

しかし、巫女の癒しは都市の基盤となるその土地に向けなければ効果はない。特に今回は、エルフよりも深淵の森へ向けた癒しが求められるならば、なおのこと、地面で巫女の癒しの舞をしなければならない。

親切な私は巫女が間違えぬようこの多層を燃やしてやった。すると巫女は棒立ちでその場に止まり、エルフ達は必要以上に慌てだした。


「俺、いや、私の飯が…。燃えてる…」

「街が燃えてる…」


巫女とアスタ双方とも私の偉大さを噛み締めた。すると、エルフ達の数人が、巫女の存在に気づいた。


「癒しの巫女だ!」

「あれが巫女」

「巫女だと⁈」


人目に慣れてない巫女は微妙に引きずった表情をしたが、なんだか諦めた様に言った。


「今すぐこの地を癒します!

エルフの皆さん、対価として私に一週間分の衣食住を提供して下さい。それに美しい美女も捧げて下さい」


巫女そう言い切り、燃える都市の中に入っていった。不思議と炎は巫女に寄り付かず、巫女が歩むその地を中心に炎は収まる。


それから巫女は白銀の髪を勢いよくなびかせて、手を左右に広げ、天を仰いだ。

すると炎による音、人々の逃げ惑う音、その全てが海が波を引くように跡形もなく消えていった。その姿はまさに奇跡そのものであると言えよう。

一つ風が吹く。それは樹々の隙間を通り抜け、鋭くも優しく、たくましい音となり消える。すると、あたり全てが音のない真正な世界がエルフ達を包んだ。

そこに炎はなく、痛んで枯れそうな樹々もない。神災で気づついたものその全てに癒しの祝福が訪れた。それは形容することさえ躊躇われるまごう事ない美しさであった。


エルフ達は息を飲む。美形と言われしそのエルフ達でさえもたじろぐ真の美がそこにあったからだ。


癒しの巫女は言った。


「それでは皆さん期待していますよ」



聞く話によれば、白銀の美しい巫女は天から来た慈悲深き神の化身だとか、形容する事すら躊躇う美しき存在だとかいうらしい。

しかし、私に言わせればただの乞食のオヤジである。その証拠に見よ、今の巫女の姿を!両サイドにエルフの美女をはべらせ飯を食らうその卑しき姿を!


「エイラちゃんって言うの?可愛いね。本当に可愛いね。ねえねぇ、やっぱりデカイよね。少しだけ触ってもいいですか?ど、同性のよしみで、ねぇ?」

読んでくださってありがとうございます。


もし、よろしければ感想をお願いします。


人気が出れば続編でも考えようかなとか思ってます。

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