86・破裂。
次の日、ボールは使えなくなっていた。
二個造ってもらったんだけど一個は空気が抜けたようで凹んでいたし
もう一個はなんと破裂したように壊れていた。
う~ん……空気が抜けたのはともかくもう一個は壊れてなかったんだけど?
犯人は例によって警護兵なお兄さんたちだった。
あー……まあ、子供たちが楽しそうだったからねぇ。
ちょっと試してみたかったって気持ちはわかるよ、うん。
彼等は警備・警護が仕事とはいえ鍛えてるからね。
子供たちとは体力も腕力・脚力も違う。大人だし……
でも大人な割にはやることが子供っぽいよねぇ。
夢中になりすぎて壊しちゃうなんてさぁ。
「す、すみません。
ジャングルジムの時もそうだったんですが一人が始めたらもう止らなくて……
まさか壊れるなんて思ってなかったんです。
本当に申し訳なかったです」
まあ、このボールは試作品だからね。
強度に難があるってのはよく分かったからイイよ。
ボール遊びは楽しかったですか?
「田舎で豚の膀胱を膨らませたのを使って取り合う遊びを子供の頃しました。
アレよりは弾むし重さがあるので扱いやすくてつい夢中になってしまって……
値段がオレ達でも買えるモノなら買いたいです。
ココの土産に田舎に持って帰りたいくらいですよ」
豚の膀胱……(汗)
アレ? なんかそういうのがフットボール全般の元だったって話があったよな。
でも確認は出来ない……前世のコトなんて確認なんか無理だもんな。
ココにもウィキペディアがあればココのことだけでも簡単に検索できるのに……
大人の彼等がそう言うなら商品的な魅力はありそうだね。
問題はお値段と強度かな?
後は空気が抜けない工夫、あるいは空気を入れるための方法か……
「空気入れ」なんて多分ココには存在しないと思う。
ということで錬金術師のロザさんの仕事はまた増えてしまった。
壊れにくい強度のあるゴムの開発と空気が抜けた場合の対処法を見つけること。
でも、空気の方はメイド頭のライアさんが簡単に解決してくれたよ。
「風魔法の応用で大丈夫だと思いますよ。
でもコレに空気を送り込む部分が有れば子供でも入れられると思います。
何処にもそんなのは付いてないですよね」
あー……そうだった。
ボールには空気を入れるためのバルブが付いてたんだった。
まあ、ソコから少しずつ空気が漏れていったりもしてるんだけどね。
試作品のボールは何処かに穴が空いてしまってたのかもしれない。
ロザさんもボールなんか造ったのは初めてだったろうから。
うろ覚えな前世の記憶を動員してなんとかバルブを造ってもらった。
「空気入れ」が無くても空気は入れられるのが確定したよ。
大人の兵士が蹴飛ばしても破裂しない強度にはもう少しかかりそうだった。
お子さまモニターズは呼んでないのに次の日にはまたやってきた。
そうして警護兵たちがボールを壊したと知ると怒り狂って兵士たちを
蹴飛ばしにかかってしまった。
相手が子供たちだと反撃しづらいよねぇ……お気の毒さま。
次のをロザさんが造ってるからと説得するまでなかなか収まらなかったよ。
子供のモノに手を出すとはジャングルジムの時もアスレチックの時も
思わなかったけどボールもこんなことになるとはねぇ。
コノ世界って娯楽が少ないのかもしれない。
大人も子供も……ね。