766・殺(や)る気満々。
一件落着となるはずだったんだけどねぇ。
巫女の姉君は自分が生け贄になるので妹を許して欲しいと願い出た。
運んでくれたサーシディさんの意見は聞かなくていいのかね?
「だめだな。大体巫女の能力も無いのに巫女の振りをしてたんだ。
家族も一族も裏切っていたのと同じだ。
いくら転生者で多少皆と違う知識を持ってたとしてもやり過ぎだぞ。
まあ、生け贄と言ってるがオレには人を喰う趣味はない。
ちょっとした仕事をしてもらうだけさ」
転生者と聞いて慌てて巫女を鑑定した。
あちゃー、確かに転生者だよ。
西の国アロートの先王弟殿下が「転生者が多すぎる気がする」と言ってたけど
ココにも居たのか。
管理神様も大変なのは分かるんだけど……
それにしても人を喰うのは竜からしてみたら趣味程度なことなのか。
まあ、腹の足しにもならないっていってたもんなぁ。
前世のコトはおぼろげながら確かにココとは違う世界だと認識してたよ。
でも神様達との対面は覚えて居ないそうだ。
前世のものでなくても知識や知恵は使いようで切れるものだ。
下手をすると自分が傷を負うことにもなるだろう。
まあ、オレもその辺りは気を付けないとイケナイ事だけどね。
「姉様ばかり幸せになるなんてズルイわ。
私の方が皆に愛されてもいるし尊敬もされてるのよ。
前世の知識で家族にも一族にも利益をもたらしたしそれの何処が悪いのよ」
その報酬として欲しかったのがサーシディさんだった訳か。
十歳の子供がほしがるのにはいささか大きすぎるオモチャだと思うけどね。
姉君はここまで巫女の話を聞いても揺るがず自分を生け贄にと言う。
サーシディさん何か言って下さいよ。
「君のことはカルミア(姉君)の妹としか思えない。
愛らしくてちょっと生意気で元気の良い君は好もしい彼女の妹だった。
多分、十年たっても二十年たっても変わらないと思う。
好意を寄せてくれたことは嬉しいが君の気持ちには応えられない」
うわぁ、バッサリ言っちゃったよ。
まあ、カルミアさんと一緒に火口に飛び込もうとしてたくらいだもんな。
「あらいいのかしら? 姉君だって巫女の子と同じくらい厄介だと思うけど。
だってアナタ(サーシディ)のことを殺す気満々なのよ。
このまま、生け贄にしちゃったほうが面倒が無いと思うんだけど」
王太后様は涼しい顔で爆弾を落としてくれたよ。
なんだってそんな事を……
せっかく丸く収まりそうな雰囲気がでてきたのに。




