738・北の国の婚約者達。
帰国報告を王太后様に申し上げた。
彼女はこの国の産まれでこの国から出たことは無いのだそうだ。
まあそうだよね、王族がフラフラ理由も無く外国に出歩ける訳無いよな。
「引退したら国内くらいは観光旅行なんか出来ると思ってたんだけど。
夫は亡くなるし戦争が始まったりしたしでなかなかね。
旧都と王都くらいね、出歩けたのは。
だからアナタの話は面白かったわ。
職人ギルドのギルマスと向こうの大臣の話もね」
プライベートな話ではあるけれど今回の訪問相手だったからね。
まあ、言いふらさない方だと分かってるし。
「お前が出かけている間に王都で慶事があったのよ。
王太子が婚約したの。ああ、アイリスもだけど」
王太子様は十六歳だ。
結婚も出来る年齢だけど……オレの感覚じゃあまだ早いなぁ。
でも貴族王族の結婚は政略が絡むことが多い。
今回の婚約もそうなんでしょうか?
「そうね。でも本人にもキチンと話して納得させたみたいよ。
相手は北の国の第一王女なの。
でもまだ十四歳だから今すぐ結婚とは行かないわね。
大臣のベアーズの提案なのよ。
本当に結婚に至るかどうかはともかく今の両国の緊張状態を
なんとかしたいということなの」
結婚に至るかどうかはともかく……か。
婚約解消も有り得るってことだね。
国の都合で婚約や結婚をしないといけない王族の方々も結構不自由ってことだ。
「お互いを愛せるかどうかは保証はできないわ。
そこは自分達で努力してほしいところだわ。
王や王妃は国の共同経営者なんだから協力の出来る関係を築いてほしいわね」
王太后様が御夫君の前王様に色々と苦労させられた話は貴族はもとより
国民の間でもよく知られた話だった。
前王様はもう亡くなられているけれど思うところはまだまだ残っていそうだね。
王太子様はともかくアイリス様のお相手ってどちらの方なんでしょうか?
「北の国の第一王子よ。
まだ立太子はしていないけど成人したらすぐにその予定だそうよ。
まあ、王女を交換するようなものね」
交換……人質交換?
「何を思ったのか顔に出てるわよ。
確かにその面が無いとは言わないわ。
でも、一番の目的は緊張緩和なの。
このまままた戦争をするわけにはいかないから」
向こうの国の利点はなんでしょう?
この国にばかり都合の良い縁談って訳じゃあ無いですよね。
「……第一王子の母親は第二王子の母親より少し身分が低いようなの。
でも国王は彼を王太子にしたい。
なのでこの国に後ろ盾になってほしいってのが本音でしょうね。
第一王女は第二王子と同母だから裏で何か取引も有ったと思うけどね」
やれやれ、政治の世界は縁談といえども一筋縄じゃあいかないのか。
婚約した王子・王女の気持ちは関係無く事が進んでるって気がするなぁ。
この時は手出しも口出しも出来ない事だと思ってたんだ。
向こうの王子と王女が顔合わせにやってくるまでは……




