737・感謝。
息子は義手を使っている。
あの子が手首から先を失ってしまったのは私の不注意のせいだった。
何度もあの子に謝り何度も恨んでくれと懇願さえした。
でも、優しいあの子は私を責めなかった。
持って居た財産のほとんどを使い義手をあつらえた。
義手なことをからかう者も居たがあの子は気にしない風だった。
「街の人にも欠損の有る人はいるけど義手や義足の人は多くないよね。
オレの義手ってカッコイイと思うんだよ。
でもお父さん、コレって特注だったよね。
高いって聞いたんだよ。ほんとに良かったの?」
気にしないフリをしていてもホントは気にしているって分かっていた。
仕事に励み節約をし、その金で欠損の復活についての情報を集めた。
でも、この国にはソレの出来る神官様は居られなかった。
もうあの子は一生義手のままなのか……
ところがある日知り合いの神官様から「欠損復活の施術」を受けてみる気は
無いかと話が来たんだ!
うそか? 夢か? と思う間に息子の前に居たのは可愛らしい女の子だった。
なにやら歌のようなものを歌っていた。
「お手々さん、お手々さん出ておいで~~♪」
気が付けば息子の手が元に戻っていた。
神官様は丁寧に魔力循環を息子に指導して下さっている。
きれいでかわいらしい息子の手!
涙を止められない私を女の子が慰めてくれる。
彼女に深く深く頭を下げて感謝した。
その日の患者は全員が子供だった。
皆が嬉しそうで、親達は私と同じように泣いていた。
治してくれた女の子と一緒に居た男の子が子供達にオモチャとお菓子を配った。
そうして皆でオモチャで遊んで居る。
神官様から不要になった義手や義足を譲って貰えないかと言われた。
確かに不要にはなった。
でも大枚をはたいたのだ。
私はためらったが息子は寄進したいという。
「お父さんが大金を払ってくれたのを知ってるよ。
でもそのお金が無くて不自由してる子に貸し出したいっておっしゃってるんだ。
僕はもう義手が無くても大丈夫だからね。
不自由してる子の手助けになるなら寄進したいんだよ」
他の国での「欠損の復活」には大枚の寄進が要ると聞いた。
でも今回は言いふらさないことを条件に無料で施術してもらえた。
そうだな、施術のための大枚の寄進だと思えばいいか。
もう、息子には不要となったことだしな。
義手や義足その他を寄進したのは全員ではなかったそうだけれどそれでも
以前より義手や義足の子が増えたように思う。
この国の神官様にも施術の出来る方が現れたそうだ。
勇者の国オリーザの神官様から指導されたのだという。
なぜかあの国から義手や義足の寄進がこの国の神殿に時折届くようになった。
「大臣様の親戚の方があの国に居られるそうです。
寄進はその方からなんですよ。
ありがたいことです。
あの施術の出来る者は増えましたが一度に全員にと言うわけにはいきません。
順番を待ってもらわないといけないんですよ。
せめてその間だけでも、少しでも不自由を解消出来たらということでした。
ありがたいことです」
順番……息子はたまたま早い順番だったってことか。
そうだな、ありがたいことだな。
あの小さな女の子、いや聖女様とココの神官様達へ指導して下さったという
オリーザの神官様に感謝した。
なんの不具合も感じさせない「普通の男の子」になって遊び回る息子を眺めながら。