736・笑顔な髭面。
帰国した。
今回の旅行は順調だった。
まあ、予想外に手持ちの酒を全部放出するハメにはなったけど。
終わりよければ全て良し! ってことにしておこう、うんうん。
商業ギルドに寄ったら職人ギルドのギルマスが来ていた。
なので大臣閣下から預かった「義足」を渡した。
「もう気に病む必要はないから」という閣下の言葉と供に。
ギルマスが突然泣き出したので驚いた。
そんなに曰く付きの物だったんだろうか?
「あの国に行ったのは子供の頃のことです。
父が一緒でしたが迷子になったんです。
そうして魔獣の襲撃があったんです。
大臣はオレを庇って足を失われました。
父は有る限りの伝手と金を使って最高級の義足を贈りました。
かなりの負担だった筈です。
なにより戦士だったあの方を引退させてしまいましたから……
それでも自分より私のことを気遣って下さって……
私に出来るのは無事に暮らしているとお知らせするくらいしか……
ありがとうございます。
あの国にもコチラの国にも欠損の復活が出来る神官様はほとんど
居ませんでした。
欠損が大きいほど、時間が経てばたつほど復活は難しくなると聞きました。
ありがとうございます。
閣下ももうお歳なので先がどれくらいかはわかりませんがすこしでも
明るいお気持ちで過されると思うとうれしいです」
なんとか欠損の復活が出来る神官様を見つけられたしこれから出来る様に
なるだろう方も居る。
大臣閣下と同じ悩みの人も減らせるだろうことを伝えた。
ギルマスはそれも喜んでくれた。
「あの国は国民のほとんどが職人か戦士ですからね。
欠損があることで人生が望むものでは無くなってしまう者も多いんです。
義手や義足を準備出来る者ばかりではありませんし。
父も財産のかなりを注ぎ込んだようです。
閣下の義足はココに来ましたが要らなくなった物はどうするんですかね?
大体が特注だと聞いたんですが」
そうか……出来る神官様は今のところ一人だけだ。
補うのは義手・義足、あとは魔法かな。
要らなくなった義手や義足を調整し直せるなら欠損復活の順番が来るまでの
補助に充分なるかもしれない。
神殿の方々に相談してみると告げたらギルマスは喜んでくれた。
「もうオレはドワーフ風味なだけの人間ですがあの国の人達には親近感を
持ってます。大臣閣下だけではなく……ね。
お手数でしょうがよろしくお願いいたします」
まあ、こんな子供に頭を下げるなんてと思わないでも無かったけどね。
実際に色々するのはあの国の神殿の方々になると思う。
少しだけでも笑顔が増えると良いな。
女性と子供以外はほとんど髭面な人達の笑顔……
ハハハ、ちょっとコワイ気もするなぁ。