690・先の希望。
犯人は取り調べで恨み辛みを山のように言いつのったそうだ。
でも結局恨む相手を勘違いしていたのが判明した。
取り調べた役人も勘違いで恨まれたお隣の領主様も呆れるしか無かったそうだ。
色々と手の込んだ事をしでかしてくれたのに結局大元で勘違いしていたのだ。
そりゃあ呆れるしかないよねぇ。
それでもやったことは重大なので有罪決定!
犯罪奴隷として長めの服役ということに。
処刑されても文句は言えないけど領主様は寛大な方だった。
北部は人が少ないってこともあったみたいだね。
つまり「労働力」は減らしたくないってことだ。
「他の領地から色々と援助しないと維持出来ていないんだ。
宰相家の領地もそうなんだろう?
だから砂糖が採れる蕪と聞いて飛びついてしまった。
宰相家の代官が勧めてくれたジャガイモがかなり成績が良かったし。
自分の所で解決しようとしなかったのは失点だったな。
他家の成果に頼るばかりではイケナイはずなのにな」
北部領地のことを気に掛けて居られるだけマシですよ。
宰相閣下も援助はしてますが代官に任せてほとんど放置です。
戦争で南部はほとんど壊滅状態です。
閣下も「アレでは税金は取れん!」と断言されてました。
コチラの生産力がもっと高ければ国の危機状態を少しは支えられるのではないかと
思ったんです。
まあ、今できるのはジャガイモの普及とか養鶏で肥料を調達するとかですけど。
「君については内々で色々と聞こえて居るよ。
まさか国の事まで心配してるとはねぇ。
今回の蕪のこともだがジャガイモについては感謝しているんだよ。
私は南部にも領地が有るんだ。
公爵や侯爵ほど広くはないんだが。
だから無事な北部が以前の南部並みなら……
せめて援助無しで成り立つならとね」
あちゃあ……もうオレの事はほとんどモロバレみたいなものらしい。
でも、おおっぴらには成っていないみたいだから噂な段階なのかもね。
まあ、出来るだけ広めないようにお願いしておこう。
こんな幼児が目立って良いことなんて有る訳ないもんな。
「ふふふ、もう無駄なように思うんだがね。
でもまあ、今回は助けて貰ったことだし君の望むように計らうよ。
南部に続いて北部もか! と思ったら肝が冷えたからね」
領主様は北部のことをただのお荷物とは思っていなかった。
なので鶏糞の肥料と耐寒性の高い麦もお分けすることにした。
使い方の資料付きで。
同じ北部でも土地の性質が違うかも知れないからこれは試験栽培の
依頼のようなものでもある。
成長具合を知らせて貰うことにしたんだよ。
領主様は喜んでくれた。
「収穫はまだでも先に希望があるのは良いコトだ」と言われたよ。
広さだけは有る北部が前世の北海道のように「食料庫」になるのはいつだろう?
まあ、北海道だって今のようになるのには開拓者達の山のような苦労が
あったはずなのだ。
人も居ない、地味も肥えていない、すぐ隣の北の国はアブナイ国だし領主達も
ほとんど関心を持っていない。
お隣の領主様のような人は貴重なくらいなんだ。
「先の希望」か……まあ、ちょっとづつ積み上げるしかないよなぁ……と
ため息なヘンリー君なのでした。




