689・砂糖大根モドキ(蕪)。
北部領地の試験場に遊び……いや、視察に来ている。
まあ、視察と言いつつ品種改良の手伝いなんだけどね。
領地の木魔法使い達は南部の植林のために派遣されている。
なのでオレは彼等が帰ってくるまでの代理だね。
耐寒性の高い麦は特定出来たので種を増やしている最中だ。
領地中に普及させるにはもう少しかかるだろう。
カール君が期待している砂糖大根モドキは順調だ。
幾つか特徴の有る品種を作成出来たと思う。
砂糖は外国からの輸入オンリーだ。
当然高いしお菓子に気軽に使う訳には行かないんだよなぁ。
砂糖大根で造る砂糖はソレと違って微妙に色が付いてるし雑味というか
微妙な苦味も感じる。感じるような気がする。
カール君は気にしないみたいだけどね。
なので色と苦味の薄いモノが出来ないかと試してるんだよ。
砂糖の含有率は最大30%くらいまで上げる事が出来た。
でもこの品種はその分病気に弱かった。
含有率は元は5%程だった。
でもそれでは採算が取れそうもなかったんだよ。
ということで20%くらいの品種で試してみることになった。
順調順調。
そう思ってたら隣の領主様が怒鳴り込んできた。
最長老様の村のある所とは別の所だけどね。
「お前の所の商人が売りつけた新しい砂糖が取れるという蕪が病気を広げた!
コッチの領地の蕪がほとんど全滅状態だ!
どうしてくれるんだ! 弁償しろ! 弁償!」
直々に怒鳴り込んでくるなんて熱心な方だなぁ。
北部の領地は何処もお荷物状態な所なのでほとんど無視されてたりするんだよ。
いちゃもんを付けに来たとしても北部に関心が無ければそんな事はしないよね。
売りつけたという商人を特定した。
登録したてというかこの目的のために商人になったヤツだった。
どうもお隣の領主様に怨みがあったらしい。
領地からは逃亡してたけど企みの結果を知ろうとしたことで足がついたそうだ。
農業試験場の従業員と知り合いになって蕪の品種改良のことを知ったそうだ。
つまり最初から病気に弱いって知ってたって事だね。
試験場から種を盗み出して隣の領地に上手いこと売りつけたってことか。
あの蕪はオビスの冬の飼料になる。
秋から冬が一番よく生育するけど他の時期でもソレナリに育ってくれる。
だから飼料として重要なんだ。
北部領地ではオビスとセタルは重要なんだ。
その飼料が全滅となると……
「盗品だったのか……
怨みって言われても……私の引き起こしたことだとは……納得はできんな。
しかし病気が他の蕪にも広がってしまって……どうしたらいいのか……」
なので畑を見せてもらった。
領地中がこんなになってしまうなんて……
アレが病気に弱いと分かっていたから試験場の外には出していなかった。
コレが宰相家の領地で起きていたらと思うと……ゾッとしたね。
畑で効果があるかどうか分からなかったけど「浄化の魔法」を使ってみる。
魔力の込め具合を調整しながら何度か試したんだ。
納得出来る効果になるまで少し掛かったけどね。
「妙な疑いを掛けて申し訳なかった。
畑まで浄化して貰えるとは……感謝の言葉くらいではたりないだろうが……
ありがとう、感謝する」
領地中を浄化して廻ったよ。
試験場から病気に強い蕪の品種の種を何種類かお譲りした。
この領地にはレベルは低いけど木魔法使いが残って居るそうなので彼等に
蕪の成長促進をお願いしたよ。
全部手当した頃には彼等のレベルは上がったそうだ。
お疲れ様。
それにしても盗難に気付いて無かったのかね?
結構な量の種が盗まれたのに。
「箱の上だけ種が残してありました。
下にはボロ布が詰めてあって上げ底状態でしたよ。
一見満杯状態になってたんです。
でも気付かなかったのはマヌケでしたね。
申し訳ありませんでした」
まさか普及品としては除外対象だったものを盗まれるとは思わなかったね。
試験場の人達を責めてもしょうがないよなぁ。
セキュリティの強化を考えないといけないのか……
砂糖大根モドキはまだ利益を出していないのに悩みだけは大量に湧いてきている
ヘンリー君なのでした。