685・誘眠。
オレの世話係・フレーゼさんは今は王都の宰相家の屋敷に居る。
つまりオレの世話係から双子の世話係に横滑りしたんだよ。
世話係は身体的な世話のほかにも幼児教育的なこともするんだよ。
まあ、彼女の専門は乳幼児から五・六歳位までだそうでその後は家庭教師が
個々に付くというのが普通なんだそうだ。
なので王都に行ったときに相談してみたんだよ。
侯爵家の三つ子、特に三女についてね。
「さすがに私も年子の経験はございますが今回のような双子は初めてです。
なので三つ子の相談をされましても……
でも泣きやまない子とかひたすらぐずる子とかなら分かりますよ。
まあ、対症療法みたいなものなんですが、魔法で寝かしつけるんです。
ちょっと欠点もあるんですけどね」
魔法で子供を寝かしつける?
すごく便利そうなんだけど……
そんなに重大な欠点なんですか?
「子供にもよるんですが耐性が付く子が居るんです。
魔法自体がそう強力な物ではありませんのでね。
生活魔法よりは少し難易度が高いですが大人にはほとんど効きません。
私のような世話係くらいしか使わないのでほとんど知られてませんし」
『誘眠の魔法』と言うのだそうだ。
つまり眠りを誘うモノみたいだね。
眠くなるだけで完璧に眠らせるってことはできないそうだ。
眠らせるにはスリープの魔法があるけれど子供に使うのは危険だそうだ。
眠ったまま目覚めなくなってしまうことがあるんだそうで……
コワイね。
大人には効かないのか……随分と効果が弱いみたいだなぁ。
コレを造った人ってやっぱり夜泣きする子とかぐずる子に手こずったのかも。
対象が子供限定ってのがなんとも笑えるというか気の毒感が強いというか。
まあ、子供はみんな大人の都合どうりに動いてくれないモノだからね。
多少なりともソレを親とか周りの大人が理解出来ていれば良いんだけど
出来ていないと大人の都合を押しつけようとすることになる。
子供と大人だと力関係として大人が強いから……
下手をすると虐待に発展するんだよ。
天然自然な子供を「大人」しくさせるべく「力」を使おうとする大人。
虐待の言い訳が「しつけ」なのがなんとも腹立たしい限りだね。
しつけているつもりで虐待になってることに気が付かない親も居そうだし。
前世のあの国では子供が少なくなって来ていた。
母は四人兄弟だったけどその頃ですら子供が四人の家庭は少なかったそうだ。
我が家も四人だったけど学校中でウチだけだったんだよ。
まあ、どうも男の子が欲しくて頑張っちゃったってのが真相らしいけどね。
子供が、赤ちゃんや幼児がどういう存在なのか身近でない人が増えたのかも。
自分の子が出来て初めて子供を抱っこしたって言ってた同僚も居たなぁ。
子供は泣くものでぐずるもので何を言っても通じないものだ。
通じてるようでもコッチの都合は理解しない。
「異星人」みたいだと姉が面白おかしく愚痴ってたよ。
フレーゼさんに教わった「誘眠の魔法」を侯爵家の三女に使った。
館のメイドさん達やトム・タム、ミーア達でお試しもしたんだ。
大人なお姉さん達には効かなかった。
なぜかカール君には効いたんだ。
う~ん、大人なのになぜ効いたのか……
結婚もしてるから完璧な大人のハズだけど。
モニターズにもお願いして試したよ。
やっぱり年長の子には効かないね。
でも七歳くらいまでは結構効く子が居たんだ。
三女な赤ちゃんにもちゃんと効いたよ。
なので侯爵家の乳母な方々に伝授した。
なにしろ侯爵家は四人も赤ちゃんが居るからね。
ちょっと寝ていてくれるだけで助かる場面が多そうな気がしたんだ。
でもそう都合良くは行かなかった。
耐性がついちゃったんだよ。
三女だけ!
他の子達が眠ってもパッチリ目を開けてオレに抱っこを要求するんだよ。
いや……カワイイんだけどさぁ。
男の子も抱っこしてあげたいんだよね。
困惑してるヘンリー君を侯爵家の皆は微笑ましく見ているのでした。
彼が抱っこしてると自分達が「楽」ってのもあるみたいですけどね。




