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678・山積みの苦労。

 それは親戚達の会話だった。


「侯爵には亡くなった若君以外に子供は居ない。

妻を増やすお考えも無いそうだ。

となれば跡継ぎは親族の中から選ばれることになる。

誰が候補だと思う?」


彼等が上げた何人かの中に私も入っていた。

当然だ。

皆、血の近さは似たり寄ったりだが私が一番優秀だと自負している。

侯爵にも期待していると声を掛けられているのだ。

他の連中なんぞゴミカスだ! と思っていた。


思いもしなかった。

奥方が二人とも妊娠するだなんて! 

あんな怪しげな「オギノ式」とかいう方法なんぞ聞いたことも無かった。

侯爵家の奥方達だけでなくアチコチの貴族家で子供が出来ているだと! 

他家のことなどどうでもいい! 

侯爵家のことだ! 大事なのは! 


侯爵はまるで人が変わられたかのようだ。

心配の塊のようになっている。

子供が無事に産まれたら私が侯爵になる目はどこにも存在しなくなる。

奥方は二人、子供は四人だ。

三つ子なんて聞いたことも無いから無事に産まれるかどうかは怪しい。

だが第一夫人の子は男の子だと分かっているそうだ。


子供が産まれてしまったら私は絶対に侯爵には成れない。

今のうちに排除してしまえば……

だが侯爵は心配の塊になっている。


「護身の指輪」? 神殿から贈られたモノらしいな。

その効果を帳消しに出来る攻撃手段……

屋敷からほとんど外出しなくなっている奥方達を攻撃するとなると……

私室に入れて貰うなどほとんど不可能だ。

誰にも知られず罠を仕掛けられる場所……

そうして私が犯人だと知られないようにする方法……


知恵を絞り手段を手に入れ罠をセットする。

召使いを使ったがヤツは自分のしたことがなんなのか理解出来ないだろう。

そうして爆発は起き私は快哉を叫んだ。

なのに……


全てがバレていた。

奥方達も侯爵館の召使い達も負傷はしても神殿関係者が居合わせて治療したと! 

子供達も無事に産まれて母子ともに安泰だそうだ。

もう私は侯爵になる事は出来ない。

それどころか命すら危ない。


お祝いに出かけるフリをして逃げ出した。

追手もいたようだがなんとか逃げ切れたと思う。

だが逃げた先の国でも私のことは手配されていた。

オマケに何をやっても上手く行かない。


結局身分を隠して冒険者をしている。

何度か死にかけ仲間に助けられたがその仲間に裏切られたこともあった。

酔って「家を継げるハズがなんでこんなことに」……と愚痴ったら

仲間に聞かれた。


「オレなんか家が鬱陶うっとうしくて冒険者をしてるんだがなぁ。

お前、家なんか継いで何をしたかったんだ?」


何を……する? 


そんなことは考えてもみなかった。

侯爵に成りたい……ただそれだけだった。

成ってやりたいこと……今更聞かれても何も浮かんでこない。

侯爵のしていた色々なことを思い出そうとした。

……同じことが私にできるだろうか。


家の為、一族の為、領地の為、王の為、国の為……


侯爵自身の為……ということはほとんど後回しだったように思う。

私は自分の望みの事しか考えて居なかったな。

自分以外の為なんて考えた事も無かった。


「いいじゃあねぇか。

継げなかったってことは継がなくてよくなったってことだ。

責任も義務もかつげない重荷だったと思えば諦めもつくってもんだ。

まあ、気楽な冒険者も良いもんだと思うぞ。

安酒だがもう一杯いけ!」


コイツは家が鬱陶しいとか言ってたよな。

こんなアホでも色々あるってことか。

奢ってくれるなら安酒でも遠慮はしない。

しないように成ってしまった。


もう貴族には戻れない。

それでもコイツの言葉で少し重石おもしが取れた気がした。



 大奥様・プロテア様は処刑に反対しました。

彼はとっくに捕捉されてたんです。

でも、孫達の人生のスタートを血塗れにはしたくないとお考えだったようです。


「ヘンリー達のおかげで誰も死ななかったわ。

一族だからこそ許せないって貴方の気持ちも分かるわよ。

やったコトがコトだから許す訳にはいかないけれど。

貴族家の一族で居ればしなくてよかった苦労をしてもらいましょう。

それこそ死ぬまで……ね」


彼の前には「苦労」が山積みされています。

もちろん侯爵家が積んだんですけどね。

さて「死ぬまで」にソレに気づけますかね? 

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