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667・田舎の修道院。(騎士の妹)

 お腹が少しづつ大きくなって行く。

ココは修道院の中だ。

まだ出家はしていないが出産後には院長様が認めて下さると言う。

慣れないながら修道女に準じた生活を送ることに不満は無い。


お父様やお兄様の事を知りたくて帰国した。

そうして目的を果たした。

妊娠もしてしまったけれど……副産物のようなものだ。

この子のことは全部父親である第三王子に押しつける形になった。

手元で育てる気はないのか? と確認されたけど……

どうしてもその気にはなれなかった。


私は薄情なのかもしれない。

でもこんな薄情な母親に育てられるとしたらかえって子供を不孝にして

しまうと思う。

お父様やお兄様が反逆者になってしまったのは西の国のせいだ。

けれどこの子は西の国の王族の血を引いている。

王子自身が何かしたのでは無くても怨む気持ちをおさえられない。

こんな気持ちを子供に向ける……それはやっぱり許されないと思う。


侍女長は私と一緒にこの修道院にいる。

扱いは私と同じで修道女見習いだ。

見習いとはいっても修道女になると強制も決定もされていない。

修道女になるかどうかのお試しのような立場だ。

貴族の令嬢とかも一時的にこの立場で滞在していたりする。

行儀見習いの一つと考えられているそうだ。


もっとも私のように望まぬ妊娠をしてしまったことを隠すために滞在を

している方もいるそうだ。

産まれた子供がどうなるかはうかがい知れないのだけれど。


妊娠した体に影響しない程度の作業と祈りの日々。

ただひたすらお父様とお兄様の冥福を祈り続ける日々。

それは静かで変化の無い日々だった。

変化は大きくなる私のお腹だけだ。


そうして子供は無事に産まれた。

私は子供を見なかった。

産婆は見せようとしたのだけれど拒否したのだ。

泣き声は聞こえた。

大きな力強い声だった。


男の子だと聞かされたが関心は持ちたくなかった。

王子は認知したそうだ。公表はしないそうだけれど。

名付けも彼がするという。


王子も私も望んだ子ではなかった。

でも王子は多少なりとも責任を感じているらしい。

侍女長が子供の面倒を見ることになったと聞いた時は驚いた。

王子を育てられなかった彼女への配慮だろうか? 

どなたの配慮かは分からないけれど。


子供の首がすわった頃彼女は子供と共に修道院を出て行った。

宰相家の保護(監視?)の元であの子を育てるのだそうだ。


「貴女に理不尽な目にあわせたのは私一人では無いでしょうけれど私が

妊娠なんて目にあわせたのは確かです。

あの時はただ王家の方々に何か仕返しをしたいとばかり考えていました。

お詫びを言っても取り返しは付かないけれど……詫びさせてください」


詫びの言葉を聞いても何も心には響いた気がしなかった。

なので自分がこの人を恨んでも憎んでもいないことに気が付いた。

彼女に言ったのは赤子をきちんと育ててほしいということ。

母親は死んだことにしてほしいということ。


私に関わって赤子に理不尽なことが起こらないとは限らない。

王子が認知したと分かれば余計な波がかかるかもしれない。

そういう波は王子に防いで貰うしか無い。


全部王子に押しつける形になっても心は痛んだ気がしない。

やっぱりアノ国の王族だからだろうか? 


静かな祈りの日々。

西の国にいる母と弟のことを思い出さないわけではないけれど

もう利用されることは多分無いと思う。

王弟殿下の手元に居たはずの私を利用されたのだ。

あの王弟殿下が私を利用した連中を放っておくはずも無いでしょうから。



 彼女の祈りの日々は続きました。

成人した息子が訪ねてくるまで。

ただ産んでくれたことを感謝する息子。

王子よりも兄君に似ていると感じたのだそうです。

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