658・夢の中の言葉。
まったく、王族なんかに産まれるもんじゃあ無いな。
兄を手に掛けるハメになったし甥達の争いで死にかけた。
でもまあ、今回は運が良かったな。
アレはイワク付きの毒だ。
私の知る限り浄化なぞできる神官は居なかった。
グラディスに第二王子の企てを知らせられたらラッキーだと思ったくらいだ。
……あの毒はもう、オリーザ国関係者には使えなくなったな。
それにしてもあんなモノをたかだか侍女なんかに使わせようとするなんてあの派閥
の連中は何を考えていたんだろう。
まあ、死ねばコチラの国のことは漏れないしこの国の誰かをあの侍女が殺せば
彼女は一発でこの世から退場することになっただろう。
それにしても思ってた以上に王太后はあのヘンリーを気に入っているみたいだな。
何処から見ても五歳児にしか見えない。
自慢げにいろいろと彼のコトを話されると違和感がどうしても湧いてしまう。
ホントに五歳なのか?
「まあ、見かけは五歳児だけどホントは一歳なのよ。
王都の勇者と聖女の魔力の暴発の影響らしいわ。
本人は中身は大人だって言い張ってるのよ。
でも何処から見ても子供にしか見えないし反応も子供だったりするし。
本人が言うように前世の記憶に引きずられてるみたいよ。
どこまでホントのことを言ってるかは保証できないんだけど。
そのオカゲで私の退屈は紛れてるの。
退屈な隠居生活が楽しいモノになったわ」
五歳ですらないのか!
なるほど……ココの宰相が「目立つな!」と厳命する訳だな。
宰相で無くても、私でもそう言うと思う。
違和感を感じてしまったのも当然ってことか。
実を言えば私も前世の記憶を持って居る。
だがソレはハッキリしたモノではない。
自分の名前すら思い出せないのだ。
楽しかった事や苦しかった事が時折夢に現れるのだ。
なんの役にも立たない「夢」でしかない。
アレを今世に役立てようとは思わなかった。
ヘンリーは話を聞く限り彼は前世のコトを今世で役立てているようだ。
私の「夢」を今世で役立てるなんて……できるだろうか?
ヘンリーに出来ているなら少しは可能かもしれないな。
王太后が許可してくれたので旧都王宮の塔の一つに登った。
ヘンリーを案内に付けてくれたのは何か意味のあることなのか?
あの王太后は引退していても油断は出来ない相手だ。
……子供なヘンリーにも警戒心を抱いてしまうくらいには。
塔の上からは旧都が一望だった。
造りかけの新しい城壁も見える。
思わずつぶやいてしまった。
前世の言葉で!
『五稜郭?』
気が付けばヘンリーが私を見つめていた。
そうして言われた言葉に凍りついてしまった。
『函館に行かれたことがあるんですか?』