651・選択。
気付けば白い部屋だった。
あー……ここはあの部屋か……
そう思っていたらポンと卓袱台が現れた。
実家のリビングの再現じゃあ無いな。
一体誰のイメージなんだろう?
「すみませんね。
先日王都の勇者と話をしたもので……彼のイメージが残ってたみたいです」
まあ、それは仕方ないですね。
目立たない容姿のくせに妙に印象が強い人ですし。
それにあの世界の物は気持ちを落ち着かせてくれます。
このままで結構ですよ。
「ではこのまま彼のイメージを展開しておきますね。
奥さんの聖女の好みのインテリアみたいです。
ちょっとプライバシーの侵害かもしれませんけどね(笑)」
勇者のイメージしたものが漏れ出たのが見えちゃったんだろうな。
見えちゃったものは仕方ないよね。
見ようとされたんじゃあないんだし。
「さて今日はアナタに聞きたいことがありまして。
今、アナタは死にかけてます。
このまま死んだらもう一度転生してもらうことになります。
もっとも記憶は消えることになります。
前世の世界に戻してあげるコトも出来ますがやっぱり記憶は消えますね」
オレ……死ぬんですか?
「このまま解毒が出来なければそうなります。
アナタが自分に掛けた解毒の魔法のせいで即死はしませんでした。
でもアナタは解毒の魔法はほとんど使ってませんよね。
それでも並みの神官より効果は高かったのですが……
神官達が呼ばれて対処してはいますがどうにも厄介な毒なので」
つまりこの方は死んだらどっちの世界に転生したいのか聞きに来て
下さったらしい。
多分色々とイレギュラーなオレを気遣って下さっておられるのだ。
記憶が消えてしまうならどちらの世界でも同じだと思う。
オレがコノ世界に来たことでこの世界を活性化できると言われたよな。
前世の世界に戻ったらその効果が無くなってしまわないだろうか?
「王都の勇者も色々としていきましたからね。
戦後の復興にアナタも貢献しました。
この国のためだけでなく世界のバランスを保つ一助になってます。
多少の歪みが無いわけではありませんがこのまま行くなら大丈夫ですよ。
アナタが戻ってもね」
助からないか……
どっちにしても記憶が無くなるなら同じかもしれない。
あの世界に転生しても全ての記憶を失うなら家族とは他人だ。
この世界でもそれは同じなのでどっちにするかと聞かれても迷うよなぁ。
二度目の転生でもオレの魂はこの世界を活性化することが出来るそうだ。
この方には色々ご配慮頂いたしこの世界にも愛着が湧いてきている。
もともと記憶は失われるハズだったからな。
オレはこの方の役に立ちたいと思ったんだよ。
だからこの世界で転生させて下さるようにお願いした。
「分かりました。
あの川のことは覚えてますよね。
申請を出しておきますから向こうの担当神に従って下さい。
ここの世界に来られるようにしてくださいます。
……!あっ!」
えっ!?
体が軽くなった気がした! ココは意識だけの場所なのに。
一体なにが!? と思ったら体がほんのり光っている気がした。
「驚きました。
あの子がまさか解毒の魔法を使うとはね。
しかも呪文がアレだなんて!」
あの子……まさかミーアなのか?
なぜか聞こえる解毒の魔法の呪文!
それは向こうの世界のゲームの呪文だったんだ!