647・顔色。
グラディス王子は茫然とした顔を見せていた。
国から付いてきた者達全員がスパイだとは思っていなかったらしい。
「あー……王子も気にしなくていいわ。
皆今まで居た者達に比べたら初心者みたいなものですもの。
あの事件でコチラの諜報関係者達が暴走してしまったのよ。
つまり泳がせておいたほうが良いくらいの者まで摘発してしまったの。
それでどうなったかというと西の国の諜報網がズタズタになったのよ。
そういうのはある程度承知の上でお互い活動してるんだけどね。
王が襲撃されたのはやっぱりショックだったのよ。
担当者も過剰反応だったと反省してたわ。
なので向こうの国は初心者をアチコチに送り込んできてるそうよ。
無駄玉になるのも承知の上みたいね」
「なんだって第三王子でしかない私のことなんか報告させてるんですかね?
この国に来てるのは人質みたいなものですよ。
いざとなれば切り捨てるくらいは簡単にすると思いますし」
ああ……分かってるだろうとは思ってたけどやっぱりね。
多分、新人達の訓練も兼ねてたんだと思う。
オリーザ国の事を探っているので無ければ王太后様のおっしゃるように無視か
泳がされるんだろう。
そうして馴染んだ頃にもっと重要な任務になるのかも。
「大体そんなところね。
それに派遣元は国だけじゃあ無いのよ。
各派閥からも来てるから全員スパイなんてことになっちゃってるの。
王が代替わりしたばかりだから落ち着かないのね。きっと」
「はぁ。なんというか……国に帰りたくなくなりましたよ。
国外に出た私なんかまで探ってるなんて思いませんでした。
兄達は多少の緊張関係にありますがもう即位してしまいましたから次兄は王に
成るには現王を排除するしかありません。
さすがにソレは叔父が許さないでしょう」
現王は第三妃の子だそうだ。
第二王子は第一妃な王妃様の子だという。
なるほどね。そりゃあもめる要素満載だよなぁ。
「私は末席の側妃の子なんだよ。
しかも母はもう亡くなっている。
後ろ盾も大したことは無いから勢力争いに加わるなんて論外だ。
せいぜいが今回のような政略結婚か人質くらいしか出番は無いと思ってたよ」
王位継承権が有ったとしても王になれるとは限らない。
むしろ成れないのが普通だろう。
王座は一つだけしか無いんだから。
兄君達は自分の勢力に引き込めるかどうか探ってたのかもしれないね。
彼女はじっと聞いていた。
自分の家族がひどい目にあったのは全て西の国が原因だと確信したらしい。
それにしても顔色が悪いのが治らないな。
一人だけ呼び出された緊張のせいかと思ったんだけど。
軽く鑑定してたけどもう一度鑑定してみた。
まあ、診察くらいの気持ちだったんだけど……
驚いたよ! 顔色が悪いのはこのせいだったんだな。
彼女は妊娠してたんだ!