629・酒米。
カール君が商業ギルドから届け物を持ってきた。
配達任務ごくろうさま。
でも、コレって一体なんだろう?
「大分前ですが『米』とかいう穀物を探して欲しいって依頼をしましたよね。
魔王国の向こうの獣人の国々、そのうちの一番東の果ての国からコレは来ました。
ヘンリー様の思ってる品かどうかは分かりません。
少なくとも近い品だと思います。
麦との違いが分からないと向こうの国でも言ってたそうです。
コレが『米』だといいんですが……」
木箱に厳重に入れられた穀物。
でも予想もしない代物だったよ。
真っ黒けだったんだ。
形は確かに「米」だったよ。
でもこの世界の麦は米によく似た植物だった。
米には「赤米」や「黒米」もあるから色つきでも不思議はないかもしれない。
古代米とも呼ばれる古い品種は色の付いた物だったそうだ。
色の付いていない普通の米はあとから出て来た物だってことだね。
木魔法を使って試験栽培をしてみたよ。
麦が米そっくりの植物だったから米は麦に似た植物かと思ってたんだ。
でもなんとほとんど同じ見えたんだ。
もっとも形だけで色は違う。
紫がかった黒……う~ん、なんだか不気味な気がしないでもないなぁ。
穂の部分が一番色が濃くて葉の部分は多少ながら緑も感じるからちゃんと葉緑素は
持ってるんだと思う。
遠い国から来た種籾を少しだけ炊いてみた。
うん……マズイね。
でも食べたことのある味だったよ。
なんだろう? この感じ……
確かに記憶に有る味なんだけど。
前世のどこかで食べた味だろうとは思うんだ。
酒は全国のいろんな銘柄のものを楽しんでいた。
でも米にはあまり拘ってた方じゃあなかった。
ブランド米をちょっと美味しいなと感じるくらいの舌でしかなかったもんなぁ。
田舎の伯父が作ってた古い品種でも気にせずバクバク食べちゃう程度の舌なんだ。
酒なら結構分かるんだけど。
あ! 酒だ! 酒の原料用の品種を普通に炊くとこんな感じの味だったと思う。
酒用の専用品種(酒米)はタンパク質や脂肪といった旨味成分がほとんど無い。
オマケに炊くとパサパサ感まで付いてくる。
なのでご飯には向かないのだ。
タンパク質や脂肪はお酒にするには邪魔もので「雑味」の元になるんだそうだ。
それでも酒米でもご飯として食べることはできる。
餅米を混ぜて炊くと味を補ってくれると伯父が教えてくれたんだ。
でもそんな手間をかけるなら最初から普通のうるち米を炊くよね(笑)。
そういえば「もち麦」って名前を聞いたことが有った気がする。
探してみようかな。
雑穀ご飯も試せるかも知れない。
アレは健康食品だったし、この遠い国から来た「米」を「酒」にしてダテさんに
奉納すれば喜んでくれそうだよね。
いろんな妄想を広げてニヤニヤしているヘンリー君。
やっぱり五歳児はそんな表情はしないと思うんだけど……
まあ、カール君はもう慣れたのであきれ顔ながら平気なようです。
うん……理解のある秘書で良かったね(笑)。