626・初デート。
グラディス王子だけなら接待はいつも通りで良かったんだけどね。
リリア王女まで御出なのでいつもとは少し違う趣向にすることにした。
アーティストギルドの芸人さん達を呼んだんだ。
舞台もあるし観覧席も特設してある。
いつもは王太后様やおばあさま達が観客なんだけどね。
ココに何度か来ている芸人さん達はいつもとは違う観客に驚いたけど客は客だ。
いつもとは少し違う緊張も感じられたけどね。
大道芸なんかは貴族・王族は気楽に見ることなんかは出来ない。
お忍びで街中をウロウロするなんてのも普通は論外だ。
ウロウロしてるオレ……ハハハ、やっぱり前世の記憶のせいってことだよね。
「パーティを盛り上げるとか王侯貴族の無聊を慰めるために宮廷に居る道化師達
とは雰囲気が違うんだな。
見たことも無い芸もあって面白かったよ。
だが館に舞台やら観覧席やら設置したのは誰なんだ?
昔から有ったようには見えないんだが」
あー……設置したのは私です。
名前を言えない高貴なお客様を接待しようと思ったんですよ。
まあ、あの方のご希望に沿っていくととんでもないことをさせられたりします。
こんな幼児に無茶降りは止めて欲しいんですけどね。
「あー……そうか……
退屈されているというあの方か……
……お前も苦労してるんだな。
もっとノンキに過している気楽なヤツだと思っていたよ」
「ヘンリーには色々と迷惑をかけてるわね。
本当に幼児なのに済まないとは思ってるのよ。
でもオカゲで随分と助かってるからついつい頼ってしまうのよ。
ごめんなさいね」
出来ることは多くない。
おっしゃるとおり幼児だからね。
オレの持ってる知識はココに合わないことも多いんだよ。
それでもヒントになるならとも思うんだ。
今すぐでなくてもいつか役立つかもしれないし。
お二人は楽しげに帰って行かれた。
恋人は無理でも友人にはなれそうな雰囲気だったよ。
王子は護衛も監視も付いている。
自由に動ける気楽な身分ではないのだ。
この館は宰相家のものだから何かの陰謀には使えないのは明かだ。
王子には「気の抜ける場所」になったのかもしれないね。
ところでおばあさま……
それってあんまり褒められたことじゃあ無いと思うんですけど。
勿論、ご一緒に居られるソチラの方もです。
ノゾキとかストーカーとか貴婦人がすることじゃあありませんよ!
「だってぇ……気にするな! って無理でしょ!
初デートなのよ! 初デート!」
王太后様……平穏無事って言ってましたよね。
お二人の平穏無事を乱すようなことは控えて欲しいんですけど。