621・退屈の虫。
お茶の時間が終わってグラディス王子は退出された。
オレも一緒に退出しようとしたら王太后様に引き留められた。
「あの子は自分の役目を理解してるのね。
いざとなったら捨て駒にされるかもしれないことも……
王都側の決断には私は手出しも口出しも出来ないわ。
でも、この旧都に居る限りは平穏に過して欲しいと思ってるのよ。
アナタも何か気付いたことがあったら配慮してあげてちょうだい」
西の国の前王陛下は崩御された。
新王陛下は即位されたばかりで敗戦の痛手から立ち直っているとは言えない。
前王陛下の死に多分関わっていたであろう前王の王弟殿下は敵対的な態度は
見せていない。
グラディス王子が捨て駒にされる事態は今のところ遠いってことだね。
王子の平穏を王太后様は望まれている。
それは西の国との関係が平穏であることを望まれているということだ。
そうしてそれはリリア王女の将来の平穏に繋がっている。
……オレに出来ることなんてあるのかねぇ。
いまだって王太后様の退屈の虫をまぎらわせるくらいしか出来てないと
思うんだけど。
まあいいや。
グラディス王子が旧都で退屈の虫に取り付かれないようにお相手してれば
任務完了ってことかもしれない。
それなら王太后様と同じコトだよね。
南の商都の侯爵家に行くことにした。
商都神殿の神官様達から手紙で妊娠経過の報告が来ている。
順調順調。有り難い限りだね。
ミーアはお出掛けには自分が付いていくのが当然と思っている。
侯爵家で歓待されたせいかもうウキウキ気分で支度してたよ。
王太后様は侯爵と親しいので手紙と奥様方への労いの品まで託された。
三つ子と侯爵家の跡取りな男子の出産は気になることらしいね。
侯爵家の領地は商都の周りに広がっている。
南部なのでヤッパリ馬が足りないんだよ。
ということで耕耘機を採用して耕しまくっているそうだ。
もっともレンタルなのは他の村々と同じなんだけどね。
「凄いな。
これほどの広さをあの魔道具一つで耕してしまうなんて……
馬より力が有るんじゃあないか?」
そうは言われてもアレは魔力が大量に要る大喰らいのいわば欠陥品です。
馬が足りないので使ってますが馬が元の数に戻れば使われなくなりますよ。
だから買い取りじゃあなくてレンタルにしてるんです。
……なんだってオレの商都訪問に付いて来たのかねぇ。
王宮の転移陣を使おうとしたらグラディス王子に見つかっちゃったんだよ。
あっという間に王太后様の許可を取って付いて来ちゃったんだ。
耕耘機は旧都にもあるんだけどねぇ。
まあ、開発改良のためのだからこんな大きな畑で使ってるところを見る
なんてのは無理なんだけどね。