616・魔力喰い。
耕耘機の試作品はあっという間に完成した。
は、早い! 早過ぎる!
シラーさんも職人達もオレが思ってたよりずっと優秀だったよ。
「トラクターほど大きくないですし詳しく色々ご説明頂きましたから。
前世は商人の使用人で農民でも職人でも無かったんですよね。
どうしてあんなに詳しくご存じだったんですか?」
オヤジはいろんなことを趣味にしていた。
植物もそのうちの一つでオレは水やりを散々手伝わされてたよ。
庭の花壇はいろんな花であふれていた。
盆栽にまで手を出そうとして母に止められていた。
「見られる盆栽を自分で作るまでになるには一生掛かっても父には無理!」と
断定されていたんだ。
そうして盆栽をあきらめた父は家庭菜園にシフトした。
市民農園の抽選に当たったものだから子供達をお供にして出動! となった。
ミニミニな耕耘機はオモチャにしか見えなかった。
なのでオレ達はオモチャにしようとしたんだ。
勿論、父にはこっぴどく叱られて取り扱いの勉強させられるハメになった。
シラーさんが職人達と作った耕耘機はそんな家庭菜園用の小さな物ではない。
標準的と言って良い大きさだった。
まあ、その大きさで説明したのはオレなんだけどさ。
「花とかなら分かりますが農民でもないのに趣味で……ですか。
ゆとりのある世界なんですねぇ。
一応完成はしましたが運用試験はこれからです。
耐久性も運用経費もどれくらいかまだ分かってません。
しかもコレの制作費は馬一頭分どころじゃあないんです。
ホントにコレを皆に使わせるおつもりなんですか?」
う~ん……やっぱり高いのか。
多分そうだろうとは予想してたんだけどね。
動力は魔力だしハッキリ言ってココではオーバーテクノロジーに入るだろう。
大量生産ができれば多少は安くなるかもしれない。
でもそうなった頃には馬が元通り使えるようになっている気がする。
それでも今は馬が大幅に足りない。
うさぎ馬を王妃様の実家の国から輸入もしてるけど足りているとは
とても言えないんだ。
農民達は難民にまでなってしまって奴隷になった者までいる。
うさぎ馬でも買えなかったりしてるんだよ。
マジックバッグと同じようにレンタルにするのが一番かもしれない。
まあ、そういう運営は商業ギルドに一任すればギルマスがなんとかするよね。
制作費は国で出すものだろうけどコレはオレの依頼だから寄付という形で
負担することにした。
馬が皆に行き渡るまでの間に合わせだと思えばイイよね。
研究だけだと思って許可を出した国王陛下は驚きました。
製作資金はヘンリー君から、配布やその他の手配はギルドがと気が付いたら
全部の準備が完了していました。
運用試験も済んで後は量産するだけになってました。
陛下は呆れましたが馬の代わりに畑を耕せるなら今更反対することも無いと
言われたそうです。
南部の元戦場な村々に順次配布されていった耕耘機。
馬が戻って来るまでは頼りに出来そうだと歓迎されました。
もっとも魔力の補充を村中の皆ですることになってしまいました。
やっぱり魔力喰いな機械だったようです。