608・祈りの焦点。
サンプルに作った張り子を神殿に持って行った。
ここの魔除けは神官様の作る御守りくらいだそうだ。
なのでこれらの張り子を御守りのように守護の魔法を付与できないかとね。
オレも守護の魔法を教えては貰ったけど勝手に御守りを量産するのはやっぱり
業務の侵害だと思う。
「コレに守護の魔法を付与ですか?
出来ますけど普通のお守ではイケナイんでしょうか?」
あー……イケナイってことじゃあないんです。
最初は小さな子達のオモチャのつもりで作ったんですよ。
作ってるうちに前世で魔除けになってたこの「黄鮒」のことを
思い出しました。
前世には魔法はありませんがココにはありますからココに相応しい魔除けにと
思ったんです。
「可愛いですね。でもコレって紙で出来てますよね。
壊れやすいんじゃあないんですか?」
結構丈夫ですよ。
紙の元は木ですからちゃんと作ればソレナリに丈夫です。
それに壊れたら魔除けの役目を果たしたと思ってもらえば良いんですよ。
身代わりに壊れてくれたんだと思ってもらえば良いんです。
孤児院の子達に最初の制作者になってもらった。
まあ最初はかなり! ユニークな張り子になってたけどね。
ちなみに土台の型は職人ギルドにお願いしたよ。
子供の為の物だと聞いて面白がって作ってくれたんだ。
ココの子供達は生後一年間は正式な命名をされない。
神官様達が居てもヤッパリ子供の死亡率が高いからだと思うんだ。
命名の儀は神殿で行われて祝福をされる。
なので命名が終わった子供達にお土産として渡してもらった。
特にお代は貰わないことにしたよ。
お祝いということで。
でも付いて来た兄弟姉妹が自分の分を欲しがるのは止められないよね。
ということで販売もお願いしておいたんだ。
神官様達の予想以上に売れたみたいだったよ。
お礼まで言われちゃったもんね。
「紙で出来てるし値段も普通の御守りより安いくらいだから大した収入になるとは
思わなかったんですよ。
孤児院の子供達の仕事にもオモチャにもなりましたし。
最近は行商達が仕入れて行ってくれたりもしています。
でも良いんですか? アナタは利益を受け取ってませんよね」
ああ、それは気にしないで下さい。
神殿への寄進扱いで構いませんよ。
魔除けとか守護が付与されていない張り子も作ってますから。
それに買える人ばかりじゃあありませんからね。
神殿で授けて貰えるならどの子も一つはオモチャが持てます。
気に入って貰えるかは分かりませんけどね。
「親達の望みは無事に子供達が育ってくれることですからね。
皆、喜んでくれています。
つられてなのか御守りも売れ行きが伸びたんですよ。
大儲けってほどじゃあないんですけどね」
お寺や神社、教会などなど……宗教の是非はともかくそういう所は皆の心が
集まる場所だと思う。
祈り、感謝し、願う場所……異世界のココでもちゃんとそういう場所があった。
人にはそういう場所が必要なのだと思うんだよ。
偶像を否定する宗教もあるけど神ならぬ衆生のオレは否定したくないなぁ。
アレラは祈りの焦点だと思うんだよ。
タダの物体でも皆の祈りが込められたモノなのだ。
魔法が付与されていても張り子は張り子、紙でしかない。
でも子供の為にと祈りが込められたモノなんだよ。
「仏もまた塵」って言葉もあるんだけどね。