38・連行。
馬車でお出かけ中でーす。
隣には美人なお姉さんも一緒ですぅ。
なんて嬉しい楽しいお出かけなんでしょう!
行く先が神殿じゃあなかったら……ねぇ。
おばあさまの筋肉痛を癒してくださったお若い神官様に御出でいただいて
錬金術師のお姉さんの火傷の跡を診ていただいたんだ。
でも「無理です!」と盛大に断言されちゃいましたぁ。
「多分処置までに時間がかかったんだと思います。
でもこれだけの範囲と深さの火傷でよく助かったと思いますよ。
高位の方でもたとえ直後の処置だったとしてもギリギリかもしれません。
跡が残ってしまったのは残念ですが助かったことのほうがスゴイことだと……」
あのー……私がやったら範囲は狭いんですけどキレイになっちゃったんですが。
「そんなバカな!」と言われたので実演したら……捕まっちゃいましたぁ。
最大威力のクリーンの魔法はクリーンどころじゃあなくて「浄化の魔法」だと。
小さく範囲を限定してかけた回復魔法もエリアヒールの凝縮版だそうな。
どうも気づかないうちにレベルアップしてたらしい。
「回復魔法がそのお歳でできるなんて聞いたこともありません。
一体いつからできてたんですか?!」
あー……先日おばあさまの治療に来ていただいた時ですね。
回復魔法を初めて見たので面白半分でマネをしたらできてしまって……
庭の遊具で遊んでる子供たちの傷とかコッソリ治したりしてたんです。
まあ、みんなかすり傷程度で気にも留めてなかったんですけど。
普通の回復魔法は患者の体全体にかかるモノだそうで傷のみにかけられるのは
上級者なんだそうだ。
エリアヒールだと広範囲に回復魔法がかけられるけれどソレが熟達しないと
傷のみにかけられるようにはならないと言う。
「上司に報告したい!
絶対に神官になるべきだ!!
今すぐ神殿まで来てください!!!」
そう叫びまわられたらどうすりゃイイんだろうね。
「そうおっしゃられても若様は宰相家の跡取り候補です。
簡単に神殿に差し上げるという訳にも参りません」
執事氏は毅然と断ってくれたけど神官様も引き下がってくれなかった。
おばあさまは一度神殿に行ってオレの回復魔法がどういうものなのか上司の方に
判定してもらうことを提案した。
「神殿に協力する気が無い訳でもないですがこの家にも都合はございます。
孫の能力がどんなものなのかハッキリ判定できれば当主の宰相にも相談できます。
どうするかはその後ということにしたいです」
なのでみんなで馬車でお出かけということになったわけだ。
オレ、おばあさま、執事氏、錬金術師のお姉さん、そうして神官様。
神殿は館からみたら丁度旧都の反対側になる。
結構遠く感じちゃったよ。