36・誤魔化す。
五日で魔術師さんは結果を出してきた。
一流って言ってただけあるね。
もっと時間がかかるかと思ってたんだけど。
ハチミツの大瓶としか見えないガラス瓶に入れられたソレは透明だった。
「お探しのマニキュアが塗料ということなのでコレだと思います。
まだ色は付けてないんですが……」
う~ん……小さい瓶に入ってるのしか見てなかったからまさかこんな大瓶が
出てくるとは思わなかったね。
でも製造は大量に造ってるハズだもんね。
大瓶でもホントは少ないくらいなのかも。
フタを開けると溶剤の臭いがした。
窓をメイドさんに開けてもらう。
小瓶に分けてもらえると嬉しいんだけど。
錬金術師さんは同じ大瓶の空いてるのを取り出すとソレから小瓶を造って見せた。
おおっ! コレは楽しい!
どんな形でもできちゃうんですかぁ?
「できますよ(笑。)
ご希望があれば丸でも四角でも三角でもお造りします。
私もガラスで造るのは好きなんです。
でも、大量には無理ですね。魔力が持ちませんから」
前世ならガラスを造形するには高温が必要で職人さんも趣味でやってる人も
もちろん芸術家も熱くて大変だったハズだよね。
まるで粘土でも扱ってるみたいに見えたよ。
扱えるのはガラスだけではないというので小筆もお願いした。
マニキュアの瓶のフタにセットされてるアレ……名前ってあるのかね?
刷毛……かなぁ?
まあ、塗料だしねぇ。
ということで自分の爪に塗ってみた。
ん~……臭いはともかくコレで良さそうだよね。
「なんだか不自然な気もしますけど……
コレで大丈夫なら色付けのほうを試してみます。
もうしばらくお待ちいただけますか?」
もちろんですよ。
コレで美人増産計画(笑。)も進展します。
「なんですか? その美人増産計画って?」
カール君……冗談に決まってるでしょ!
まあ、お肌のお手入れとかお化粧のこととかみんなに聞いて調査中なんだよ。
ココの女性はお化粧した人っていないみたいだけどね。
でも、シミとか痣とかはみんな隠したいと思うんだよ。
なんでみんなお化粧しないのかね?
前世だと子供以外はほとんどの女性がしてたんだけど。
「お化粧って……夜の『プロ』な女性とか役者くらいですね。
あとは大道芸の芸人とか……ですねぇ。
神さまが下さった顔に手を加えて誤魔化すってことであまりいいこととは
思われてないんですよ。
真っ白な顔って不自然ですし」
は? 真っ白?
お化粧って白いのだけなの?
もっと肌の色に近い色のも前世だとあったんだけど。
「呪術的なものが元ですので……白く塗ってからいろいろ呪術の文様なんかを
入れたのが始まりだそうですよ。
だから普通の人はしないんです」
あー……なるほど……それじゃあ呪術師とか神官様とかがしてても
普通の人はしないのか……
う~ん……女性をお化粧で美人に! なんて無理なのかなぁ。
「あのぅ……お化粧でシミとか痣とか誤魔化せるものなんでしょうか?」
意外なことにお化粧の必要なさそうな美人の錬金術師さんが発言した。
できてましたよ。オレの前世の世界では。
老人でもお化粧すると心も若返ると言われてました。
白も確かにありましたけど肌の色に近い色合いのものが各種ありました。
肌の色で人種を分けたりしてましたし個人差もかなりありましたから。
雪のように白いと言われる人から炭みたいだと言われる人まで居ましたよ。
どなたか誤魔化して差し上げたい方がおられるんですか?
魔術師さんは黙って左手の手袋をはずした。
左手の甲の側はとても人の皮膚とは思えない色に変色していたんだ。