97・防御力ゼロ。
内密のつもりだったんだけど感づいた人が居たよ。
ママ……そう母親役のパーラさんだ。
魔法の気配に敏感な彼女はオレの風魔法に気が付いた。
なのでベンジャミンさんに告げて様子を見てたらしい。
まあ、油断できない人だったんだね。
「大体難民のテント村を見たいなんて言う幼児ってだけで怪しいですよ。
でもまさか『ティグール』を倒せるほどだなんて思いもしませんでしたね。
このまま私の息子になっちゃいませんか?
冒険者になってガバガバ稼いでくれるとママは嬉しいなぁ(笑。)」
ハハハ……楽しそうに言ってくれるねぇ。
まあ、宰相家から追い出されるコトが有ったらお願いしますかね。
今のところそんな気配は無いんだけど。
倒した「ティグール」は彼等冒険者達のモノということになるそうだ。
でも振り向いたらソレは難民たちが棒で叩いたりナイフで突いたりしていた。
犠牲者が出てたそうだから仕返ししたい人達が居たってコトだろう。
ベンジャミンさん達は適当なところで切り上げさせた。
倒したのは冒険者達で所有権は彼等のものだからね。
泣きながら礼を言う人も居てなんだか身につまされてしまった。
今回はなんとか犠牲者を出さずに済んだ。
でももう魔獣が来ないなんてのは誰も保証できない。
塀の強化をなんとかしたいところだね。
「ティグール」はその場で解体されてあっというまに素材になってしまった。
肉は神官様達に引き渡されてココでの炊き出しの材料になった。
内臓にも薬になる部位が有るとかでソレは氷魔法で保存された。
毛皮が一番価値が高いそうだけど……穴だらけになっていた。
難民達が仕返しに叩いたり突いたりしてたから。
「これじゃあ金にはならないでしょうねぇ。
でも、皆の気持ちが少しは収まったんなら仕方ないか……
今回オレ等は護衛の任務を放り出して討伐しちゃったんだし」
後ろにいた護衛の冒険者達にはオレが頼んだからね。
職務放棄とは言えないと思う。
ベンジャミンさんは真っ先に走って行ったけど責める気は無いんだ。
そうしなければきっと犠牲者が出てただろうし。
剥がされた毛皮の穴を見てなんとか塞げないかと思ったんだよ。
なので穴に回復魔法をかけてみたんだ。
おー……塞がるよコレ!
「ティグール」は死んでるけど毛皮の細胞レベルじゃあまだ生きてたようだ。
でもオレの魔力はもうほとんど残ってなかったからね。
神官様達にお願いして穴を修復してもらったんだ。
「まさか魔獣に回復魔法を使うなんて思ってもみませんでしたよ。
でも魔獣の肉を寄付して頂きましたしね。
冒険者と一緒に行動している神官もいますからコレは使える技術かも……
穴だらけの皮がちゃんと元通りになるんですから」
「ティグール」の毛皮は高値で冒険者ギルドが買い取ってくれたという。
戦ってくれた冒険者達に均等に分けてもらったんだ。
でもねぇ……オレは冒険者じゃあないんだよ。
分け前だからってオレに持ってこられても……
受け取れ! いや要らないですよとベンジャミンさんと言い合っていたら
執事氏に見咎められた。
結局、キャンプ村でのコトを全部白状することに……
コ……コワイです……執事氏。
護衛って相手が執事氏じゃあ役に立たないよね。
執事氏に対しては防御力ゼロなことを自覚されられた若様なのでした。