今 4
すすり泣く声が聞こえる。怒りの表情も、嘆きの表情もたくさんある。
そんな中で私の表情は異質かもしれない。なにも考えず。なんの仮面も着けず。ただ、無表情でそこにいる。
静かに順番待ちをして、静かにお焼香をする。昔、じいちゃんのお葬式でも同じことしたっけ。あのときも、私は泣かなかった。
なにか話しかけたいことって、あるかな。みんなきっと、なにか言ってる。
今までありがとうとか、楽しかったよとか、絶対忘れないからとか。たくさんのことを言ってるんだろう。列はのろのろと進んでいく。
私は、なにを言おうか。
……なにも、ないや。
だって、どうせ届かない。人間が死んだらどうなるかは知らない。でも、あの肉体に魂があるわけじゃない。それは確かだ。
それに……棺の蓋も開いてないのに、どうやって話しかけるの? 顔も見られないのに。
でもいいか。じいちゃんの死に顔は穏やかだった。でもだからこそ、人形みたいだった。死んだのかと生々しく思い知らされた。
そのせいで、じいちゃんが生きていた頃の記憶が薄れている。死に顔ばかりが浮かぶ。
……そんなの、嫌だ。あの笑顔も、真剣な顔も、なにもかも薄れる。死に顔に上書きされる。そんなの最悪だ。




