過去 4
「神納さん、ノート! ヤバい!」
「なんで自分でやってないの?」
「眠かった!」
「バカか」
こいつはたぶん、正真正銘のバカだ。掛け値なし、尊敬に値するほどの。とはいえまぁ、その人好きのする笑顔は強力な武器だ。
だって私が思わずノートを渡しそうになったから。
「私へのメリットは?」
せっかく中学受験までして環境を変えたんだから、キャラも変えよう。そう思って、少しでも本物に近いキャラにした。
自分にメリットがないと動かない、情に訴えても無理、面倒なことは嫌い……などなど。まぁいい感じかな。
「メリット!?」
霧生は踏まれた猫のような声を出した。焦りすぎだろ。
「うん」
しばらく悩んで、霧生は、満面の笑みを浮かべた。
「1年生でスタメンになる!」
……バカだ、こいつ。
「私に関係ないけど?」
「えー、バスケ嫌い?」
噛み合ってないし。そういう問題じゃない。いやまぁ、
「嫌いではないけど」
とあるマンガの影響ではあるけど。でも、面白くなってルールも勉強したからちょっとは詳しい。
「じゃあいいじゃん、応援に来てよ。なんか全校応援ってのがあるらしいよ? 行き先は選べるけど」
「へぇ」
「だからノート貸してぇぇぇ」
「だからの意味が分からん。まぁいいや、はい」
「うぉ、ありがとマジで神!」
全校応援……。ああ、総体ね。中学校総合体育大会。そういえばこの学校は全校応援があったんだ。1日潰して、好きな競技を応援しに行く。
まぁ会場も近かったし……行くか。
この学校って強かったっけ? そう聞くと、休み時間中語られた。あそこは弱い、ここは強い、ここはギリ! お陰でなんか詳しくなった。試験には出ないけど。
……で、
「宿題は?」
「……うわぁぁぁぁあああっ」
総体ね……私には縁のないものですね。
ロボコンは誰も応援来ないし。




