過去 8
今日は、入学式前日。そして、私たちは2年生になる。クラス替えは今年が最後だ。3年生に上がるときには、クラス替えがないから。
つまり、今日が運命の日で、最も緊張する日だ。……普通は。
「おはよう、由梨奈」
「おはよう、愛美」
「もうすぐ発表だね」
「同じクラスだといいね」
そう言いつつ、にこやかに微笑む。同じクラスであってほしいのは、本当だ。愛美と一緒にいるのは楽だから。
「7時40分。発表されるよ」
発表の仕方は雑に思えるほどシンプル。玄関横の窓に張り出されるだけだ。そこから自分の名前を探す。
「来た!」
一番前を陣取っていた私たちは、素早く探していく。A組から順番に。
「……D組じゃん!」
愛美が思わず叫んだ。いやホント、逆から見た方がよかったね。時間の無駄だわこりゃ。
「隣は……あ、日比野くんだ」
「私は……」
それを見て、私も同じく叫び声を上げた。
「霧生じゃん!」
またかよ! つまり3年連続か! そーかそーかいい度胸だ先生出てこいコラァ……!
「うっわー、なんていうか……運命?」
「はぁ?」
思いきり不機嫌な声を出してしまった。これと? 笑顔と顔と声と運動神経がいいだけのやつと運命? ……あいつなにげに大体完璧だな。
「あ、神納さん」
来たのは霧生だった。私は無表情で自分の名前の隣を指さす。
「……隣? マジで?」
ふぅ、とため息を漏らした私を見て、霧生は笑い出した。……頭のネジはどっかに置いてきたの? お母さんのお腹の中?
「いやー、マジか! あははははははっ、面白い!」
「あんたって毎日楽しそうだね」
「これは笑うでしょ!」
ひとしきり笑って、霧生は去年と同じように手を差し出した。
「1年間ありがと、2年間よろしく」
「……こちらこそ?」
戸惑って疑問形になる。手を握った瞬間、心臓が走った後のように脈打つ。……おかしい。絶対おかしい。感情は、ないのに。




