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竹取の物語詩  作者: chro
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第七帖:工務店セイメー堂

  ――古にも恥ぢずやんごとなかりける者なり。幼の時、賀茂忠行と云ひける陰陽師に随ひて、昼夜にこの道を習ひけるに、いささかも心もとなき事なかりける。



 F1カー並みのスピードでぶっ飛ばすタクシー牛車ぎっしゃに乗ったら、あっという間に都の片隅にあるオンボロ工務店についた。路銀はもちろん持っていなかったけど、どういうテを使ったんだか、かぐやがうまく運転手を言いくるめてタダになったんだ。やっぱりヤクザだな、こいつ。


 雅やかな都とはかけ離れた、小汚い繁華街の雑踏……もとい、下町情緒あふれる狭い通りの一角に、今にも爆発しそうなトタン屋根の工場があった。ここが、セイコさんの紹介にあった『セイメー堂』らしい。スゴ腕の発明家って言っていたけど、仮にも工務店を名乗るなら、自分んちの傾いた看板くらい直せよ……入口から、かなり不安にさせてくれるな。


「ユッキーよりはマシなことを祈るわ」


 ぼそっとつぶやいたかぐやに、オレも激しく賛成だ。

 ここへ来る途中、セイコさんから預かった和歌の手紙を届けるために、大納言行成の屋敷に寄ってきた。レディース総長のボーイフレンドはどんなイケメン貴族かと期待して行ったら、出てきたのは……ぷぷっ、思い出しただけでも笑いと鳥肌が止まらないよ。性格はともかく、外見を表現すると放送禁止用語が飛び交いそうだから、自主規制しておこう。セイコさん、あれのどこに惚れたんだ……? オレとかぐやは、せめてもの友情として、何も見なかったことにした。


「すみませーん。話を聞きたいんですけど」


 あれよりマシなら、なんでもいい。そう思って引き戸を叩いたら、すぐに中から人が出てきた。小柄なずんぐりむっくり、サバンナの草原を思わせるさわやかなハゲ頭、冗談みたいなぐるぐるメガネ。あの広告チラシのとおりだ。


「なんじゃい、お前さんら?」


 仮にも工務店を名乗るなら、客の顔を見てなんだはないだろ、おっさん。


「このチラシで紹介されたんだけど」

「おぅ、なんだ、客だったのか!」だから、工務店なんだからさぁ……。「で、何がほしいんだ?家の修理か?あいにく、ソーラー牛車は品切れで半年待ちだぞ」

「ソーラーの牛車もあるのかよ……」

「ロケットを作ってちょうだい」


 短刀直入のかぐやは、前置きもツッコミもなしに切り出した。話の内容のせいなのか、何かを期待していたのか、おっさんもびっくりした顔で間があった。


「ロケットってお前さん、まさか月に行きたいとでも言う気か?」

「そのまさかよ。文句ある?」

「文句はないが……いや、あるっちゃぁあるか……」


 おっさん、オレも同感だ。この女は初対面の人間にもズケズケと、遠慮ってものがカケラもない。そして下手に言い返した日には、百万倍になって返されてしまう。


「ロケットは、さすがのわしにも無理だが……」

「使えないわね」

「この時代にロケットなんざ、無茶言うな」ソーラーの時点で何かが間違っているけど、おっさんの言い分は半分正しい。「……だが、月に行く方法ならばなくもない」


 意外にも、おっさんは神妙な顔でささやいた。ハナから期待していなかったオレ達は、つい身を乗り出して耳の穴をかっぽじった。


「あるのか!? 月に行く方法!」

「それなら早く教えなさいよ」

「ふっふっふっ、それはな、5つの秘宝を集めることだ!」


 ……秘宝? おいおい、なんだ、その怪しげな響きは。せっかく期待したのに、急に胡散臭さ倍増だ。


「秘宝とは“仏の御石の鉢”、“火ネズミの皮衣”、“竜の首の珠”、“ツバメの子安貝”、“蓬莱の玉の枝”の5つだ。伝説によると、こいつはお月さまから落ちてきたと言われていて、5つ集めると月への道が開くそうだ」

「うわぁ……すっげぇ嘘くせー」

「嘘なもんか! ちゃんと『月刊鬼マガジン』の特集にも書いてあるんだからな」


 おっさんはムキになって、セクシーな鬼のお姉さんが表紙の雑誌を見せた。これじゃ、余計に説得力がなくなっているぞ。


「言っておくが、わしはただの発明家じゃぁない。じつは鬼道きどうの研究もやっておるのだ。……おーい、クビラ!」


 どこか空中に向かっておっさんが叫んだら、白い紙の人形みたいなものがポンッと現れた。おぉっ、何もないところから物を取り出すっていう、よくあるけど仕掛けが未だにわからない、あの有名な手品か!……でも、出てきた紙の人形は、恐ろしくおっさんをにらみつけているように見えるんだけど……。


「こいつはわしが発明した式神ロボット第1号、クビラだ」

「そんなダッサい名前で呼ぶな言うとるやろ!」


 発明品を誇らしげに紹介したおっさんは、見事なまでに脳天をぶっ飛ばされた。か、紙の人形のくせに、なんて凶暴な……。さらに倒れたおっさんを踏みつけて、紙人形はオレ達に向き直った。


「おう、わいは十二神将の一、『子』のヨーや。こんなおっさんが付けたダサい名前なんか、さっさと忘れてや」

「は、はぁ……」

「なんなの、ジュウニシンショウって?」

「んー、まぁ簡単に言うたら、あの世の神様や。わいらを呼び出せる人間は今まで何人かおったけど、12人全員を呼んだのは初めてや」紙人形は、大げさにため息をついた。「……それでどんな格好えぇ人間かと期待して来てみたら、こんな情けないちんちくりんのオヤジやで!ほんま、呼び出されたわいらがあほみたいやわ」

「まぁ、それはかわいそうに」


 流暢な関西弁を操るクビラ、もといヨーは、容赦なくおっさんを蹴り飛ばした。かぐやは紙人形に心底同情している。必然的に、というか良識ある人間として、オレはおっさんの味方をせずにはいられなかった……もっとも、この2人に正面から立ち向かうなんて自殺行為、もちろんできないけど。陰ながら応援してやるよ。かんばれ、おっさん。


 ……ん?そういえば……。


「十二神将って、どこかで聞いたことがあるな。確か……有名な映画に出てくる陰陽師の……」

「ふっふっふ! そう、わしはかの有名な大工にして発明家、そして知る人ぞ知る鬼道研究の陰陽師、安倍ハルアキだ!」

「わいの下僕のくせして、デカい顔すんな!」


 せっかく起き上がって、ここぞとばかりに自己アピールをしたおっさんは、またしても紙人形に張り倒されてしまった。不思議な術を使う陰陽師……その手足となって働くはずの式神に手も足も出ないなんて、人間として悲しすぎるぞ、このおっさん。

 こんなさえないオヤジが、名前が似て非なる安倍晴明? 本当にあの有名な陰陽師なのか?なんだか、オレまで不安になってきた……。




冒頭出典:『今昔物語』より

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