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竹取の物語詩  作者: chro
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第三帖:鶯の鳴く都

 794(ナクヨ)ウグイス平安京――


 今さら高校で習うまでもない、日本史で1番有名な年号のひとつだ。この平安時代は生活様式や風習、かな文字、文学と、日本の文化が作られて完成した、1番日本らしい時代でもある。みやびやかな貴族の絵巻物や、名もなき庶民も詠んだ和歌は、壮大な物語として1,000年後の世界にまで伝えられている。


 ……と、ウンチクを並べてみたものの、その時代を実際に目にしたら、教科書の知識なんかあっという間に吹っ飛んだ。


「何なんだ、ここは……?」


 森を抜けたら、大きな都が広がっていた。中学の修学旅行で見たのと同じ、碁盤目の大通りや京盆地の山々――でも、何かが違う。違いすぎる!


「何って、見てのとおり京の都よ。ほら、ちゃんとウグイスも鳴いているじゃない」

「いや、そういうレベルの問題じゃなくて……」


 平然と肩をすくめるかぐやに、オレは目の前で展開されているめちゃくちゃな光景の異様さを、どうにか頭の中で整理しようとした。


「まず、あの暴走している牛はなんだ?」

牛車ぎっしゃよ。知らないの?」

「牛車、っていうか、牛はのんびりゆっくり進むものだろ!?」

「後世の牛は、足腰が退化したんでしょ」


 牛歩って言葉の意味を完全に裏切って、車を引く牛はF1カー並みに風を切ってびゅんびゅん突っ走っていた。ひかれないように道の端によけたけど、そこを歩く人たちもやっぱりおかしい。


「あのヒラヒラした服は和服か洋服か、どっちなんだよ」

「最近は海外貿易が盛んで、異文化交流が生み出した最新の流行ファッションよ」

「じゃぁ、あのモヒカンは? 緑と赤のロン毛は?ちょんまげは時代が違うだろ!」

「いちいちツッコミに忙しい男ねぇ」


 うぐ……そ、そんな口うるさいおばさんみたいに言わなくても……。


「いい? 最初にちょっと言ったけど、ここはあなたが知っているとおりの過去じゃないの」

「似ている別の世界ってことか?」

「逆よ。歴史はまるで違うけど、正真正銘、同じ世界なのよ」


 同じだけど、違う……? うーん、まったく意味がわかんねぇ。


「……まぁ、そのうちわかるでしょうから、今は気にしないことね。あまり細かいことにこだわっていると、ハゲるわよ」


 かぐやは先に歩き出して、それ以上話を続ける気はないみたいだった。なんだかうまく丸めこまれたようにしか思えないけど、1,000年前に飛ばされたり、竹取のかぐや姫がいたり、どうせ他にも変なことばかりなんだから、いちいち気にしても仕方がないか。


「まだ、大丈夫だよな……?」


 いちおう頭をさわって確かめてから、急いでかぐやを追いかけた。



 都の路地は狭いけど、どこもいろんな人で賑わっていた。ぱっと見は絵巻物どおりの古い時代の町並みなんだけど、


「てめぇ、俺が売ってやろうって言っているのに、まさか買わずに帰ろうなんて思っちゃいねぇよなぁ?」 じつは八百屋の店主が全身イレズミのヤクザだったり、

「はぁい! そこの素敵なお兄さん、あたしとイイことしない?」 バニーガールのおネエちゃんが怪しげな長屋に客引していたり、

「やっぱりオーリーは基本だけどむずかしいなぁ」 神社の境内で着物の男の子たちがスケボーで遊んでいたり。


 全体的に何かがズレている。聞こえてくる言葉は確かに日本語だけど、もしかしてこいつらみんな宇宙人なんじゃないのか?木にとまって歌うウグイスを見上げて、オレは毒づかずにはいられなかった。お前が鳴いたら平安時代だなて、そううまく納得すると思うなよ。


「で、これからどうするんだ?」


 おとなしくついていったはいいものの、どこへ行くのかだんだん不安になってきた。いや、この変な町じゃ、行き先を聞いても余計心配になるだけかもしれない。


「言ったでしょ、月に帰る方法を探すのよ」

「何か心当たりはあるのか?」

「あったら、あんたなんか必要ないわよ」


 こ、こいつ……オレに恨みでもあるのか!?


「ちょっと、どきなさいよ。あんたのぜい肉のせいで道が狭くなるじゃない」


 と思ったけど、この女は誰にでも絡むらしい。たまたますれ違ったお相撲さんを突き飛ばして、さらに暑苦しいとまで言い捨てていった。いきなり怒られたお相撲さんは唖然としている。お気の毒に……。


「手がかりもないのに、ここに来たばかりのオレがわかるわけないじゃないか」

「シュウ、私が帰れないとあなたも元の時代に戻れないってこと、忘れたわけじゃないわよね?」

 さっきのヤクザと同じ殺し文句だよ。「……とにかく、もう少し町を見てみようか」


 あぁ、簡単に屈服してしまって情けない……。でも、この都なら本当にロケットくらいあるかもしれないな。さっさと探して、オレも帰りたいよ。


「ん?なんだ、あれ?」


 三条大橋を通りかかったら、下の河原に人だかりを見かけた。何百人いるのかな、とにかくすごい盛り上がりだ。何をやっているんだろう……ハッ! もしかして三条川原といえば、公開処刑で有名なところじゃ……!?


「あぁ、またいつものやつね」


 いつもの!? そんなにしょっちゅう打ち首をしているのか!?


「私はあまり好きじゃないけど、シュウも見たいの?」


 あきれたみたいなかぐやに、どう返事をしたらいいのかわからなかった。怖いけど、正直ちょっとだけ興味がないわけでもないし……でも、関係ないのに見に行くなんて不謹慎だよな……。どうにか見えないかとそわそわしていたら、かぐやが肩をすくめて河原へ降りていったから、オレも理由ができたのを言い訳についていった。


「キャーッ!」


 うわ、近くに行ったら、悲鳴と熱気で押し潰されそうだ。絶叫するくらい残酷な処刑なのか、みんなが押し合って注目するような有名な犯人なのか……。


「ミッチー、素敵ーッ!」

「キャァーッ! ミッチー様ぁ!」

「……ミッチー?」


 オレはそこでやっと違和感に気付いた。よく見たら、ほとんどが若い女の子で、悲鳴と思った声はお花畑に見えるくらい黄色い歓声だった。これと同じ光景を、夏休みの某スタジアムとか年末の某ドームで見たことがある気がする。ということは、つまり……。


「押さないで、押さないで! ボクはキミ達みんなのことを愛しているから!」


 人ごみの向こうにちらっと見えた金髪と有名人オーラに、オレはいっきに力が抜けた。



ミッチーが誰か、わかりましたか?

次話から、さらに間違った歴史が展開します。

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