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竹取の物語詩  作者: chro
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第二十三帖:最後の秘宝

 長いようで短かった秘宝探しも、ついに最後の1つを残すのみになった。思えば歴史の授業中にいきなり拉致られて、訳もわからないまま1,000年前の世界さ迷うハメになってしまったんだよな。しかも高飛車なお姫様にドツかれて、変なヤツらに絡まれて、よくめげずにやってきたよなぁ、オレも。


「疲れたわ。タクシー牛車を呼んでちょうだい。あと肩も叩いて」


 奥山を降りたら、さっそくかぐやの我が侭炸裂だ。それでも言い返すことなくやってやるオレは、たぶんまわりから見たら立派なエムだろうな。

 でも、最近はなんとなく違うんだよな。少しでも何かやってやりたいっていうか、なんでもいいから話をしたいっていうか……駄目だ、これじゃあ真性のマゾだよ。

 と、とにかく、今はこれでいいんだ。こんなことしていられるのも、あともう少しなんだから……。



 セイメー堂に戻ったら、ハルアキさんとヨーが本棚をひっくり返して調べ物をしていた。正確には、紙人形は棚の上から指示を出しているだけで、主が1人で走りまわっていたんだけど。


「どうしたんですか?」

「おぅ、帰ってきたのか」 ビン底ぐるぐるメガネがオレ達に気付いた。「ということは、ついに4つ目の秘宝も手に入れてしまったか!」

「やるやんけ、にーちゃん」


 ハルアキさんだけでなく、ヨーまでちょっと驚いていた。オレなんかが秘宝を集められるなんて期待していなかったのか、そもそも秘宝の存在自体を信じていなかったのか、どっちともとれる顔だな。


「お前さんらなら大丈夫だと思っていたぞ」 どうだか。「ボウズのために葬儀じょ……あぁ、いや、秘宝を使う場所を調べておいたからな。うん」


 今、葬儀がどうとか言わなかったか? にゃろう、ちゃっかりそっちの準備までしていたな。でも、もしあのドラゴンが本当に凶暴だったら、都の彼方まで吹っ飛ばされていただろうな……あれ? そういえば今さらだけどマロはどうなったんだろ。


「まぁ、後のことはこっちに任せとけや」


 ヨーがハルアキさんの頭をドツきながら、棚からふわっと飛び降りた。


「それより、最後の1つが問題や。こないだも場所はわかってる言うたけど、そこへ入る手段もまだ見つかってないからな」

「竜の棲み家よりヤバいところなんて、地獄か? 魔界か?」

「ここや」


 地獄の何丁目かと思ったら、意外にもいつもの都の地図だった。しかもヨーが示したのはそのど真ん中、オレでさえそれがどういう場所なのか知っているところだ。都で1番大きくて、1番有名で、1番警戒厳重なところ……ヨーが厄介って言った意味がわかった。


「マジかよ。よりによって宮殿にあるなんて……」

「さすがのわいも、あそこだけは自由に入れへん。人間相手の警備もすごいけど、術封じの結界も半端ちゃうからな」


 この国の大ボスが鎮座する宮殿は、当然ながら一般人が入れるようなところじゃない。怨霊の呪いも鬼の攻撃も想定してガチガチに守りを固めているから、普通は式神でさえ簡単には近付けないらしい。それでもどうにか調べたハルアキさんは、さすが稀代の大陰陽師ってところか。


「細かい場所までは特定できんかったが、このどこかにあるのは間違いない。問題は、猫の子1匹入れん宮廷内にどうやって潜入するか――」

「……それなら大丈夫よ」


 頭にシワを寄せて考え込んでいたオレとハルアキさんとヨーの後ろで、かぐやがつぶやいた。一瞬、何を言っているのかわからないで3人で瞬きをしたら、もう1回くり返した。


「あそこへ入る方法でしょ。大丈夫よ」

「大丈夫ってネーちゃん、あそこの超厳重警備を知ってんのかいな? 同じ豪邸でも、菅原邸とはワケがちゃうんやで。しかも、もし見つかって捕まってみい、即三条川原直行や」

「別に忍び込むわけじゃないわよ」

「まさか正面突破するつもりか!? 待て待て、早まるな!」

「うるさいわね。あんた達は黙っていなさい」


 ヨーとハルアキさんが次々に止めようとしたけど、かぐやは強気に断言して聞かなかった。もしかして秘密の抜け道とか、警備員を買収する方法とかを知っているのかな。こいつならあり得るし、やりかねない。

 でも、なんでかな。やっと最後の宝が目の前まで来たっていうのに、かぐやが乗り気じゃないみたいに感じる。何かをためらっているみたいな、何かに怯えているみたいな、そんなふうに見えるのはオレの思い過ごしなのかな。



 当時の最高学問、風水と陰陽術の粋を集めて建造された平安京は、地形も方角も建物の配置も完璧に計算されていた。帝の宮殿を中心に、東西南北の門を四聖獣が守って、道は理路整然と碁盤目に通っている。まさに芸術的な人工都市だ。歓楽街のスナックとか竜の棲む山とかまで、本当に計算されていたのか……ちょっと怪しい気もするけど。


「やっぱ、デカいなぁ」


 とりあえず来てみたはいいけど、朱雀門の前でオレはアホみたいに口を開けて見上げてしまった。門はもちろん、その奥に見える宮殿もひたすらデカくて豪華絢爛で金ピカで、石油大富豪の国のお城みたいだ。しかも本殿まで遠い。庭だけでサッカーグラウンド何個分なんだろう。


「あんたがそんな顔をするなんてね」


 かぐやは相変わらず冷めている。こんな桁違いのを非現実的空間を見て、驚かないヤツなんているのかよ。


「すべてを覚えていないんだから、しょうがないわよね」

「え?」


 言っている意味がわからなくて聞き返したけど、かぐやはすたすたと門番のところへ歩いていった。あっ、あいつ、まさか本当に正面突破するつもりなのか!? 今度ばっかりはシャレの通じる相手じゃないぞ!


「おい、かぐや! 待てって!」

「……わかりました。どうぞ、お通りください」


 へ……? 武器を持ったごっつい番兵は、かぐやが何かを言うと、あっさり門を開けてくれた。一瞬、誰にでも開放されているのかとも思ったけど、他の一般市民たちは近付くこともできないでいた。あんな怖そうな兵隊まで恫喝したとも思えないし……。


「さ、行くわよ」


 かぐやはさっさと中に入っていったから、オレもあわてて追いかけた。門番たちはギロッとにらんだけど、引きとめはしなかった。


「なんて言って通してもらったんだ?」


 やっと追いついたかぐやに聞いても、ただ前を見て歩くばかりだった。でもその足取りは確かで、この広大な敷地内でもまったく迷っていない。


「お前、何か隠しているな」

「……」


 言葉を変えたら、かぐやの顔がこわばって立ち止まった。隠し事をしていることなんて、初めて会ったときからわかっていたけど、今の“それ”は明らかに核心的なことに関係している。

 いくらおかしな世界だからって、いくら月から来たお姫様だからって、たった一言で宮殿に入れるなんて、どう考えたっておかしい。それに、かぐやはこの中を知っている。初めてここに来たんじゃない。


 これまでは無理に訊くようなことはしないでおいたけど、今は……今こそ訊かなきゃいけないときだと思った。


「シュウ」 しばらくうつむいていたかぐやが、顔を上げてオレをまっすぐに見た。「あなた、最初に訊いてきたわよね。私を助けるのが、どうして自分なんだって。なぜ、あなたじゃなきゃ駄目だったのか……その答えが、ここにあるのよ」


 長い髪と同じ透明な漆黒の瞳には、どんな感情も読み取れなかった。答えになっているのかいないのか、かぐやはそれだけ言うと、また歩き出した。


 オレが1,000年前の世界に飛ばされてきた理由が、ここでわかるっていうのか?

 お前の秘密は、オレとどんな関係があったんだ?

 かぐやはオレを……オレはかぐやを、前から知っていた……?


 オレは何ひとつわからないまま、今はただかぐやについていくしかなかった。


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