~~異世界で初の食事は~~
「では、子供達の名前を決めたいと思う」
そう言うと、視線を子供達に向ける。当の子供達は、ミルクを飲んで満腹になり再び夢の世界へ旅立っていた。
「俺なりに、兄は『ハイド』妹は『ツクヨ』って名前を考えたんだけど、ルミリアは…」
「流石はヒロト様、とても良いお名前だと思います!!」
俺がルミリアに振ろうとした途端、凄い勢いで賞賛されてそのまま決定となったのだった。
「そうそう、ルミリアに頼みたいことがあるんだけど」
「私にですか?」
「ああ、ルミリアにしか出来ないからね。それで、頼みたいことなんだけど…」
頼み事をルミリアに任せて、キッチンへ向かい昼食を作ることにした。調理をするのは、完成品を出すより食材を出した方がDPの消費が少ないからだ。
(よし、素うどんを作るか)
鍋を火にかけ昆布・鰹だしのスープを作りながら、うどんの麺を作っていく。
「ヒロト様、終わったのですが何処に…あの、何をされていらっしゃるので?」
俺は今、鍋の具合を見ながら生地を踏んでいるのだが…それは、ルミリアにとって混乱するほどの行為だったらしい。
「なんとなく、ですが…料理を作っている事は…見てわかりますけど…その足蹴にしているものは?」
「うどん麺の生地だけど?」
すると、ルミリアの眉間に皺が寄った。
「まさかヒロト様は、床に置いて足蹴にしたソレをお食べになるおつもりですか!?」
そこでやっと、ルミリアが衛生面を気にしているのに気づく。
「あ~、ちゃんと袋に入れてるから問題無いんだけど…」
「だとしても、食べ物を足蹴にするなんて…」
それでも、ルミリアは納得がいかないようだったが、なんとか説得して調理を続け『素うどん』が出来上がった。顰めっ面なルミリアに見られながらの作業は、とてもやりにくかった。うどんを持って、二人でリビングに戻り席に着く。
「それじゃ、いただきます」
「…『いただきます』って何ですか?」
この世界に、『いただきます』の文化は無いようだ…
「え~と確か…調理してくれた人と食材への感謝の言葉…だったかな?もう、習慣化しちゃってはっきりと思い出せないけど、それで合ってたはず…」
そんな曖昧な話を聞いて、ルミリアはようやく笑顔を見せた。
「私も食事の前に祈りを捧げますが、きちんと言葉にした方が伝わりそうなので、これからはそうさせてもらいますね…『いただきます』」
ルミリアは、俺と同じように手を合わせて感謝の言葉を口にした。
「食べ終わったら、同じように手を合わせて『ごちそうさまでした』って言うんだ」
「わかりました」
俺は、箸でうどんを一口啜る。
「うん、なかなか良い出来だ。自家製だから、店には劣るけど…」
「ヒロト様、そんなに音を立てて食べたらはしたないですよ」
流石は王女様、俺のテーブルマナーを指摘してきた。だが…
「いやいや、少なくとも『うどん』と『ラーメン』は啜って食べるのが一般的だから。それにここは、いちいちテーブルマナーを守って窮屈な食事をする場所じゃないからね。あと、早く食べないと麺が伸びて不味くなるよ?」
そういうと、ルミリアは意を決した表情でフォークを使い一口含んで咀嚼する。
「…美味しい…食感も良いです」
そしてスプーンで、スープを掬い一口。
「…このスープも初めての味ですが、サッパリしていて美味しいです」
「それはよかった…生地を踏んでいたのは、この麺のコシ…食感を良くするためなんだ」
「そうだったのですか…何も知らずに失礼なことを言って…」
「もう、過ぎたことだから。それに、さっきも言ったように、伸びると不味くなるから早く食べよう」
それからは、黙々と食べ進めて完食し二人で『ごちそうさま』をして、食器を片づけ食休みがてらたわいのない話をするのだった。