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噴水前のベンチ

2018.05.15 本文、台詞の一部を変更。また読みやすくなるように適宜空白行を挿入する等調整しました。

「と言う訳で、どうしてもそこだけは生徒会執行部に条件を曲げて頂けなくて。なので部長をお引き受け願いたいのです。“ひいらぎ先輩”、いかがでしょうか。――部長はどうしても三年生で無ければ部活動としての承認は出来ない。と生徒会顧問の先生にはっきり言われてしまいましたので、ここは是非にお引き受けを願いたいのですが」


「いや、月夜野さんちょっと待って。でも、この時期僕が部長になってもほんの数ヶ月で引退だよね?」

「……ほぉ、なるほど。お姉様がこれほどまでに、平身低頭、頭を下げてお願いをしていると言うのに。……それを聞けない。と、そう言うつもりですか? 柊先輩」

「サ、サフランさんも、ちょっとだけ待って! ……そもそも論点が違うよね!?」


 まぁ、私から見たって違うな、既に論点以前の部分が。

 見た目はもちろん、精神的にも、言葉の上だって。

 あやめさんが一ミリたりとも、頭を下げてるようには見えないし。


「なぁ、桜。どっちがどうなったら勝ちなんだ?」

「多分、なにがどうなっても柊先輩の負けだとおもうよ」



 華ちゃんと始めて会った公園。

 あの日、仁史と二人で座っていた三人掛けのベンチ。


 今日そこに座っているのは私の隣にあやめさん、そして柊先輩。

 ベンチの後ろには華ちゃんと仁史が並んで立っている。

 全員が手に持っているジェラートは当然、少し離れたところに止まったフランスのオシャレな車。

 それを改造したジェラートの屋台で買ったもの。

 全員制服のまま、ジェラートを舐めつつ噴水を眺めている。と言う次第。



「でもあやめさん、古道具愛好会って具体的に何をするつもりなんですか?」

「正直なところは校内にわたくし達の場所が欲しかっただけなので、あまり入りたい人が出てこないような、そんな部活の名前を考えていただけなのですが」


 確かに、高校生の部活動で古道具。

 なんて言ったところで変わり者が集まってるイメージしか浮かばないけど、でも。


「それに来年度以降、魔法使いの高校生は|うつくしヶ丘高校(ウチの学校)に進学させたい。と言う会長の意向もありますので、活動内容はともかく人目を気にしなくても良い、連絡場所のようなものは必要になりましょう。それに校内の振興会関係者が揃っているならわざわざ事務所に出勤しなくても良いでしょうし」


「でも、活動実績が必要って言うのはどうするんです?」

 活動実績を示せなければ即廃部。意外とその辺は厳しい。

 アニメみたいになんとなくだらだら部室に集まってお茶を飲んでお話しして、みたいな事はこと、うつくしヶ丘高においては許されない。


「古道具をあつめて校内の何処かに常設展示、そしてそれらの来歴や使用法の調査、研究。そしてレプリカ製作。これらが達成出来るなら生徒会から部室と活動費を認めて頂ける、と言う事で生徒会執行部と文化会系部活動連合からも言質げんちを頂いてきましたの」

「でも、結構大変なんじゃ……」


「古道具と言って通りそうな物ですが、個人的に10点ほどでしたら何とかなりますので、先ずはそれらの整理と陳列。そして一般的に古道具と言われるモノの来歴や使用法の調査、研究。これも資料やデータにはあてがありますから、見易くまとめるだけ。そしてこれが活動の目玉になるのですけれど。月に一点程度、製造工程を含めて古道具のレプリカ作成」


「月夜野先輩、他は良いすけど、レプリカを月に一点ですか? かなり大変そうな気がするんすけど……」

「大丈夫です。桜さんがわたくし達に師事してくれる予定ですから」


「……え? 私、ですか!?」

 いくらあやめさんとは言え、無茶ぶりにも程がある。


「えぇ、昨日総務から連絡があったのです。職人さんは振興会から紹介する形になりますが、近々に魔法道具職人アイテムクラフタの方とお約束を取り付けて、お会いになって頂く事になったそうです。その旨、お話をしておくように、との事でした」


 ――アイテムは新品でも見た目は古道具に近いですから。そう言うとあやめさんは優しくふわっ、と笑みを浮かべる。

 ……こう言うのを悪魔の微笑みって言うんだな。


「私からも強くアイリスと会長に押しておいた。桜ならきっと良い職人クラフトマンになるわ。これは絶対、私が保証する!」

 意外な伏兵が! 彼女は革命を極端に嫌う、私とは真逆のプレイスタイル。

 自分の優位を捨ててまで革命を革命で返されたのも一度や二度では無い。

 昨日の大富豪では地味だが強かった。


 ……トドメを刺してくれたの、華ちゃんだったのか。

 大真面目でニコニコ笑う彼女。はは……、これはもう、断れないっぽいな。笑うしか無い。

 どうすんの? これ……。


 しかし、そっちはともかく。――私は道具なんか作れないよ、あやめさん!


「冗談です。そんな無茶はいくらわたくしでも言いません。執行部の技術課にそれらしい小物をいくつか作って貰うことで、既に話は付いています。桜さんは当面こちらは気にせず修行に打ち込んで頂ければ結構ですよ?」

 結構なわけが無い。

 だいたい私は、不器用選手権があれば地区大会三位くらいで地方大会出場を決めるような、かなりの不器用さ加減だというのに。


「桜が職人ねぇ。俺も何かした方が良いのかな……」

「なら、南光君は山ごもりでもしてみるか? それなら僕からも師匠に頼んで……」

「お断りします!」



 時刻は夕方。

 逢魔が時、と昔の人は言ったそうだ。

 魔に出合い易い時間。

 魔法を使うにはきっと向いている時間帯なんだろうな。


 でも。私の知っている魔法使い達は、ここで夕焼けを眺めて、どうでも良い話をしながら、ジェラートを舐めているんだけど。

 明日のお天気を約束しながら、公園は少しずつ夕方から夕暮れになりつつあった。



 そして今日の公園には“おかしな”所はもちろん、一カ所も無かった。  



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