八話 どたばた
お久しぶりです、長くなってしまい申し訳ありません(;_;)
ひと段落したので、これからまたぼちぼちやってきます!
「お、おう。ちょっとまて。ウェイウェイ、落ち着け、俺。大丈夫だ、影になんかいるのはわかってた。そうさ、わかってたんだ。驚くようなことじゃない。な? だから落ち着け」
こんばんわ、俺です。ただいま、絶賛落ち着いています。
「さあ、ゆっくり顔を上げてみるんだ、俺。なんか、鷹に鷲を足して、さらに二を掛けたような巨大な鴉なんてここにはいない。具体的に言うと全長二メートル超えてんじゃね? ってくらいの鴉なんていない。……よし」
バッと顔を上げ、前を見つめると、クリクリした紅い瞳の、超絶可愛い(大きさは除く)美鴉が目の前に!
「無理だぁぁぁあっ! 俺には現実が直視できねぇぇぇええっ!」
目の前の巨大鴉は可愛らしく(大きさは除以下略)小首を傾げる。
一人で騒いでる俺を不思議に思ったのか、そいつは少しづつこちらに近づいてきた。
「お、ま、まて、ちょっとまて。べ、別に鴉が苦手とかではないけど、このサイズは待って。だってあれじゃん、一口じゃん。パクッとくわえてゴクンッで終わるじゃん!」
「かぁー」
「ひぃぃっ!!」
ひょこひょこと、一歩づつ可愛らしく(大きさは以下略)歩いてくる鴉にただただ恐怖心しか浮かばない俺は、目尻に涙を浮かべながら尻餅をつき、後ろに下がる。
そうすると、また一歩、鴉が近づく。
下がる。
近づく。
下がる。
近づく。
下が――。
「待って、本当に待って! えっ、壁ッ!? あれっ!? いつの間に追い詰められてたの!?」
ドンっと何かに背中から激突し、驚いた俺は振り向いてそれの存在を確認する。
それは、壁なんかではなく、なぜか上に大量の本を乗せた棚であった。
その棚はぶつかった拍子に大きく揺れた。
上から本が雪崩れ落ちる。
「ど、どわぁぁぁあっ!?」
一冊は後頭部を強打し、もう一冊は仰け反った俺の額を直撃した。他の本もドサドサと俺の上に降ってくる。
――そして、ついに俺は本に埋もれた。
「……ぷはぁっ! うぅ、酷い目にあった……」
バッと、呻きながら本の山から顔を出した俺を優しくふわふわが撫でてくれる。
「かぁー、かぁー」
「ん、ありがとよ。にしてもなんでこんなに本乗ってんだろうな?」
「かぁー?」
腕を組み、目をつぶりながら頷き続ける俺には見えない。大きな翼を広げ、それで俺の頭を撫でてくれる可愛い(大き以下略)鴉なんて、見えない。
「……はぁ、いい加減現実を見るか。怖いけど」
俺はゆっくり目を開き、紅い瞳をじっと見つめる。すると、鴉は居心地悪そうに身じろいだ。
「なぁ、おまえはなんなんだ? 俺の影から現れたってことはおまえはなにか俺と関係があるのか?」
「……かぁ、かぁ」
「……」
……あ、あかん、なんもわからん。
って、そりゃそうか。鴉の言葉がわかるとか、普通じゃありえないもんな。すでにこの場所自体が普通じゃないとかは知らないし、考慮しない。
「よし、質問を変えよう。おまえは俺の言ってることがわかるか? わかっているなら、一つ鳴いてくれ」
「かぁ」
うん、俺の言葉は通じるけど、向こうの言葉は通じないか。やりづらいなぁ……。けど、どっちも意思疎通できないよりはよっぽどいいか。
「おまえは、おまえ自身がなんなのかわかるか? さっきと同じ、わかるなら一つ、わからなければ二つ鳴いてくれ」
「かぁ、かぁ」
ううむ、鴉本人(本鳥?)もわかってないのか。てことは、現状こいつのことはなんもわかんないってことに……。うん?
「あっ、ちょっと待っててくれな」
「かぁ?」
そうだわ、俺、英名ノ瞳持ってたな。使えるかもしれない。改めて思うけど、これほんと便利。不思議なものとか、よくわからないものすらわかるしな。これさえあれば敵いなくね?
調子に乗りながら鴉に視線を合わせ、何かが見えるように少し目に力を入れる。
と、文字が浮き上がってきた。
使い魔 影鴉
属性
ユニーク『影』
ギフト
――
称号
楓の従者
「んん? 使い魔……なのか。影鴉ってのは種族か? で、属性は影。まあ、影から出てきたもんな。しかし、称号の『楓の従者』ってのはなんだ?」
「かぁー?」
うぅん、俺の従者ってことだよな。鴉なのに従者? ……この辺は考えても無駄か。なんにせよ、使い魔ってことは、これからいろいろ助けてくれるのだろう。長い付き合いになりそうだ。ところで……
「おまえ、名前はないのか?」
「かぁ、かぁ」
名前はまだ無いらしい。名無しはさすがに不便だな。まさか影鴉って種族名で呼ぶわけにもいかないし。
「名前、俺がつけてもいいか?」
「かぁっ!」
どうやら嬉しそうだ。しかし、鴉の名前か。考えたこと無いぞ……ってか、何かに名前をつけること自体初めてだ。うぅん、鴉、からす……クロウ、レイヴン……よし、これで行こう。ちょっと安直かもしれないけど、そのまんまよりかはマシだろう。
「それじゃあ、俺はこれからおまえのことをイヴって呼ぶことにする。よろしくな、イヴ」
「かぁ!」
いきなり現れたデカ鴉に追いかけ回されたり、本に埋もれたり、撫でられたりと散々な夜だったが、何はともあれ、俺に新しい仲間ができた。
「――ってことで、俺、影の中に鴉飼ってたみたい。いやぁ、びっくりだ」
「それはこっちのセリフだよッ!?」
「ちなみに名前はイヴだ」
翌朝、俺は魔王城の一般食堂でアイリスと共に沢山の魔王軍兵士に物珍しげに観察されながら朝食を取っている。魔王のくせに、なぜか大衆と一緒に食事をとっているアイリスに、不思議に思って尋ねてみると、一人で寂しくご飯を食べるよりもみんなでワイワイ食べたほうが楽しいし、みんなの士気も上がると一石二鳥だかららしい。
そして、アイリスは机をバンッと叩き身を乗り出していた。
「え、なに、鴉!? で、使い魔ッ!? なんだろう、すごい良いことで嬉しいはずなのに、キミの力が増えて心配が減るはずなのに、それよりも前にものっすごく悔しい! あんなに頑張って使い魔召喚したのに!! それに魔法陣も無しで召喚してるしッ!! あと名前あれだね、地味にイイねッ!」
「地味とか言うな。あと、そうそう使い魔。それについて教えてもらえるか? 昨日の説明より、もうちょい詳しく。こいつ、精霊でも悪魔でも無さそうだし、俺の影に住んでるし」
「あああッ、もうッ!! 私の話はまったく聞かないしぃ!!」
「まあまあ、落ち着けって」
「フゥ、フゥゥゥううう……はぁ、いいよ、使い魔ね」
ようやく落ち着いたアイリスは椅子に座り直し、朝食に手をつけながら話す。
「とりあえず昨日言ったことは省くよ。昨日は精霊と悪魔についてしか言わなかったけど、それ以外の使い魔もいるんだ。まあ、そういうのは基本的に使い魔とは言わないんだけどね。普通の動物と心を通わせる人もいるし、死霊を従わせる人もいる。彼らはそれぞれテイマー、シャーマンと呼ばれる。で、まだわたしは見てないからなんとも言えないけど、キミの鴉はおそらく、それらとも違うだろうね」
「結論、イヴはなんなんだ?」
「わたしは、その鴉はキミの魂魄の一部だと思う。影は元来、もう一人の自分や別世界、表と裏の裏側という概念を持つからね。そうなら、キミの影に住むことも納得できる」
「なるほどなぁ、俺自身……か」
正直、難しくてあまりわからなかったが、イヴは俺の別の側面なのかな。昨日出会ったときはそんな感じは一切しなかったけど。これから分かっていくのかな。
にしても、英名ノ瞳も万能ではないな。過信しすぎるとそれ以外の情報で俺の身を滅ぼすかもしれない。油断は禁物ってな。
「一旦この話は終わりにしよう。早くご飯食べないと訓練に遅れるよ?」
「え、もうそんな時間か。結構時間あったのに、話し込んじゃったな」
そうだった、今日から本格的に戦闘訓練と魔術の勉強が始まるんだ。初日から遅刻とか、教官にどやされるじゃ済まなそうだ。
俺は急いで朝食を掻き込むと、訓練場に向けて歩き出した。