表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/10

七話 正体

「――って感じのステータスだった」

「それはまた……すごいもんだね……」


 アイリスに俺の見たもの(ステータス)を説明すると、びっくりというか、しみじみというか、なんにせよゆっくりとそう呟いた。


「そっか、『影』よりも上の属性なんだ。……キミは本当にわたしを驚かせてくれるねぇ」

「……なんか、悪い」


 少し呆れた、というような表情で半眼になって見つめてくるアイリスはふぅ、と軽く息を吐く。


「まあ、すごいステータスだし、文句なんてないんだけどさ……

 それにしても、英明ノ瞳に属性支配か。どちらも聞いたことない……かな。聞いた限りでは、英明ノ瞳は言わずもがな、属性支配もだいぶいいギフトみたいだね。

 英明ノ瞳で分析と情報収集、属性支配で直接戦闘とその他の応用か。極めればどちらもキミの武器になりそうだね」

「そうだな、それは本当に助かる。この世界はなんか、物騒な気がするしな」


 ところで、と一言。


「キミは、どうする?」

「……どうする、とは?」


 いや、わかっている。アイリスが何を言っているかなんて。わかってて、問い返した。

 

「わたしにはキミが必要って言ったよね。けれど、キミがここにいる、いなきゃいけない理由なんてない」

「……」


 そう、俺にはここにいる理由がない。強いて言えば、他に行くところがないってことくらいだ。

 話を聞いた限りではこの優しい『魔王』の力になりたいとも思う。だからここにとどまり協力したいとも思う。

 けれど、俺は一度そうやって信じ、失敗している。だから、手伝うにしても、自分の目で真実を確かめたい。


「……悪い、まだ、決められない。アイリスが言ってることが正しいとしても、俺は自分で見てから決めたい」

「……そっか。じゃあ、見てくるといい。全てを確かめてから、決めるといい」


 やはり優しく、俺に言う。


「けど、今すぐには行かせられない。しっかり自分を守る術を学んでからだね。それぐらいの面倒は見るからさ。」

「……ありがとう」


 まだ決められずに、これから敵につくかもしれない俺のために、戦いの訓練をしてくれるという。

 本当に、優しい人だ。

 そして、アイリスは急に心配そうな顔になる。


「一年。それが人族が本格的に攻めてくるまでのタイムリミットだ。それまでにキミは戦える力をつけ、選択しなければならない。私たちとともに戦うか、人族につくか、どちらにも肩入れせずに自由に生きるか。……すまないけど、どれかを切り捨てる覚悟だけはしておいてくれ」


 ああ、恩人にこんな顔させるわけにはいかないな。

 俺は自分にできる限り、不敵に見えるように笑った


「……ああ、わかっているさ」

「……ぷっ」


 いきなりとても愉快そうに笑いだす。


「え、ちょなんで笑う!?」

「いやだって、気づいてないの? ものすごくおかしなカオしてたよ」

「まじか……全力でカッコつけたのに……」


 結構本気で落ち込みながら顔に手をやり空を仰ぐ。室内だから天井しか見えないが。

 しょうがないなぁ、と苦笑交じりにアイリスが俺に手を伸ばす。

 

「ほら、改めてこれからよろしくね」

「……ああ、こちらこそ、よろしく頼むよ」


 視線をアイリスに戻し、こちらも笑いながら差し出された手を握る。しっかりと、感謝の念が伝わるように。








 いつの間にか周囲は暗闇に染まり、ここには窓から入る月明かりしか光源がない。俺は割り振ってもらった部屋のベッドで横になり、眼を閉じて思考の海におぼれる。




 ――明日から、一人で生きるための訓練を始めるわけだな。魔術についても、アイリスが折を見て教えてくれるって言ってたし。


 ――そういや、改めて考えると、もう帰れないんだよなぁ。やっぱりちょっと寂しいな。未練がないわけでもないし。希美には悪いことしたな。やっぱ怒ってるかな。

 

 ――この世界にはどんなものがあるんだろう。おいしいごはんとか、きれいな景色、感動する光景とかあったらいいな。


 ――なんにせよ、生きるために必死になんなきゃ、俺なんか簡単に死にそうだな。せめて、誰の役にも立たずに死ぬようなことになりたくないなぁ。




 特に、理由があるわけではない。ただ、ふと窓の外が気になった。

 外をのぞくとそこには、地球で見たものよりもよほど大きく、また蒼い月が空に穴をあけていた。


「嗚呼、月はどこでも輝くんだな。いや、ここは地球じゃないみたいだし、あれも厳密には月ではないのかな」


 蒼銀に光り輝く月を眺め、一人。


「……あの月にも、兎っているんだろうかね。まんまるで、きれいなあれの上で、きっと餅つきしてるんだろうな。








――なあ、お前はどう思う?」


 振り返り、言う。そこにはもちろん、誰もいない。




 ――否、月明かりに照らされた俺の、がある。


 それの頭部には、爛々と輝く二つの紅があった。


「俺をずっと見ていたのは、お前か?」


 平面だからよくはわからない。けれど、それはうなずいたように見えた。


「やっぱり、そうか」


 英明ノ瞳のおかげだろうか、この影を認識することができた。やっぱりステータスってのは偉大なんだな。

 俺は静かにひざを折り、影に手を伸ばす。影ももちろん、同じように手を伸ばす。未知、不可思議に対する恐怖なんて、その時だけは微塵も感じなかった。


「お前は…………」


 ゆっくりと、しかし確実に、二つの手は近づいていく。

 そして、俺と影の手のひらが重なった。


 刹那――


「うわっ……!」


 激しい力の奔流が俺を、この部屋すべてを駆け巡る。カーテンは強くはためき、本は吹き飛び、グラスは甲高い音とともに割れ、中身をぶちまける。

 そのエネルギーの波に耐え切れず、俺はついに、もう片方の手で顔を覆う。


「……っ!?」


 腕で隠し、目を閉じたのに感じるほど、すさまじい光が目の前で荒れ狂う。まるで、一瞬のうちに太陽がこの場に現れたかのような、それほどまでの煌めき。

 そして、それは唐突に止んだ。

 影についていたはずの手にはいつの間にか、肌触りのいい滑らかなものが触れている。


 俺は腕をどけ、ゆっくりと目を開いた。そこには――


「……カァーッ」

「……え」


 少し、いや大分大きめの、影色、紅眼のからすが、居た。



 ごめんなさいっ!


 忙しいのでこれからの更新は不定期になります。

 ふとした拍子に覗いてくださるとうれしいです。


 それでは、また次回!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ