六話 ステータス
説明回です。
今回はいつもよりさらに文字数少ないですがご容赦ください。
コツコツと、二つの足音が長い廊下に木霊する。
「ところでさ」
「うん?」
移動中、俺は結局、クレアに聞けなかったことをアイリスに尋ねた。
「魔術について、教えてくれないか?」
「唐突だね…… キミ、魔術のこと知ってるじゃないか、何を教えればいいんだい?」
「魔術は魔法の改良、魔力を用いる、詠唱が必要。
俺が知っているのはこれくらいなんだ。だから、もうちょい踏み込んで教えて欲しい」
これだけなはずがない。この世界を構成する、とても大切な要素のはずだ。それについての知識が、こんなにも少ないわけがない。ならばこそ、もっと多く、もっと深くまで、俺は知りたい。
それがいつか、俺の命を救うことになるだろうから。
「それだけ知っていたら十分な気もするけどな。……わかったよ。それじゃあ、魔王の魔王によるキミのための魔術講義を始めよう!」
と、どこかの大統領の言葉のようなものを言うと、語り始める。
……なんでそのフレーズ知ってるねん。
「魔術とは、魔力を使い、儀式を用いて行われる一種の奇跡と、その技術のことだよ。
世界に対して、自分の望みを反映させる。それが魔術の根源となる魔法だ。
ただ、それを使うことができるほどの、多量の魔力を操れる者はごく少なかった。
そのため、誰にでも使え、魔力の使用量も少なくて済む魔術が繁栄したんだね。」
「魔術を使える者は本当にたくさんいる。けれど、真の意味で『扱える』者はそれほどいない。人族の中に一握り、わたしたちのような妖狐、エルフ族や魔族、妖鬼、吸血鬼。これらが一例かな」
一度話を切ると、アイリスの右手の魔法陣が輝き、手のひらの上に闇色の球体浮かぶ。
「この魔術はそのまんま属性魔術と呼ばれる。
魔力を属性に変換する魔術だね。自分の適性属性は扱いやすいし、まず属性魔術自体が制御しやすいから初心者でも使え、極めれば何よりも『器用な』魔術と言える。
ちなみにこれはわたしの適性、暗黒属性の魔術だよ。他のも使えるけど、やっぱり使いやすいからね」
つぎに、とアイリスはつぶやき、その黒い玉を消し指先に同じく黒い光を灯すと、その光で空中に簡単な魔法陣を描き出した。
「魔法陣は知っているよね。これを道具に付加するのが刻印魔術。刻印魔術で作られた道具を使うのに詠唱は必要無いから便利で結構使われてるね。
これを用いて別の場所にある、もしくは居る物体や精霊、幽霊や悪魔、動物に魔物とかを呼び出すのが召喚魔術。召喚魔術は使用者の技量が低いと召喚者にやられちゃうから、使う人は基本的に強いかな」
アイリスは虚空に描いた魔法陣に魔力を注ぐ。魔法陣は淡く光る。すると、その光すら飲み込んでしまうかのような、暗闇よりなお黒いネコが飛び出てくる。
ネコはアイリスの身体をよじ登り、肩の上でくたっと力を抜く。
「この子はわたしの使い魔、クロ。使い魔は召喚魔術でいつでも呼び出せるように契約した被召喚者のことだね。精霊や悪魔とかは、ずっと呼び出したままだとどんどん力を失っちゃうんだ。だから送還して、また来てもらえるように契約するってわけさ」
「精霊とか悪魔はどこにいるんだ?」
「精霊界、悪魔界。そう呼ばれる場所があるんだ。基本的にはそこに住んでいるよ。簡単には行けない場所であるからこそ、召喚魔術で呼ぶのさ」
なるほど、と納得した俺にアイリスの肩のネコがにゃあと鳴く。
触れてもいいか、と意味を込めて見つめるともう一度にゃあと。かまわない、と言われたような気がした俺はおそるおそるネコに触れる。その毛はさらさらで、とても撫で心地がよかった。
クロをなでていたらどこから取り出したのか、アイリスは銀のナイフを手に持つ。
「これから使うのは錬金術と言って、物質の形を変える魔術だ」
アイリスの手の中のナイフが光り輝くと、形を変えて細いエストックになる。
「使い道がたくさんあるから便利な魔術として出回ってるね。石からナイフを作ることもできるし、生木から完全に水分を蒸発させることもできる。生活にもよく使われる魔術だから属性魔術のつぎにポピュラーな魔術だね」
「……俺にも使えるようになるのかな」
「そうだね、才能やギフトも大事だけどやっぱり一番は努力かな」
「……それもそうか」
努力は人を裏切らないというが、本当にそうであろうか。少なくとも俺はそうは思えない。
けど、魔術に興味あるし、少しくらいなら努力してもいいかな……
そう思い、ふっと気を緩めた俺は気が付く。
――また、誰かに見られているな。
振り向くが、やはり誰もいない。本格的に自分がおかしくなったのかと焦る。
「どうかしたのかい?」
「……いや、なんでもない」
それの正体に気づくまで、そう時間はかからないだろうな。
確信めいたそんな予感が俺の中を走った。
「久しぶりだな、ここに入るのは」
と、アイリスはつぶやく。
そこは少しせまい、
開いた扉の奥には青みがかった丸い球と、それの向こう側に立つアイリスが見える。
「おいでよ、キミにやどる、魂の力を調べよう」
「……」
その部屋はそこはかとなく勇者召喚の間に似ている。雰囲気というか、なんというか。
俺はその部屋に踏み入り、はやる心を抑えながら一歩一歩進み球の前に立つ。
「手をかざして、キミを見て」
緊張、しているのだろうか。うまくアイリスに言葉を返すことができない。
これからもう一度、俺は自分のステータスを見る。何もないかもしれないし、何かあるかもしれない。
知らなければよかったと、後悔する日が来るかもしれない。
けれど、知ったことか。俺はここで、生きる。
それだけだ。
一つ大きく息を吸い、ゆっくりと吐き出す。
俺は意を決し、球の向こうをのぞき込んだ。
深秋楓
属性
ユニーク『影月』
ギフト
『属性支配レベルⅠ』
『英明ノ瞳レベルⅠ』
称号
勇者の影
……ある。ステータスが、ある。
その現実をしっかり噛みしめ、そのあともう一度それら、ステータスをにらむ。
どれもどういうものなのか、名前だけでは全くわからない。けれど、なぜだろうか。自分には『これ』が出来ると、はっきり理解した。
『英明ノ瞳』という文字の羅列に意識を集中すると、文字の上に、文字が重なって表れる。
『英明ノ瞳……所持者に、ものを理解する瞳を与える。また、これは文字となって表れる。理解できる範囲はレベルによって異なる。
所持者は、ギフト“鑑定レベルⅤ”以外で属性、ギフトを確認できない。これは所持者が英明ノ瞳を自覚していなくても発動する』
文字を読み進め、気づいた。これか。俺の属性とギフトがわからなかったのはこれが原因か。自覚していなくても発動するってことは、あるだけで影響を及ぼすんだろう。
『鑑定』というのはわからないが、おそらく、この
視魂石、『解魂の魔眼』にはそれのレベルⅤがあるんだろうな。
そう思い、石に注意を向ける。
解魂の魔眼
属性
無
ギフト
『鑑定レベルⅤ』
……ステータスが見えるのかよ。しかも、名前もわかるのか。俺が自分のステータス見たときは名前は載ってなかったからな。
物の場合は称号はないのかな。けど、属性とギフトはわかるのね……
……もしかしなくても、大分チートっぽいな、これ。
内心で驚き、顔に出さないように気をつけながら今度は『属性支配』に眼を向ける。
『属性支配……所持者に、所持者のもつ適性属性を支配し、操る力を与える。威力、応用力はレベルによって異なる』
……適性属性の支配? 俺だったら、影月って属性を自由に操れるのか? ……いや、応用力はレベルで異なるのか。じゃあ、最初から何でもできるってわけじゃなさそうだ。
……けど、魔術を使わずに最終的には何でもできるようになるってことは、そりゃもう『魔法』だな。
なんだろう、めっちゃチートっぽい。……なんかさっきも同じようなこと思った気がするけど、気のせいだろう。
「……? 冷や汗なんかかいて、どうかしたかい? まさか、ステータスまたわからなかったの……?」
「い、いや。わかるんだけど……」
歯切れ悪く答えながら最後に『影月』を見つめる。
『影月……ユニーク影とユニーク月光の統合上位属性。また、月光によってできる影を扱う場合、威力が増加する』
……ってことは、属性支配で『影』と『月光』を操れるわけだ。それに、月夜に影を操ると火力が上がると。
ああ、だめだこれ。
全部がっつりチートですわ。
「ねえ、本当に大丈夫? 顔色がみるみる悪くなってるよ……?」
「大丈夫、ちょっと現実から全力で目をそらしたくなっただけだから」
顔を青ざめる俺を心配してくれるアイリスにどう説明したもんかと、大きくため息をついた。
わりとつおい。
次回は火曜日の予定です~
それではまた次回!