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三話 鑑定、そして……

 はいどうも、楓です。

 現在、暗い階段を下っております。長いなぁ、十分くらい下りっぱなしだぞ。


「……質問、いいですか?」

「おお、構わないぞ。なにが聞きたい?」

「魔術、とはなんなのですか?」


 そう、俺はさっきクレアが見せてくれた光のことを、どうしても忘れられなかった。


「魔術か、我は専門家ではないからな。あまり詳しくは期待しないでくれよ?」

「大丈夫です、さわりだけでも知りたかっただけですから」

「そうか。では、話そう。まず、魔術とはいにしえにあったとされる『魔法』を誰にでも使えるように改変したものと言われる。

 魔法はなんでもできたが、使える者が著しく限られていたのだ。だから、魔術という汎用性の高いものが発展したと言われている。

 魔術はなんでもはできないが、誰にでも使えるからな。


 次に、魔術の行使に必要なものだな。これは魔力と呼ばれる。空気中にある魔素というものを取り込んで変換したものだな。これを一息にどれだけ使えるかで魔術の強さが変わる。これの量で魔術の使える量が変わる。

 要するに、魔術師の強さに直結するエネルギーだ。


 魔術には詠唱が必要だ。詠唱とは、体内の魔力を行使するための簡易的な儀式のことだ。

 基本的には『魔術の種類、属性の決定 形状の決定 目的の設定 魔術名』と、このように詠唱するな。魔力のロスが一番少なく、発動までが速いのだ」


 なるほど、クレアの魔術もそんな感じだったな。


「こんな感じで良かったかな?」

「はい、よくわかりました。ありがとうございます」


 話が終わり、顔を進行方向に向ける。


……お? なんか見えてきた。石でできた重そうな扉だ。……開くのか、これ?


「……着いたな。ここが『勇者召喚の間』だ。この部屋の中でカエデ殿たちを召喚した」

「着いたのはいいんですけど……どう開けるんです、この扉?」

「まあ、見ておれ」


 そういうと国王は扉に近づき、右手をかざす。


「いにしえの王よ、我が紋章に従いて、道を記せ。『解宝』」


 国王のかざした手の甲に幾何学的な模様が浮かび上がる。青白く輝くそれと同じ紋章が扉にも現れ、ドアが重い音を立てながらゆっくりと開き始める。これもまた魔術の一種なのだろうか。まったく、この世界は退屈しないな。


「それは……?」

「代々のエヴァリエ国王に伝わる、宝庫を開けるための刻印魔術だ。この間も宝庫の一つだからな。詳しくは後でクレアから聞いてくれ。あやつは王国立の学校を卒業しておるから、我より詳しく魔術について話してくれるはずだ。さて、中に入ろうか」


 話している間に開ききった扉から中に入る。中には青白い染料で魔法陣が描かれていた。……大きいな、軽く直径十五メートルはあるぞ。

 魔法陣の正面までくると国王は説明を始めた。


「この魔法陣が『勇者召喚の儀』に使う術式だな。これはここに大昔からある魔法陣でな。なんでも我が王国ができる前からあったらしい。要するに、古代の術式という訳だ。」


 ……古代の術式、か……確かにだいぶ古く見えるな。しかし一つのほころびもかすれて見えなくなったりもしていない。これも魔術の一種か。


「だから、送り返すにもまた古代の術式が必要となる。だが、この術式と対となる魔法陣のスクロールを魔王に奪われてしまってな……」

「奪われた……ですか……魔王とはどんな存在なんです?」

「それを説明するにはこの世界の歴史から話さねばならないな」


 国王は部屋の隅にある椅子に腰掛け、俺に椅子を勧める。

 椅子に座った俺は説明を求める。


「……教えてください。どうして俺はここに呼ばれたのですか?」

「……この世界には大きく二つの大陸がある。我らはそれをアガルタ、ラグナと呼ぶ。我ら人族の住む大陸はアガルタ。それ以外の種族が住むのがラグナだ。


 数千年前、この二つの大陸は一つで、人族とそれ以外の種族も仲良く暮らしていたらしい。この術式もその時のものだな。そして、大陸は二つに割れ、数が多い人族とそれ以外の種族で別れた。それが大体七百年前だと言われているな。この時に失伝したものを古代のものと呼んでいる


 そのラグナが二百年前からアガルタに攻め込んできているのだ。そのラグナの王が、魔王と呼ばれているものだ。10年前、人の英雄がその命と引き換えに致命傷を与えたおかげで今は攻められていないが、あと1年で完全に復活すると予言された。

 ……召喚なんてものは使いたくなかったのだが、我々としても追い詰められてしまったのだ。どうか、我らに力を貸してほしい」


 ……くそっ、なに考えてやがる。俺は格闘技をやったことすらないただの一般人だぞ。戦えるわけなんてないだろうが。しかし、送還の術式は魔王が持っている。やらなきゃずっとここで暮らさなきゃいけなくなるのか。……ちくしょう、こういう作り話ならチートの一つや二つくらいあるよな……それにかけるしかないか……

 苦虫を噛み潰したような顔で俺は喉から言葉を絞り出す。


「……わかりましたよ、やればいいんでしょう。どうせ、やらなきゃ帰れないようだし」

「ありがとう……」


 その返答が満足いったのか国王は笑顔を浮かべた。

 なぜだろう。俺が苦い思いをしていたからだろうか。その国王の笑顔にはやはり暗い影があるように見えた。








 俺と国王は謁見の間に戻った。そこには国の重鎮たちだろうか、高そうな着物を身にまとったおっさんたちが並んでいた。

 中央には透明な水晶のような丸い石が布の上に大事そうに置かれており、そのわきには二人の女性と一人の青年が人物が立っていた。女性の一人はクレアだ。

 もう一人の女性は青いドレスを着てショートカットのブロンドの髪を躍らせている。年はクレアより少し上だろうか。顔だちも似ているしきっと第一王女だろう。

 青年は洋風な顔だちをしている。茶色い髪とこちらも茶色い瞳を持つイケメンだ。うん。あれがもう一人の召喚者、ベラード・セルマンか。年のころは大体俺と同じか。確かに気のよさそうな人だな。……ただ、なんだろう。なにか変だ。目に光がともってないというか、目が死んでるというか。

 そう見えたのは一瞬で思った次の瞬間には彼は柔和な笑みで俺に笑いかけていた。……気のせいか。


「やあ、初めまして。カエデ君のことは聞いているよ。僕がベラード、ベラード・セルマンだ。よろしく頼むよ」

「私はエヴァリエ王国第一王女エレーナ・エヴァリエと申しますわ。ご挨拶が遅れたことをお詫びいたします。私からもよろしく申し上げますわ」


 青年ともう一人の女性は俺に歩み寄る。


「俺がカエデだ。こっちも君のことは聞いている。こちらこそよろしく頼む。エレーナさん、クレアにはお世話になっています。よろしくお願いします。ところで、この石はなんですか?」

「それは視魂石と呼ばれる古の宝具です。その人の持つ属性とギフト、称号を確認することができます」


 クレアが答える。属性にギフトか、詳しくはわからないがマジでそういうのあるのか。ファンタジーだなあ。


「すまない、クレア。属性、ギフト、称号について教えてくれるか?」

「はい。属性はその人の持つ魔力を放出する時にとる形の適正ですね。火属性なら火を、水属性なら水を形作ります。自分の属性以外も作れなくはないですが、威力は激減します。

 属性には下位属性と上位属性があり、下位は火・水・風・土、上位は雷・氷・白・黒があります。他にもユニークと言われる、基本八種以外の属性も、少ないですがありますね。まれに複数属性を持つ人もいて、ダブルやトリプルと呼ばれます。ユニークはそれ以外の属性を指します。

 ちなみに私は氷と白のダブルです。白は光と回復を司る属性です。


 ギフトとはその人が生まれつき持つ特別な才能のことです。『神さまからの贈り物(ギフト)』を略してギフトと呼ばれます。

 これを持つ人は極少数で、どれもとても有益とされます。害を及ぼすギフトもあると言われますが、確認されていません。


 称号はその人を表す言葉です。私なら『エヴァリエ王国第二王女』となります。基本は『〇〇と◻︎◻︎の息子』などですね。


 以上の三つをまとめてステータスと呼びます」

「属性ってのは誰でも持つのか?」

「はい。例外なく誰しもが何かしらの属性を適正に持ちます」

「今の俺やベラードにもステータスはあるのだろう? その自覚は全くないんだが?」

「ステータスは自分で確認するまでその能力を表には出さないのです。なので、もちろんお二人にも備わっていますが、ご自身ではわからないのです」

「レベル……技量を数字で表したものとかはあるか?」

「いえ、そういうものは無いですね。ですが、ギフトには階位(レベル)があり、その数字で技量を表すそうです」


 ……なるほど、自分で自覚するまで発動しないと。どおりで自分が勇者とか言われても実感わかないわけだ。

 属性とギフトね、ファンタジー物のやつとほとんど一緒か。ギフトってのはスキルみたいなもんでギフトにレベルあり。本人のレベルやパラメータは無しね。

 魔術とか技術はギフトで生まれつき持つか、あとは練習や鍛錬で習得ってことになるのかな。


「あ、そういえば、クラスってのはなんだ? クレアは確か魔剣士とか言ってたけど」

「クラスはその人の出来ることを簡単に表したものですね。魔術が使える剣士で魔剣士という具合です。

どんな武器を使っても、騎士は『守る』ことは変わらないので騎士と呼ばれます。大抵は自称なので、本質は全く別ということも多くありますね」


 ……クラスって自称かよ。気にして損した気がする。


「わかった、ありがとう。それで、その石があるってことは俺とベラードを鑑定するってことか。なら、なぜこんなに沢山の人がいるんだ?」

「それは我から説明しようか」


 横に立っていたはずの国王がいつの間にか視魂石の近くまで移動していた。


「ここにいる者はみな、この国を支える貴族の中でも高位の者たちだ。これから行うのは勇者のお披露目ということだな。では、始めようか。ベラード、前に」

「僕からですか、少し緊張しますね」


 視魂石を挟み、ベラードと国王が立つ。ベラードは緊張してると言いながら表情らしい表情を浮かべない。固くなってるとは少し違うようだが。


「どちらでも良い。手を視魂石にかざせ。さすればその石の向こう側に文字が浮かび上がる」

「わかりました、では」


 ベラードは視魂石に手をかざし、石の中を覗き込む。


「……属性は『聖光(せいこう)』と『白炎(びゃくえん)』、ギフトは『技能の叡智(アーツ・ノート)』のレベル(ファイブ)で、称号は『聖炎の勇者』ですね」

「おお! ユニークのダブルにギフト持ちか! しかも聞いたことの無いギフトだ。唯一無二の物だろう。

 さらに、初期からレベルⅤなんてありえない。五十年それのレベルをあげることに全力を尽くした人が持つレベルだぞ。

 それに、聖炎か、『魔』に対抗する勇者殿にぴったりの称号だな。流石は勇者殿だ。とんでもない属性にギフトだな。これは、カエデ殿にも期待が持てるな」


 周りにいたお偉いさんたちも大きな声で驚き、一瞬でざわつき始めた。

 すげぇな。多分これ、世界最高クラスのステータスなんだろう。ここまですごくなくてもいいから、それなりのステータスだと助かるんだが……

 国王はざわつく周囲を一瞥し、黙らせる。


「さあ、カエデ殿、視魂石の前へ」

「はい、わかりました」


 視魂石の正面に立ち、一つ息を吐く。

 息を整え、手をかざす。



 ジジ……ジ……――


 

「どうかしたのか、カエデ殿?」

「いえ……なんでも」


 何か違和感を感じたが、構わず続ける。

 俺は石の向こうを見つめた。




  深秋楓


  属性 

  ――


  ギフト

  ――


  称号 

  『勇者の影』




「見えたか?」

「見えたには……見えましたが……」


 え、これまずくねぇか? なんも書いてないぞ……? どういうことだ?

 一つだけわかることといえば、こんなステータスなんて、一般市民にもいないだろうってことだけか。


「おお、そうか! では教えてくれ。カエデ殿のステータスはどうであった?」

「ええと、属性、ギフトともになしで、称号は『勇者の影』……です」

「……なし?」


 …………おかしいな、なぜだか嘲られているように感じる。

 周りを見ると、みな驚き、そして馬鹿にしたような笑みを浮かべる。

 おい、まずいぞ。なんか知らんがこれは、本当にまずい。


「……ふふふふっ」

 ヤな予感がした俺は振り返った。

 俺はそこに――












 「……ふふふっ、くふふふっ、キャハハハッ、無し? ねえ、無しですか? そんな人本当にいるんですねえ……勇者サマ? どうしました? 青い顔なんてしちゃって。そんなにも御自分が『雑魚』で、そんなにも御自分が『小物』で、絶望しちゃいましたか? 確かに『使い道』なんてないでしょうしねえ、そんな塵芥のようなステータスなら。……ああ! ありましたよ、勇者サマの使い道! 称号通り勇者ベラード様の『影武者』になればいいんですよ! それなら無駄死にせずに済みますよ、勇者サマ! よかったですねえ…………ねえ?」




 ――青いはずの瞳に黒い侮蔑の色を浮かべ、少女――クレアが口元を歪めるのを見た。

 腹黒姫様ご降臨。

 お読みいただき、ありがとうございました!


 これからは二日か三日置きに更新しようと思います。

 とりあえず、次話は月曜の八時の予定です!

 お楽しみに!

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