二話 現状把握
一話だけで二百pvも頂きました!
感謝感激雨あられです!
昨日に引き続き投稿させていただきます。
楽しんで頂けると嬉しいです。
「私はクレア・エヴァリエといいます。ここ、エヴァリエ王国の第二王女をしていますが、気軽に名前でクレアって呼んでくださいね。
種族は人族で、十六歳です。好きな食べ物はクルカ鳥とハリビエの包み焼で、とってもおいしいんですよぉー! 好きなお菓子は城下にあるレ・セレアレというお店のケーキとプリンです! 両方甘くてとろけちゃいそうで……考えただけでもほっぺた落ちちゃいそうですぅ。
あ、ここからの景色は見ましたか? このエヴァリエ王城からの景色はとてもきれいで大好きなんです! 趣味はお風呂と剣の手入れです。ここにはおっきなお風呂があるのでいつもゆっくりつかっちゃいます。あ、剣の手入れとか似合わないって今思いましたね? これでも魔剣士のクラスなんですよ、私! しっかり戦えますからね! それに――」
どうも、楓です。
現在、俺は王女様の自己紹介を聞いています。はい、その通りです。おっしゃる通りです。
長いです。若干ウンザリしております。
「す、少し良いですか?」
「――あそこのお店は……はい?」
こちらではなく、どこか遠いところを見ながら話していたクレアに、区切りに合わせて(強引に)話しかけると、ようやくこちらを見てくれた。
急にすごい饒舌になった彼女にすこしパニックを起こしていたが、何よりもまず気になることがある
「いくつか質問をしても構いませんか?」
「……ああっ!? 失礼いたしました! 私ったら自分のことばかり……」
クレアはやっと俺が頭にはてなを浮かべまくっていることに気づいてくれた。
「大丈夫です。気にしないで下さい。自己紹介もまだでしたね、俺は深秋楓といいます。深秋が名字、楓が名前です。
それで、俺はいまだに状況が全く分かりません。説明していただいてもいいでしょうか? それに、なぜ俺はあなたの言葉が理解できるんです?」
そう、このいかにも西欧の姫様ですとでもいうような人の言葉が全て理解できるのだ。日本語として聞こえるわけではないのだが、なんと言えばいいのか、頭の中で俺の理解できる言語に切り替わっているような……
恥ずかしそうに頬を赤らめ顔を手で隠すクレアは説明を始める。
「ううっ、本当に失礼いたしました……あなた様の名前も聞かず……カエデ・フカアキ様ですね、いいお名前です!
それでは、カエデ様に何が起こったかを説明いたします。まず、カエデ様は私たちの行った『勇者召喚』の儀によりこの世界に呼び出されました。言葉が理解できるのも、その儀式の力ですね。そして、ここはカエデ様の住んでいた世界とは別の世界になります」
「はぁ……とりあえず楓様はやめてもらってもいいですか? 大仰すぎて恥ずかしいですし」
「そうですか? ではカエデさんと呼ばせていただきます」
楓様とか一般市民の俺にとっては病院くらいでしか呼ばれたことねえよ恥ずかしい……
それにしても、異世界召喚か。ああ、わかるわかる。最近人気だよな、そういうの。俺もネットで読んだことあるさ。けどな?
う、うさんくせぇ…………だけど、確かに言葉はわかるんだよな……
「カエデさんは召喚された時から気を失っていました。なので、この部屋にお連れして目を覚ますのを待っていたのです」
「待ってください、気を失っていたのはわかるのですが、俺は怪我をしていませんでしたか? あと、服に血がついていたり……」
「怪我、ですか? いえ、ここに召喚されたカエデさんには傷の一つもありませんでしたよ? 衣類も新品のようにきれいなままでした」
「そうなんですか……実はですね、――」
俺は気を失う直前、死にかけていたことを話した。
「うーん、そんな大怪我を負っていたのですか。『勇者召喚の儀』は対象の魂に干渉し、器をこちらの世界に適応するよう、作り変えて召喚する儀式です。なので、器を作り変える時に傷やほつれは修復されます。そして、この『器』とは肉体のことだけではなく、この世界に呼び出されたすべてのもののことになります。だから肉体に怪我は一つも無く、服に血痕が残らなかったのでしょう。ちなみに、言葉が理解できるのもこの時器を作り変えているからです」
……? 何かが引っかかった。しかし、それよりもまずこんなこと信じられない。
「やはり信じられませんか?」
「そりゃあまあ」
「うーん、もう一人の勇者様は姉様があれを見せてたら驚いていましたね……それではカエデさん、私の手のひらを見ていてください」
姉様? 第一王女のことか? それに、もう一人の勇者って言ったか?俺の他にも召喚された奴がいるってことか。
クレアは手を前に出し、手のひらを上に向ける。
「光よ、球を形作りて、ここに顕現せよ。『プチスター』」
つぶやくと、クレアの手の上に暖かく輝く光の玉が浮かぶ。直径は十五センチほどだろうか。
「なっ!?」
なんのきっかけもなく現れたそれは、魔法と呼ぶ他ないだろう。俺は呆然とその光を見つめる。
と、唐突にそれはかき消えた。
「どうでしょう、カエデさんたちの住んでいた世界には魔術は存在していなかったと聞きました。なので魔術を使ってみたのですが、これでこの世界がカエデさんたちの知っている世界ではないということが証明できませんか?」
「……魔術……か」
正直とても驚いたし、こんな危険なものがあるのかと不安にもなった。しかし、それ以上に魔術というものに興味がわく。魔法というものは無いのか? 光以外の魔術はどんなものだろうか? だが、それらは別の機会に聞こう。今は状況の確認が先だ。
「わかりました、とりあえず信じます。ここは今まで生きてきた世界では無いようだ」
「理解していただけて良かったです。それと、私のことはクレアと呼んでください。それに、敬語も必要ありません」
「しかし、王女様に普通に話しかけるなんて不敬罪になるじゃありませんか」
「私がいいと言っているのだからいいのです! お父様も構わないと言ってくださいましたし」
「……わかった、それならいつも通りの口調で話させてもらう。…………っ!?」
さっき自分が何に引っかかったか、わかった。理解した。理解して、息を飲んだ。さっき、この少女は何と言った? 『器を作り替えた』とか言ってなかったか? ということは……
……血の気が引く。手が震える。自分が自分でなくなるように感じる。
俺は、意を決して言葉を紡ぐ。
「待ってくれ。俺は元の世界には――」
そのとき、ノックの音が部屋に響く。ゆっくり開いた扉からメイド服を着た女性が入ってくる。
「クレア様、勇者殿を国王様がお呼びです」
「そう。カエデさんが起きたとどうしてわかったのかしら……まあ、お父様は地獄耳だし考えても無駄ね。わかったわ、ありがとう。カエデさん、話の途中なのですがお父様からの呼び出しです。一緒に来ていただけますか?」
「……わかった」
雰囲気が変わり、引き締まった表情のクレアに連れられ部屋を出る。
さすが王城、廊下も豪華だ。高そうな壺に美しい絵画、重そうな騎士甲冑なんかも置いてある。甲冑の持つ武器は槍と斧が組み合わさった形状をしている。たしか、ハルバートだったか。
……現実逃避気味の俺だが、正直気乗りはしない。きっと王様が『勇者召喚の儀』を行ったのだろうし。こういう大きい(おそらく)儀式は王様の許可とか必要だろうから無関係ではないはずだ。まあ、それを言ったら正面の少女も関係しているだろうけどな。
それに、一番聞きたかったことを聞けなかった。
…………。考えるほどに嫌な予感がしてならない。
「止まってください」
クレアが俺に声をかける。いろいろ考えている間に目的地についたようだ。俺たちは大きな両開きのドアの前に立つ。扉それ自体から威圧感を感じる。この中に王様がいるようだ。
俺に背を向けていたクレアが振り返る。
「ここが謁見の間。文字通りお父様、エヴァリエ国王と面会するための部屋です。国王は部屋の奥の玉座に座っています。フランクな方なので礼儀作法はさほど気になさらないで結構です。先ほど私に使っていたような言葉遣いで十分でしょう。私は間に入りすぐの場所で待機しています。準備はよろしいですか?」
「……はい。いつでもどうぞ」
「それでは……エヴァリエ国第二王女、クレア・エヴァリエが召喚されし勇者、カエデ・フカアキを連れて参りました!」
「……よい、はいれ!」
扉が開く。中に入り奥に進むと煌びやかな服を着た四十代くらいの男が笑みを浮かべて大きな椅子に座っていた。あれがエヴァリエ国王か。いやはやどうして、威厳がある。きっといい王なのだろう。俺はおのずからひざまずき、首を垂れる。
「楽にしてよいぞ。よく来た、勇者殿! 我こそが第十四代エヴァリエ国王だ。勇者殿、名は何という?」
俺は頭をあげ、言葉を返す。
「お初にお目にかかります、異国の王。俺は深秋楓といいます。深秋が名字で楓が名前です」
「おお、カエデ殿か。よろしく頼む。それで、わが娘からはどこまで聞いた?」
「俺に何が起こり、ここが元の世界ではないということまで聞きました」
「そうか、ならば何故貴殿を呼んだのか説明せねばならんな」
「その前に一つだけ聞かせていただきたい」
俺は一つ息を吐き、さっき聞けなかった問いを俺なりに考え、導き出した回答を確認する。
「――俺は、元の世界には帰れないのでしょう?」
いままで笑顔だった国王の顔が、固まる。
「クレアは、『勇者召喚の儀』は器を作り替え、この世界に順応させ召喚する儀式だと言っていました。ということは、このまま元の世界に変えることはまず不可能でしょう。しかし、元の世界に戻るために器を作り替えようともそれはできないはずだ。なぜなら、世界が二つとは限らないのだから」
一度話を区切り、一つ深呼吸をする。国王は真剣な表情のまま動かない。
「もし世界が二つだけなら別の世界を観測し記録すればいいだけだ。別の世界から人を持ってくることができるなら、観測なんてたやすいことだろう。けど、二つ以上なら? 俺の今の器から元の器を調べ、元いた世界を探し出し元の世界に適合するよう作り直し送還する……どう考えても無理だ。できても時間を要する。莫大な時間が。……いかがでしょうか」
話しているうちに固くなった国王の顔が、まっすぐ俺を見つめる青い瞳が、俺に緊張を強いる。
やはりそうか……
目の前が真っ暗になりすこしふらついた俺に、国王は言葉を返す。
「……そうか、そこまで気づいたのか。カエデ殿は聡いな。
少し訂正させていただこう。結論から言うと、まず送還は不可能ではない」
「っ!? それは本当ですか!」
絶望の中に一筋の光が差す。
「しかし、不可能ではないというだけだ」
「……詳しく教えてください」
――俺は今、国王に連れられ地下への階段を下っている。クレアはここには居らず、国王と二人だ。石造りの階段に薄暗い明かりのせいで気温が数度下がったように感じる。
「……クレアは責めないでやってくれ。あやつは儀式のことも正確にはほとんど知らない。この儀式はほぼ我一人で行ったようなものだからな。送還できないということも知らなかったはずだ」
「……そう、ですか。わかりました」
ローファーが石階段を打つ音がコツコツと響く。
ふと、ほかにも気になっていたことがあるのを思い出した。
「そういえば、召喚者は俺だけではないのですか?」
「ん? ああ、言っておらんかったな。勇者殿を召喚するため三日前に行った『勇者召喚の儀』だが、残された記録によると呼ばれたのは全て一人だったそうだ。
だが、今回は二人呼ばれた。一人はカエデ殿で、もう一人の召喚者はベラード・セルマンと言う青年だ。なぜ二人呼ばれたのかはわからないが、何かしら意味があるのだろう」
俺、三日も寝てたのか……それに、普通は一人で今回は二人か。特別と考えるべきか、異例と考えるべきか……まあ、考えても仕方ないな。国王の言う通り意味があるならそのうちわかるだろう。そして、もう一人の召喚者か。同じ世界かわからないけど、同じならおそらく欧米の人だろう。
「カエデ殿に説明し終えたら顔を合わせてもらうだろう。気のいい青年だったぞ。楽しみに待っているといい」
国王はそう言うと、笑みを浮かべた。
その笑みは、何故か、『黒い』と形容できた。
王様めっちゃフランク。
ということで、二話でした。
三話は明日投稿させていただきます。
読んでいただき、ありがとうございました!