一話 始まり
初投稿の新米です。
お気に召すかわかりませんが、最後まで読んでいただけたら幸いです。では、どうぞ。
――俺は、生涯あの夜のことを忘れることは無いだろう。
死に、生き返り、全てが覆った一日の中でも、あの夜だけは忘れるなんて出来ない。
あの『日』は、俺にとって終わりであり、始まりであり、最大の災難であったが、あの『夜』はただただ始まりであり、ターニングポイントであり、全てであった。
あの日、あの夜にあの方に出会えて、俺は幸せだった。
「そういえば、いい加減できたの?」
隣を歩く幼馴染、芦川希美がそう問いかける。放課後、一緒に帰るといつもこの話をする。
ちなみに、学校で話すことはほとんどない。なぜかって?
こいつは男女問わず大人気だからだ。話しやすく、いつも明るくてしかも可愛い。人気がない方がおかしいくらいだな。そんなこいつには友達がたくさんいる。要するに、周りを十数人もの人に囲まれているやつになんか近づけるか。
「ああ、できていないな」
それに言葉を返すのは俺こと深秋楓だ。このランキングとったら学年1位じゃねぇのってくらいの人気者と打って変わり、学年最底辺クラスの認知度の低さを誇る、ちょっとオタクな高校二年生だ。
「もう二年の冬だよ?本当にずっとぼっちのままでいる気なの?」
「いいんだよ、俺が望んで一人でいるんだし」
この話がなんの話かって? 俺に友達がいないって話だよ。
俺自身、クラスのヤツらと気が合わないわけではない。ただ、趣味に生きる俺には一人の方が性に合うのだ。まあ、こいつだけはあまり気にならないから俺の唯一の話し相手だな。
「そっか……」
「おう、だからおまえもそんなに気にすんな」
「そうは言っても、古い付き合いの幼馴染がずっと1人で学生生活送ってるなんて、ほっとけないよ。」
「1人ってのも楽なもんだぞ?人に合わせる必要が無いからな」
「楓にとってはそうなのかもしれないけどさ……」
上り坂につき、会話が止まる。
登りきり、少し息が上がった俺たちを夕日が照らす。
「夕日はいいな、なんか感動する」
「私は、嫌いかな。大切な1日がまた終わる気がする」
「それも一興だ。終わらないものなんかつまらないだろ?」
「そういうものなのかな……」
「俺にとってはな」
ゆったりと流れる時間の中、俺たちは交差点に差し掛かる。俺は赤信号が変わるのを待つ。俺は、待つ。
「おーい、希美、信号赤だぞ」
「……え?」
考え事でもしていたのだろうか。うわのそらで歩いていた希美は横断歩道の半ばまで気づかず進んでいた。ぼんやりとした顔の希美と、希美の珍しい表情に目を奪われた俺は気づかない。
――希美のすぐ数メートル先に、トラックが迫っていることに。
「っ!?希美ぃ!!」
「えっ、キャッ!」
すぐに駆け寄り希美の腕を掴む。こちらに全力で引っ張り希美を安全な場所まで逃がす。反動で自分の身体が前に出てしまったがそんなことを気にしてはいられなかった。
ドッ!!っと、鈍い音が身体に重く響く。
「うぅ……あ……?」
……おかしい、さっきまで立っていたはずなのにいつの間にか仰向けに倒れていた。起き上がろうとしてみても、身体はうんともすんとも言わない。
いっつぅ、身体めっちゃいてえ。視界が霞む。うわ、涙で霞んでんのか、情けない。歯を食いしばり痛みをこらえる。
あたりを眼だけで見まわして何があったかをおぼろげに理解する。どうやらあのトラックに十メートルほど跳ね飛ばされたようだ。しかし、跳ねられた直後の記憶がないということは意識でも飛んでいたのだろうか。まるで時間が切り取られたかのようだ。
やがて降りてきたトラックの運転手は蒼白な顔をして頭を抱えている。
「――……!!……っ……!」
何かが、何かを叫びながらこちらに走ってくる。
あれ、耳もうまく聞こえないな。
近くに来てぼやける視界でもやっとわかった。希美だ。よかった、希美は無事のようだ。これで希美も跳ねられていたなんて冗談にもならないからな。
希美は必死に俺に叫んでいるようだ。
「――えで、かえでぇ!!」
泣いて誰にも見せられないような顔で俺の名前を呼ぶ。
「だい、じょうぶ……だか、ら、し、心配すんな……ゴホッ」
口から鮮血がもれる。どっか内臓傷ついてるかな。いや、潰れててもおかしくないな。腕はちぎれかけているようだ。腕からどくどくと命が流れ出ているのがわかる。
ああ、これじゃあ泣き止まないか。けれど、これ以上口を開くと痛みで悲鳴が出そうだ。
「大丈夫なわけないよっ、そんな沢山っ、血が出てっ……! 私が、もっと、ちゃんと……! 私のせいでっ! ……やだよぉ、死なないでよぉ……もっと、言いたいことも、伝えたいこともあるんだからぁ……」
俺は息を整え、一言呟く。
「……ごめ、んな」
ああ、意識が……遠のく…………
「かえで!? かえ――」
そのまま、俺の意識は闇に沈んだ。
強い光が瞼を照り付ける。俺は鬱陶しいその光を受け目を覚ます。
「…………っ!!!」
俺は飛び起きて周りを見渡す。そこは俺になんか縁もゆかりもない豪華な部屋で、まるでおとぎ話にでてくるお城の一室のようだった。寝ていたベッドも豪華で、ふわふわしている。
「希美は……いない? というか、ここは? さっきまでは屋外だったはずだが……それに、病院にしては派手すぎる。俺の意識がない間に一体なにが……いやまて、おかしい。どうして俺は動ける?」
俺はトラックに跳ねられたはずだ。そして、大怪我をした。文字通り、死ぬような怪我を。しかし、身体を調べてみると、どこにも傷があった痕跡はなかった。
服装は変わらない。見慣れた学生服の上に寒さ対策の厚手のコートを羽織っている。寝てたせいでしわがついているが、跳ねられた直後と何ら違いはない。いや、こちらもついていたはずの血液がなくなっている。
ほんとにどういうことだ?
ほかに持っていたものを探す。かばんは……ないな。くそ、いつもポケットに入れてるのになんで今日に限ってスマホも財布もかばんに入れてんだか。履いていたローファーはベッドの脇に置いてあった。身に着けていたものだけここにあるらしい。ローファーを履き、近くの窓に向かう。
窓から外を眺める。この建物は高いところにあるのだろうか、街並みが見渡せた。だが、とても現代のそれには見えない。中世のヨーロッパのようだ。空に視線を移すと太陽が浮かんでいる。今は昼の二時頃か。ということは日をまたいでしまったのか。いや、もしかすると数日か。
なんだ?あんな大怪我を治すなんてできるのか? それも、傷跡一つ残すことなく……? いや、そもそも俺は死にかけていたはず……大怪我なんてレベルじゃないぞ。こんなの、どうしたって不可能だろう……? それに、ここはどこなんだ? 日本にこんな街並みがあったか? ……だめだ何もわからない。
そう困惑している俺のもとにキィという扉の開く音が届く。
扉からは一人の少女が現れた。まるでドレスと甲冑が組み合わさったかのような服を着て、長いブロンドの髪をたなびかせた、青い瞳のきれいな少女だ。年齢は大体十六くらいであろうか。しかし、身にまとう雰囲気というか、オーラというか、ともあれそれのせいで俺より年上にも見える。
そして、その少女は嬉しそうに顔をほころばせ俺に声をかけた。
「お目覚めですか!?」
「えっと……?」
いまだに状況の読めない様子の俺に、少女は一瞬やってしまったというような表情をしてから自己紹介を始める――
いかがでしたでしょうか。
とりあえず、最初の数話は連日投稿で、その後は二、三日に一回のペースで更新していきたいと思います。
感想を頂けたら励みになり、悪いところは直したいと思いますので、ガンガン批評して頂きたいと思います。
それでは、読んでいただき、ありがとうございました。